「働き方改革」やビジネス変革への取り組みが加速するなか、クラウドコンテンツ管理ソリューションを提供するBoxが注目を集めている。Boxは業界を問わず幅広く利用されており、現在のユーザー数は全世界で9万5000社以上に達する。米国では「Fortune 500」企業の69%が利用している。日本における利用の広がりも同様で、2019年7月には4800社だったユーザー数は、わずか3カ月後には5200社以上にまで拡大。日経225銘柄企業の45%がBoxを導入しているという。
そのBoxが2019年10月、米サンフランシスコで開催した年次イベント「BoxWorks 2019」では、新たに投入した「Box Shield」や「Box Relay」によって、"フリクションレスな(摩擦のない)"セキュリティやコンプライアンス、社内外をシームレスに結ぶコラボレーションを実現し、アプリケーションの統合による利用環境の進化が強調された。
BoxWorks会場でインタビューに応じたBox Japanの古市克典社長に、日本におけるBoxの取り組みや、BoxWorks 2019の狙い、意味などを聞いた。
今回のBoxWorksでは「これまでの取り組みからさらに一歩踏み出した」
――今回の「BoxWorks 2019」は、Boxにとってどんな意味を持ったイベントになりましたか。
古市:今回は、これまでの当社の取り組みからさらにもう一歩、力強く踏み出す機会になったと言えます。
Boxは現在、「セキュリティの強化」「CCM(クラウドコンテンツマネジメント)という位置づけからのコンテンツの利用促進」「ベストオブブリード(BOB)パートナーとのAPI連携の加速」という、3つの領域に力を注いでいます。それぞれのエリアで強化を図り、より明確な方向性を打ち出したのが、今回のBoxWorks 2019が持つ意味だったといえます。
セキュリティについてはBox Shieldが挙げられます。日本のお客様はセキュリティに対してはひときわ敏感なので、Box Shieldの発表直後から多くの問い合わせをいただいています。
Box Shieldは、コンテンツコントロールによってデータ漏洩を防止する「Smart Access」と、異常なダウンロード行動を検出したり、位置情報をもとに危険な場所からのコンテンツへのアクセスを発見したりいったことが可能になる「Threat Detection」で構成されています。これによって一貫したセキュリティ管理を自動化し、偶発的な情報漏洩を防ぐとともに、潜在的な脅威を検出して、それへの対応を図ることができます。
これは多くのIT部門から求められていたサービスです。現場の方々に負荷をかけることになく、セキュリティを強化できます。
また、Box Relayは企業の規模や業種、業界を問わず、コンテンツ中心のビジネスプロセスを自動化するもので、今年7月に新バージョンの提供を開始しました。よりパワフルになったワークフローエンジンや、シンプルなユーザーエクスペリエンス、トリガーなどの機能が新たに追加されたことで、コンテンツに関するプロセスの自動化がこれまで以上に容易になり、IT部門によるサポートや管理がなくても、ビジネスユーザー自身がビジネスプロセスをさらに効率良く作成できるようなります。
こうした取り組みによって、コンテンツの利用促進が一層図られることになるでしょう。
――ベストオブブリード(BOB)パートナーとの連携についてはどうですか。
古市:BOBパートナーとして、これまでは「Slack」「Zoom」「Okta」といったシリコンバレーの先進的企業との連携が中心でした。しかし、現在ではマイクロソフトの「Office 365」やグーグルの「G Suite」、セールスフォース・ドットコムとも連携しており、新たにオラクルやアドビシステムズとの連携も発表しています。企業の人々が"ふだん使い"するツールとBoxがシームレスにつながる環境が、さらに広がっています。
また「Box for Microsoft Teams」によって、マイクロソフトが力を入れているTeamsとの連携もよりスムーズにすることに注力することを発表しました。日本でもOffice 365+Boxという使い方をされているお客様は多く、Teamsとの新たな連携はこれを加速するものになります。
Boxの基本姿勢は、1社で「すべて」を提供するのではなく、それぞれのファンクションごとに最も優れた製品を持つトップ企業との連携によって、コンテンツプラットフォームの実現を目指すことです。
――今回のBoxWorksに、日本からはどのくらいのユーザーが参加したのでしょうか。
古市:実は昨年から、BoxWorksに日本から参加される方の数が急増しています。昨年のBoxWorksでは120人以上、そして今年はおよそ140人が参加されています。日本からの参加者が増えると、米本社の日本市場に対する見方も変わってくるでしょうね。
イベント最終日には日本からの参加者を対象としたラップアップミーティングを開催したのですが、そこには米本社の最高製品責任者(CPO)であるジーツ・パテルや、セキュリティプロダクト責任者のアロック・オージャも参加しました。彼らは製品説明を行うだけでなく、日本の参加者からの「こんな機能がほしい」といった要望にも細かく応対していました。また参加者の方も、昨年は少し遠慮がちでしたが、今年はかなり積極的に質問が出ており、昨年とは違うBoxへの期待が強く感じられました。
