10年前のBluetoothって、便利さよりイライラのほうが大きかったような。
Bluetoothってちょっと前まで、ペアリングがうまくいかなくて面倒だったりすぐ切れたりしたものです。でもBluetoothは2010年代に着々と改善を重ねてきて、今じゃAirPodsなんてBluetoothを意識する必要すらないくらい快適で、10年前は何だったんだレベルです。Bluetoothの活躍の場も、スマホやパソコンだけでなくスマートホーム系ガジェットや産業用途にまで広がっています。そんなBluetoothの成長ぶりを米GizmodoのAdam Clark Estes記者がまとめていますので、ぜひどうぞ!
10年ほど前のこと、僕の家の郵便箱にきれいなブルーのガジェットが届き、僕のワイヤレス技術についての理解を根本的に変えてくれました。そのガジェットとはJawbone Jambox、多分最初のポピュラーなBluetoothスピーカーで、庭の向こう側にあるスマホからでも音楽を受け取って流すことができました。とはいえ当時多くのBluetooth機器がそうであったように、Jamboxは時々ほとんど思い通りに動かないこともありましたが、それでもワイヤレスなライフスタイルってやつが実感できて、ワクワクしてました。そこから10年経った今、Bluetoothはワクワクだけじゃなく、本当に良いものになりました。
Jamboxが発売になる1年前の2009年、Bluetooth規格は大きくアップデートされてBluetooth 4.0になり、データ転送速度向上やBluetooth Low Energy(以下Bluetooth LE)の追加によってエコシステムが変わり始めました。僕のJamboxが対応してたのはBluetooth 2.1だったので、他のデバイスとの接続には四苦八苦して、結局有線でつなぐこともよくありました。しかも僕のJamboxは、1時間もするとバッテリー切れしてました。
でも今や、僕が毎日使うガジェットはどれも何らかの形でBluetoothを使っている感じです。僕のラップトップもデスクトップもマウスもキーボードもヘッドホンもスマートウォッチも、そしてJamboxでないスピーカーも、みんなBluetooth技術を積み込み、互いに通じ合って超高速でデータをやりとりしています。そしてほんとにミラクルだと思うのは、最近のBluetoothがものすごく信頼できることです。デバイス同士が素早くつながって、しかもそのつながりが途切れません。バッテリーも長時間持ちます。10年前のボロボロだったBluetoothとは雲泥の差です。
最近ではBluetoothを使うことにためらいもなくなったってことが、技術として単に「良い」というより「素晴らしい」の域に達してることの証です。しかもこれから、Bluetoothはもっと良くなります。今までBluetoothが歩んだ道のりを理解することは、これからのBluetoothを知るために不可欠です。
ほんとにブルーだった、初期のBluetooth
まずBluetoothは、まだかなり新しい技術です。セルラー通信もWi-Fiも、少なくともその原型は1970年代から存在していて、今ではワイヤレス技術の中で一番普及しています。一方Bluetoothを搭載した最初のコンシューマー向け機器は、1999年に登場したEricsson(エリクソン)の携帯電話用ヘッドセットでした。ワイヤレス界の新参者、あの頃のBluetoothはお笑い草にされてました。
初期のBluetoothは転送速度が冗談みたいに遅く、主な用途が電話用ヘッドセット中心だったのはそのせいでもあります。状況が大きく動いたのは2009年のBluetooth 3.0ですが、そこからさらに飛躍したのは2011年、Bluetooth 4.0にバージョンアップしたときのBluetooth LEの登場でした。ここで規格が普通のBluetoothとBluetooth Low Energyのふたつに分かれたことが転換点になりました。
Bluetooth LEがIoTの下地に
「突き詰めるとBluetooth LEは、すべてのものがコネクテッド・デバイスになることを可能にしました」Bluetooth SIG(Special Interest Group)のChuck Sabin氏は振り返ります。「それが現代の『Internet of Things』をスタートさせたんです。」
