Windows 10で月に1回リリースされるBアップデート(米国太平洋時間の毎月第2火曜日の午前10時、日本時間では翌水曜午前2時)の11月のタイミングに、「19H2」ことWindows 10 November 2019 Update、Ver.1909(OSビルド 18363.476)の一般ユーザー向けの配布が開始された。
Windows 10 November 2019 UpdateとなるWindows 10 Ver.1909の配信は11月13日の深夜から開始された
機能的には大きく変わらない「November 2019 Update」だが アップデート方法は大きく変化 なんと数分で終了する
これは、すでにお伝えしたように(「変更点はそれほど多くないWindows 10の秋アップデートが完成」)、今春登場したVer.1903のマイナーアップデート版である。ビルド番号では、Ver.1903はBuild 18362、Ver.1909はBuild 18363と末尾が1つしか違わない。このことは「WinVer.exe」で確認できる。
Winver.exeで、Windows 10のバージョンとビルド番号(OSビルド)を表示させることができる。Windows 10 Ver.1903はOSビルドが18362.476、1909は18363.476となる
機能的にはカレンダーフライアウトで直接予定が入力可能になった程度だが、アップデート方法が大きく変わった。具体的には、Ver.1903からVer.1909へのアップデートは、数分で終了する。
ここにはカラクリがある。一瞬でアップデートが終わるのは、そもそもVer.1909の変更点はさほど大きくないことに加え、これまでの19H1への品質アップデートで、19H2は分割されて少しずつ配布されていたのだ。逆に言えば、11月のBアップデートを適用した段階で、19H1のマシンは19H2とほぼ同等な状態になっていたのである。
秋のアップデートは フルアップデートから部分アップデートに
Windowsのアップデートには、これまでの年2回の機能アップデートのように、一旦Windows 10を停止させて、Windowsを書き換える「フルアップデート」と、毎月の品質アップデート時に行われる短時間の再起動処理で済む「部分アップデート」の大きく分けて2種類がある。
フルアップデートは、新しいWindowsのインストールイメージを作り、現在インストールされているWin32アプリのバックアップを作り、インストールパーティションを一回削除して、Windows 10の再インストールとアプリケーションの復元をする。機能アップデートのように動作中のWindowsの大半のプログラムを書き換えたり、ドライバー構造を変えるなどの作業がある場合には、この方式でしか不可能だ。
ただし、現在のWindows 10は、インストールイメージを作成し、Win32アプリケーションなどをバックアップするところまではWindows 10が動作している間(これをオンライン状態という)にバックグラウンドで実行し、Windowsのインストールなどの作業のみWindows 10を停止した状態(こちらはオフライン状態という)でするので、初期のWindows 10に比べるとフルアップデートのオフライン状態の時間を短くなっている。
オフライン状態では、Windowsのファイルのコピー、デバイスの検出と必要なデバイスドライバーの組み込み、設定やアプリケーションの復元といった作業をする。つまり、Windowsを完全に再インストールすることになる。このとき、デバイスの検出とドライバーの組み込みにはかなり時間がかかる。
これに対して部分アップデートは、オンライン状態で置き換えられるファイルが大半を占める場合に利用され、原則、毎月の品質アップデートはこの方式になる。部分アップデートでは、オンライン状態で、差し替えが可能なファイルを変更し、最後に再起動して動作中に置き換えることができないWindowsのファイルを置き換える。また、多くのソフトウェアが関わる.NET Framewrokなどの実行モジュールなども再起動が必要になる。オフライン状態では、単純にファイルをコピーするだけなので、作業時間は短い。
実は複数の部分アップデートで 段階的にアップデートを進めていた
今回配信されたVer.1909は、Ver.1903に対してアップデートをする際に部分アップデートを使う。このとき、Ver.1909のすべてをまとめて更新するのではなく、品質アップデートのたびにVer.1903を段階的にVer.1909のモジュールで置き換えていく。この時点では、プログラム自体はVer.1909用のものになっているものの、GUIなどユーザーやプログラムから見える機能に関しては、Ver.1909の機能はオフ(マイクロソフトは「dormant=休眠」と呼ぶ)にされていて、見えないようになっている。つまり、ユーザーやプログラムなどからは、Ver.1903のようにしか見えない。
そして、今月のBアップデートで配布されたのが、「enablement package」と呼ばれる、Ver.1909の機能をオンにするプログラムだ。このプログラムがアップデートとして配布され、実行されると、Ver.1903に組み込まれていたVer.1909の機能がすべて有効になり、この時点からバージョン番号やOSビルドが変わって、Ver.1909として振る舞うようになる。
段階的に機能を入れていくのであれば、そもそもすぐに有効にしてくれてもいいじゃないか、と思う人もいるだろう。おそらくは、これは企業向けの配慮だ。なので、最後の段階でVer.1909の機能を有効にしてバージョンを切り替えるのだと思われる。
マイクロソフトによれば、Ver.1909に切り替わる直前の状態で、ストレージ内に置かれたVer.1909用のファイルの合計は25MB未満だという。このため過度にストレージを圧迫することはないと思われる。これはつまり、19H1と19H2の差分はたった25MB程度しかないわけだ。
長いオフライン時間をともなうアップデートは 春の年に1回になる
Ver.1909でのアップデート方式の最大のメリットは、長時間のオフライン時間を要する機会が、年1回に減ったことだ。フルアップデートは、PC性能への依存も大きく、最新のマシンならば1時間程度で終わるが、Atom系のようなCPU性能が低いマシンでは、3~4時間程度かかることがある。さらに旧式のマシンでは、もっと長い時間がかかる。
筆者の手元にある第3世代CoreシリーズのCeleronマシン(1.7GHz動作、4GBメモリでストレージはHDD)で、Ver.1903へのアップデートに8時間かかった。しかも98%になってからが異常に長く、トラブルかと思い1度は6時間経過したくらいで強制リセットしてしまった。時間のあるときに放置しておいて、8時間でようやく完了した。さすがにこんなに長いと、業務用マシンだと丸一日仕事にならない。こうしたこともあり、年2回の機能アップデートはあまり評判が良くなかったわけだ。
そこで秋のアップデートでは、大きな新機能を諦め、比較的変更の小さい機能だけを導入するようにして、品質アップデートを複数回に分けてインストールするようにした。これならば、毎月の品質アップデートで段階的に更新していくことができる。低スペックのマシンや旧式のマシンでも、インストール時間が毎月に分散されるため、作業できない時間を見かけ上は少なくすることが可能だ。
ただし、この方式でのアップデートを利用するには、春の機能アップデートを適用していることが必須となる。つまり、機能アップデートを飛ばしてしまうと、このメリットを利用できなくなる。機能アップデートに数時間以上かかってしまうマシンでは、どうしても年1回は"苦行"に耐える必要がある。ただ、企業内利用では、リース期間の4年などをメドにハードウェアが新しいものに置き換わっていくため、アップデートに長時間かかるマシンは、徐々に減っていくことになるだろう。
というわけで、来年春(おそらく一般向け配布開始は5月)には、低スペックのマシンにとっての"苦行"が再びやってくる。半年というのは意外に短いものだ。新しいマシンに買い換えるという選択肢もあるが、SSDへの換装、さらにはメモリの増設を考えたほうがいいかもしれない。
実際、筆者の手元にあるもう少し性能がマシなマシン(1.7GHz動作の第3世代Core i5、4GBメモリ、SSD搭載)は、長くても3~4時間程度でフルアップデートが終了する。わずかな違いだが、所要時間に大きな開きがある。メモリやSSDは、普段利用しているときのパフォーマンスも向上させることになるため、メリットは大きいはずだ。