「雨が降ったり、台風や低気圧が近づいてくると、古傷が痛む、頭痛やリウマチがひどくなる、という話は古くからありました。でも、原因がよく分からず、諦めていた人も多いのではないでしょうか。『気象病』という医学用語もありますが、これまで天気と痛みの因果関係をきちんと研究した例は海外を見てもなかったのです。私は、天気の変化が身体に痛みをもたらす原因が気圧にあることを突き止め、この症状を『天気痛』と名付けました」
気圧の変化が影響する ©iStock.com
そう語るのは、愛知医科大学病院・痛みセンターの佐藤純客員教授。天気痛の研究を始めて23年になるという。愛知医大病院に日本初の「気象病外来・天気痛外来」を開設し、『天気痛』(光文社新書)などの著書も持つ、この分野の第一人者だ。
耳の奥にある“気圧センサー”
「天気痛とは『天気の影響を受けて生じたり、悪化したりする慢性の痛みがある』状態をいいます。つまり病名ではなく、元々もっている病気が天気の変化によって悪化する病態のこと。元になる病気は偏頭痛、緊張型頭痛、頚椎症、肩こり、変形性関節症、腰痛症、関節リウマチ、線維筋痛症などです。このほか、歯周病や脳卒中、喘息なども天気の影響を受けることがわかっています」(同前)
では、どういうメカニズムで天気痛を発症するのか。佐藤氏らの研究グループはマウスを使った実験で、耳の奥にある内耳に気圧の変化を感じるセンサーがあることを突き止め、今年1月、アメリカの科学誌「プロスワン」に論文を発表した。鳥類が気圧を感じる器官は特定されているが、哺乳類ではこの研究が初めてだという。
日本では少なくとも1000万人が天気痛に悩んでいる
「人間は温度と湿度に関しては、皮膚にセンサーがあって瞬時に感知します。一方、気圧が人体に及ぼす影響は、高山病や深海医学など特殊環境生理学では扱われていたのですが、気象の変化に目を向けられることはありませんでした。エレベーターや飛行機に乗ると耳が詰まることから、気圧センサーが耳にあるとは予想していたものの、今回、動物実験で直接的な証拠を掴んだことは大きなブレイクスルーだと思っています。気圧センサーが気圧の変化を感じると、脳がストレスと受け止め、自律神経を刺激する。自律神経のうちの交感神経が活発になれば、血流障害や筋肉の緊張が生じ、痛みの神経が発火する。副交感神経が活発になれば、だるくなったり眠くなる――これが天気痛のメカニズムです」(同前)
国内に少なくとも1000万人の患者がいると見られる天気痛だが、生まれもった気圧センサーの感度は人によって違うという。果たして、あなたの天気痛はどのようにすれば改善されるだろうか。
「文藝春秋」12月号および「文藝春秋digital」に掲載されている「めまい、腰痛……その症状『天気痛』!?」では、佐藤氏が、天気痛外来でも実際に使用している「15項目のチェックリスト」や、症状を分析するために必要な「痛み日記」のつけ方、自宅でも簡単にできる天気痛予防のマッサージ方法などを詳しく紹介している。