この転機が訪れた理由は、当時Bluetoothがほぼすべての電話に搭載されていたこと、そしてBluetooth LEはアプリ開発者にとって使いやすい規格だったことがあります。Bluetooth Classic(LEじゃないほう)は、転送速度は高速ながらペアリングが面倒だったんですが、Bluetooth LEはデータ量の少ない通信に特化していて、スマートウォッチやビーコン、スマートホームガジェットといったデバイスにぴったりでした。Bluetooth LEはその名の通り消費電力が少ないため、各デバイスは搭載のバッテリーで動かせました。ペアリングもバックグラウンドで可能になったため、さらに多くのデベロッパーがBluetooth LEを使ったアプリや機能の開発に向かっていきました。
こうしたアップグレードによって、Bluetoothは爆発的に普及していきました。Bluetooth LEの低コストなチップはボタン電池でも数カ月、ときには数年持つことから、血圧モニターから忘れ物防止タグまで、あらゆる種類の新ガジェットに搭載されるようになりました。ペアリングが簡単なので、NFCの代替としても便利に使われるようになっているし、NFCと違って数メートル離れたデバイス同士でもつながれます。Bluetooth LEはBluetooth Classicとのデュアル接続もできるので、機能性もバッテリーライフも拡大していきました。(ちなみにBluetooth LEのビーコンは通り過ぎるBluetoothデバイスでも検知でき、それはプライバシー的には怖いんですが、ビジネス的には宝の山です。)
有線より簡単になったBluetoothオーディオ
僕がBluetoothヘッドホンのレビューを始めたのは5年ほど前で、当時の課題は「日々使える程度に信頼できるかどうか」の見きわめでした。その頃はまだ、最高級のBluetoothヘッドホンを使っても、ちょっとした干渉があるとすぐに接続が切れてしまってました。
当時は多くの人がBluetoothを通した音質に懐疑的でしたが、音に関してはBluetooth規格の中でわりと早い段階で保証されてはいました。Bluetooth 1.0の仕様では最大スループットが721Kbpsで、電話の声くらいは問題ありませんでしたが、多分FLACファイルとかを聞いてもその音質が活かせなかったと思います。Bluetoothがバージョンアップされるごとに転送速度は改善し、音声ファイル側でもaptXとかLDACといったコーデックが圧縮率を高めていきました。5年前にはもう、Bluetooth経由でも有線ケーブル経由でも、音の違いを聞き分けるのは難しくなってました。
僕の経験では、パフォーマンスはブランドによって大きく違っていて、規格に素早く対応して製品に組み込む体制ができている会社とそうでない会社があります。たとえば電話用ヘッドセットのパイオニアだったJabraは、最初から飛び抜けていました。彼らはBluetooth黎明期から製品を作っていて、ポピュラーなJabra Moveは僕が初めて試したワイヤレスヘッドホンのひとつです。そのつながり具合はほとんど完ぺきでした。
僕がJabra Moveをレビューしたのは2014年、Bluetoothヘッドホンの使い勝手がまだ悲惨だった頃でした(僕はその後Jabraが出した完全ワイヤレスイヤホンのElite 65tに度肝を抜かれ、今でも毎日使っています)。その後2年ほどで、Bowers & Wilkinsからソニーまであらゆる会社がこぞってBluetoothヘッドホンを打ち出してきましたが、どれも接続は安定しているし、音もハイクオリティだし、中には1回の充電で8時間以上持つ猛者も出てきました。
そして2016年、Appleが新システムオンチップ(SoC)・W1を引っさげてBluetoothヘッドホン界に殴り込んできました。W1は初代AirPodsとBeatsの一部に搭載され、イヤホンとAppleデバイスの間でのClass 1(一番強力)のBluetooth接続を支えました。この独自技術のおかげでAirPodsとiPhoneは設定をポチポチやらなくても瞬時につながるようになり、有線でつなぐよりむしろBluetoothのほうが簡単で快適になったんです。
産業用途でもBluetooth
