Amazon Web Services(AWS)は12月1日から6日にわたり、米国ラスベガスで、年次イベント「AWS re:Invent 2019」を開催した。例年通り、同イベントでは、さまざまな発表が行われた。
日本法人のアマゾン ウェブ サービスが同イベント専用のWebページを立ち上げており、そこで発表内容を確認できるが、その数はおびただしい量だ。小誌でも、CEOのAndy Jassy氏の基調講演、機械学習の統合開発環境「SageMaker Studio」、独自プロセッサ開発などについて、現地レポートを掲載している。
この度、日本法人のアマゾン ウェブ サービス ジャパンが説明会を開き、同イベントで発表された新サービスの詳細を紹介したので、そのポイントをお届けしたい。
技術統括本部 レディネス&テックソリューション本部 本部長/プリンシパルソリューションアーキテクト 瀧澤与一氏は初めに、CEOのJassy氏が基調講演で紹介した、トランスフォーメーションを起こす上で重要なポイントを4つ紹介した。
4つのポイントとは、「シニアのリーダーシップが重要」「トップダウンの決定によりゴールまで進む」「夢を実現でるよう、手を動かす」「難しいもので止まらず、進めるところを探す」だ。これらのポイントが、瀧澤氏は「日本の企業にとっても重要なはず」と述べた。
AWSにとってのトランスフォーメーションについては、「世の中のITシステムのうち、クラウドサービスで稼働しているものはまだ3%しかない。残りの97%は、オンプレミス環境で稼働している。これらをトランスフォーメーションするのがわれわれの役目」と、瀧澤氏は説明した。
続けて、瀧澤氏はAWSの方針について、「われわれは、これからもクラウド・プラットフォームを広く、深く拡大していく」とし、「顧客のニーズをまとめると、われわれがプロセッサまで開発する必要が出てきた」と語った。
「AWS re:Invent 2019」では、仮想化ハードウェア「Nitroシステム」によって、Amazon EC2 インスタンスにおいて、36%高速化されたAmazon EBSの最適化インスタンスをサポートするようになったことが発表された。
Nitroシステムは、ハイパーバイザー「Nitro Hypervisor」、ネットワークやストレージの処理を行う「Nitro Card」、Nitroセキュリティチップなどから構成されている。
瀧澤氏は、機械学習(Machine learning)のサービスについても紹介した。同社の機械学習サービスのスタックは「AIサービス(機械学習の深い知識なしに利用可能)」「MLサービス(機械学習のプロセス全体を効率化するマネージドサービス)」「MLフレームワークとインフラストラクチャ(機械学習の環境を自在に構築して利用)」とに分かれている。
瀧澤氏は、同社の機械学習サービスについて、「ポイントは2つ。1つは、機械学習の深い知識がなくてお利用できるサービスがあること。これらのサービスはAPIを呼び出すだけで使える。もう1つは、独自の仕組みを作りたいユーザーのためのサービスも充実していること」と説明した。
コンピュートに関連した新サービスの中で注目を集めたのが、量子コンピューティングのサービス「Amazon Braket」だ。同サービスは、量子ハードウェアプロバイダ(D-Wave、IonQ、Rigettiを含む)のコンピュータを用いて、単一の環境で実験を行うことができるもの。現時点ではプレビュー版のみ公開されている。
量子コンピュータ関連として、「AWS量子コンピューティングセンター」と「Amazon Quantum Solutions Lab」の創設も発表された。前者は、カリフォルニア工科大学などトップレベルの学術研究機関や、Amazonから量子コンピューティング分野の専門家が結集し、量子コンピューティングの新技術に関する研究開発を共同で行う研究施設だ。後者は、Amazon社内の量子コンピューティング分野の専門家やAmazonのテクノロジー・コンサルティングパートナーと顧客を結び付けるプログラムだ。量子コンピューティングの実用的な用途の特定や、量子テクノロジーの有意義な用途開発の促進を目的とし、顧客企業における専門性の向上を支援する。
さらに、瀧澤氏は「特に問い合わせが多かったサービス」として、コンピューティング・ストレージサービス「AWS Wavelength」を紹介した。
「AWS Wavelength」は、通信事業者の5GネットワークのエッジにAWSのコンピューティングサービスとストレージサービスを組み込んだもの。1桁ミリ秒遅延のサービス提供に向けたアプリケーション開発機能を開発者へ提供する。日本の通信事業者としては、KDDIがAWS Wavelengthに関する提携を発表している。
開発者は、AWS Wavelengthによって、アプリケーションをWavelength Zoneに展開することができる。Wavelength Zoneは、5Gネットワークのエッジにあるネットワーク事業者のデータセンター内に、AWSのコンピューティングサービスとストレージサービスを組み込んだ、AWSのインフラストラクチャ環境だ。アプリケーションのトラフィックは、端末から携帯電話の基地局を経由し、メトロ・アグリゲーション拠点で実行されるWavelength Zoneまでとなる。
Wavelength Zoneの特徴は、「AWSリージョンやゾーンと同一の画面で管理可能」「AWSリージョンと同一の運用手順」「AWSリージョンと同じペースで進化」「Wavelength ZoneからAWSリージョンへのフェールオーバーも可能」の4点にまとめられる。
日本でも来年には5Gの商用利用が始まるということで、注目が高まっている。5Gを活用するには、そのためのアプリケーションが必要となる。「AWS Wavelength」が日本の5G活用を進める一手となるかもしれない。