日本市場における独自の取り組み、カスタマイズも積極的に行う
――SaaSの利用促進において、日本企業の課題をどのように見ていますか。
古市:米国のユーザー企業では「複数のSaaSを使いこなすのが当たり前」という状況になっており、それによって生産性を高めることができています。一方で日本の企業では、SaaSの使いこなしがまだ"発展途上"にあるというのが正直な感想です。オンプレミスのほうがいいという企業、単一のSaaS利用で満足してしまっている企業もあります。複数のSaaSを使いこなすことで、どんな成果が生まれるのかにチャレンジしてもらいたいと思っています。
もちろん、そのハードルは高いことも理解していますので、Box Japanはそこをしっかりとサポートする体制も整えています。たとえばSlack JapanやZoom Japan、日本マイクロソフト、セールスフォース・ドットコム日本法人などと、緊密な連携関係を築いています。こうした企業とのエコシステム構築も、日本企業における利用を加速するための基盤になると考えています。
ちなみにBoxは現在、グローバルで1400社と連携しており、日本でも150社との連携があります。こうしたエコシステムを通じて、顧客企業に複数のSaaSを活用するメリットを提供できます。
――「SaaSの利活用」「コンテンツプラットフォームに対する姿勢」などは理解できますが、米国本社が発信するメッセージをそのまま日本市場に伝えても、日本企業には響きにくい部分があるのではないでしょうか。
古市:たしかにそれは感じますね。ただし日本企業の一部でも、こうした姿勢や動向を理解して、先進的な取り組みを行う動きは見られます。
Box Japanでは、2019年2月から「Boxコミュニティ」をスタートさせました。単なるユーザーコミュニティではなく、まだBoxを利用したことがないお客様もおよそ半数を占める広範なコミュニティで、感度の高い方が集まって、Boxを使えばどんなことができるのかを情報交換されています。こうした場を通じてBoxのメリットを多くの方に理解していただき、さらに「先行ユーザーがいるのならば安心できる」と感じていただき、それを日本におけるBoxのモメンタムにつなげていきたいと考えています。
――日本市場における独自の取り組みとしてはどんなものがあるのでしょう。
古市:日本企業の方々にBoxの良さを理解していただくために、サイボウズの「kintone(キントーン)」やデジタルアーツの「FinalCode」といった日本発のアプリケーションとの連携、さらには複合機やプリンタとの連携も行っています。
実は、複合機との連携は米国では例がなく、日本企業のニーズに合わせて日本独自で用意したものです。日本企業にはまだまだたくさんの「紙」があり、一方で多数の複合機も導入されていますから、紙媒体をデジタル化するツールとして複合機を活用し、簡単な操作でBoxの中に取り込むソリューションを構成しました。さらに、コンビニにある複合機から、Boxで管理しているコンテンツをセキュアにプリントアウトすることも可能です。これも日本固有の使い方ですね。
また認証機能においても、クラウドサイン(CloudSign)やシヤチハタといった日本企業との連携を進めています。シヤチハタとの連携では、Boxに保存したコンテンツに認証のための「印影」を押すソリューションを提供しています。これも日本市場のニーズに応えるためのサービスですね。
Boxは(グローバルで)スタンダードなサービスとの連携を基本スタンスとしていますが、やはり「日本市場ではこの機能がないと使えない、使いにくい」というケースもあります。そうしたニーズに対応するために、特定の機能をBoxに取り込むこともあります。
たとえば、Boxを特定の場所からのみ使えるようにする「IPアドレス制限」は、元々は提供されていなかった機能ですが、「どうしてもその機能が欲しい」という日本のお客様のニーズが多かったため、われわれから本社にかけあいました。本社側は当初、「あらゆる場所から利用できるのがBoxのメリットであり、その意図がまったく理解できない」と言っていましたが(笑)、現在ではオプション機能として提供しています。
Boxが公開しているAPIは使いやすく、テストモジュールなどもサイトで提供していますから、これらを利用して日本の開発パートナーが、日本のお客様特有のカスタマイズニーズに応えることもできます。これが約150社の国内連携パートナーという結果につながっており、日本におけるビジネスの重要なポイントになっています。
一方で、こうした取り組みを通じて、日本発のグローバルベンダーを支援することにもつなげたいですね。Boxとの連携によってグローバル市場に打って出る、そんなパートナーを日本法人として支援していきたいと考えています。
SaaS市場では米国や中国のベンダーが先行していますが、今後はIoT連携、AI活用といったものがますます重視されるようになり、ここは日本のベンダーが得意とする領域でもあります。そこでわれわれが何かお手伝いできないか、ということも考えていきたいですね。
「Box Shield」提供開始で、金融、官公庁、自治体のニーズにも対応
――今回、新たに発表したBox Shieldは、日本の企業にどんなメリットをもたらすと考えていますか。
2019-11-14 16:49:39