AirPodsが市場を席巻しだした2017年初期、Bluetooth 5をサポートするデバイスが市場になだれ込んできました。Bluetooth 5はBluetooth LEほどはっきりと新しいカテゴリの製品を作るものじゃないのですが、性能が高まったことでBluetoothデバイスにできることがさらに広がりました。より広い通信範囲により速い伝送速度、より高精度な位置検知能力を備えるBluetooth 5は、コンシューマーデバイスにとどまらず、巨大なシステムでも使われつつあります。
「2010年代半ば、Bluetooth 5の登場がBluetoothの革命と進化をスタートさせ、産業や商業、スマートビルディング、スマートホーム、スマートシティといったタイプの応用へと進めていったのです」Sabin氏は言います。彼はまた、今のBluetoothには新たなメッシュネットワーキング機能があり、数千のデバイス同士のやりとりを可能にするので、センサーネットワークにも使えると付け加えました。
Bluetooth 5での改善によって、コンシューマーガジェットにおけるBluetoothのあり方も変化してきました。Bluetooth 5はエネルギー効率が高いので、多くのデバイスでバッテリーライフが改善しています。たとえばMaster & Dynamicは彼らの新しい完全ワイヤレスイヤホン・MW07にBluetooth 5を搭載し、それによってバッテリーライフは旧バージョンの3.5時間から10時間へと3倍近い飛躍を遂げました。
さらに通信速度が向上したことで、イヤホン・ヘッドホン上の音声アシスタント用に常時オンで待機するマイク、といった新しい機能も可能になっています。
Bluetoothの未来はバラ色に
ここまで、ヘッドホンとかスピーカーの話題がやけに多いと思われたかもしれません。こうなったのは、僕がこの手のもののレビューにかなりの時間を割いていて、Bluetoothの進化でワイヤレスヘッドホンとかスピーカーがどう変わったかいくらでも語れるからってのもあります。でもBluetooth自体がオーディオから始まっていて、これからもオーディオに重点が置かれることは知っておいてもよさそうです。Bluetooth SIGの人たちは、これから高音質を実現する新たなコーデックとか、補聴器向け機能とか、ブロードキャスティング機能とかが来るって教えてくれました。
あとはこれからBluetoothがWi-Fiみたいな他の技術とどう競り合っていくのかは興味深いです。Bluetooth 5が産業界でできそうなことのポテンシャルを考えると、今まではまだ表面をひっかいた程度のことしかできてないんだと思います。ただWi-Fiのほうが今ユビキタスなので、これからもワイヤレス界の覇者であり続けるだろうとは思います。Bluetooth搭載で通信できるデバイスの数はどんどん増えていますが、Wi-Fiはデバイス同士だけでなく、インターネットにも直接つながれます。なのでBluetooth搭載電球も普及しつつありますが、Wi-Fi搭載電球のほうがやっぱり有能ってことになるのかもしれません。
「家の中でのシナリオでは、どんな場合でもWi-Fiが最強になるでしょう。Wi-Fiネットワークはすでに、ほとんどの家にありますから」Wi-Fi AllianceのKevin Robinson氏は言いました。「IoTについて語る場合、重要なのは『インターネット』です。」
Robinson氏はたしかに間違ってません。Bluetoothにはいろいろ制限もあり、その分デベロッパーにとってはWi-Fiのほうが魅力的になります。とくに転送速度は、Bluetooth 4から5になるときに倍増はしましたが、それでも最大48Mbpsです。対する次世代Wi-Fi規格、Wi-Fi 6の速度は9.6Gbpsもあります。通信範囲とバッテリーもBluetoothについて回る問題で、今までで改善したとはいえ、Wi-Fiのほうが有利なシチュエーションがまだまだあります。
でも結局、技術を集結させていくことが、人類の勝利になります。BluetoothにはWi-Fiが苦手なことができ、逆もまた然りです。無線接続が普通になりつつあることが、そもそもすごい進化です。これからは5Gに関してもさらなるイノベーションが期待できるし、次の10年ではワイヤレスで悩むことがなくなってもおかしくありません。唯一問題があるとしたら、その環境をどう活用していくかってことだけじゃないでしょうか。