※2019年11月13日に開催された【Product Manager Conference 2019】よりレポート記事をお届けします。
【プロフィール】海老澤 雅之
ソニー・エリクソンで携帯電話ソフトエンジニア、アプリ・サービス企画を経験後、ソニー・コンピュータエンタテインメント及びソニーにて、音楽サブスクリプションサービス Music Unlimited を立ち上げる。その後USでPlayStation Networkのプロダクトマネージャーとして、PS4向けビデオ配信サービスやソーシャルサービスなどを担当。USで自動車業界の変化を肌で感じて興味を持ち、日産に参画。Amazon Alexa向けLEAFスキル、LEAF向けNissanConnect EVアプリ、新型スカイライン向けNissanConnectサービスアプリ等のプロダクトマネージメントを担当。
自動車は、ソフトウェアありきのプロダクトへ。
現在、『LEAF』につながるアプリケーションやAlexa向けスキル、スカイラインへ接続できるアプリケーション開発などを担当しているという海老澤さん。
彼は自動車メーカーのPMについてこう語る。
「正直、自動車メーカーでプロダクトマネジメントってあまりピンとこないかと思います。私もそうでした」
ただ、自動車業界では大きな変化が起きている。
「日産自動車でいえば「ニッサンインテリジェントモビリティ」というコンセプトを掲げています。運転自動技術の実装や電動化などソフトウェアの世界に広がってきていて、私のようにIT業界からの自動車メーカーに来る人も増えています。会社としても人材獲得を進めているところです」
アップデートは年1回、車の開発サイクルにソフトウェアも合わせざるを得なかった!?
実は日産自動車におけるコネクティッドカーの歴史は古い。
2010年に発売され、43万台以上を売り上げている『LEAF』。発売当初より通信ユニットを搭載、SIMカードも刺さっていたそうだ。
だが、アプリケーションの開発方法には大きな課題があったと海老澤さんは言う。
「車の開発は一般的に3年前後かかると言われています。発売までに完全に仕上げていくプロセス。ハードウェアにアップデートはないので、開発チームは発売されたら次の開発に移ってしまう。一方で、ソフトウェアは短期間で開発し、リリース後にアップデートを繰り返していく」
こうした開発サイクルのギャップがなかなか埋まらず、苦労したという海老澤さん。
「アプリのリリース、アップデートも、車の開発タイミングに合わせる形で進行していました。ただ、それだとアップデートが1年に1回くらいになってしまうんですよね」
海老澤さんは、このサイクルの変更に取り組んだ。
「今ではようやくサイクルを変更することができてきました。新しい車のサポート、アプリやスキルそのものの機能追加、改善はもちろんのこと、OSやAlexaの新機能のサポートなども並行して進めています」
信頼も実績もゼロだった。IT出身者たちのチームがぶつかった壁
もともとソフトウェアの世界からきた海老澤さん。また、チームの大半は日産自動車にルーツを持たないメンバーで構成されていた。
実績も信頼もなかった。そういった状況のなか、海老澤さんがこだわったのは、「まずは早くにプロダクトをローンチすること」だ。
「内製する意味をしっかり理解してもらう必要がありました。そのためには、とにかく早く品質の良いプロダクトを出し、かつ改善していく。このサイクルを回さないといけないと思っていました」
だが、一筋縄ではいかない。たとえば、『スカイライン』の開発。直面したのが、クラウドのAPI仕様だけではアプリの仕様一つひとつを決めることができないという現実だった。
「そもそもクラウドの先にある車のことを理解しないと、アプリなんて作れないんですよね。たとえば、どのような流れで車のドアロックをするのか。その際にどのような通知が送られるのか。車からはどの情報がどのタイミングでアップロードされるのか」
彼は社内を走り回り、一つひとつ把握をしながら、アプリの仕様をかためていった。
「アプリであっても車を含めた一つの体験なのですよね。だからこそ、車を含めて物事を決めていかないと仕様を詰めきれません」
自動車業界とIT業界で異なるカルチャーを痛感
自動車業界とIT業界、物事を進めるプロセスにもかなり差があったと振り返る。
「まずはそれぞれのギャップを埋めることから仕事は始まります」
その上でどんなチームが高いパフォーマンスを発揮するのか。海老澤さんは「ダイバーシティー」こそが鍵を握ると語ってくれた。
「プロダクト開発において重視したのが、自動車業界とIT業界、それぞれの違いをつき合わせる作業でした。チーム内で、どこに、どのような違いがあるのかをまずは徹底的に議論。お互いを理解した上で他部門とコミュニケーションすることで、部門間のギャップをできるだけスムーズに埋めていくようにしました」
そして、最後に海老澤さんが語ってくれたのは「これから」について。
「まだまだ新規のプロダクト開発のアイデアもあるので、これもやっていきたいです。あとアプリの開発に限らず、ソフトウェアの領域はもっと広いので、より広い領域にもっとプロダクトマネジメントを導入していきたいと思っています」