火星の調査を継続している探査用ローバーのキュリオシティに搭載されたCPUのスペックはたった200MHzと、今日のスマートフォンよりもはるかに低スペック。その理由について、ポーランドの科学系ライターJacek Krywko氏が「宇宙ではハイスペックのCPUは壊れてしまう」と説明しています。
真空・振動・極端な低温や高温など、宇宙にはCPUを破壊しうる現象がさまざま存在します。しかし、近年に入るまで見落とされてきた問題が、「銀河宇宙線」と呼ばれる宇宙空間を飛び交う放射線。放射線がCPUに衝突すると電圧が生成され、保存されたビットが反転する「Single Event Upset(SEU)」という現象が発生しCPUが壊れてしまう可能性があります。
SEUは高性能なCPUにとって特に問題です。プロセスルールの改善やクロックレートの向上によって、CPUの動作電圧は年々低下しています。それゆえ、放射線が衝突したときに発生するわずかな電圧の変化でも、CPUは大きな影響を受けるようになりました。
Krywko氏によると、一昔前は放射線の影響を受けにくいサファイアやヒ化ガリウムでできた半導体チップを特注することによって銀河宇宙線の問題を回避していました。しかし近年半導体を製造するコスト自体が増加し、特注の半導体チップを製造することは困難になったとのこと。
現代の宇宙用CPUは材料ではなく「システム上の工夫」によって銀河宇宙線の問題に対処しているそうです。システム上の工夫の代表的なものが、「トリプルモジュラー冗長性」という仕組み。トリプルモジュラー冗長性を備えたCPUは、情報を単一のチップではなく3つのチップに保存し、情報を読み取る場合は3つのチップに保存された情報を検証して、「2つ以上のチップに保存されている情報」を出力します。ただし、トリプルモジュラー冗長性を備えたCPUは、通常のCPUよりもスペックが落ちてしまいます。
最新の宇宙用CPUは、2019年末に出荷が予定されているクアッドコアCPU「GR740」です。GR740のプロセスルールは65nm、そのクロック数は約250MHzと、現代のスマートフォンに搭載されているCPUにはるかに劣るスペックですが、(PDFファイル)耐放射線試験に合格しているとのこと。GR740は、銀河宇宙線によるエラーが350年に1回しか発生しない計算になっています。