「理系は食いっぱぐれない」という考えはもう古い。アメリカでは「理系」に類するSTEM(科学、技術、工学、数学)分野の仕事が減り始めている。ベンチャーキャピタリストのスコット・ハートリー氏は「これからは理系の仕事をしている人ほど、哲学や社会科学といった文系の知識を学ぶ必要がある」という――。
エンジニアの仕事を奪うのは「AI」ではなかった
「STEM(科学、技術、工学、数学)分野は3パーセント低下した」
米ハーバード大のエコノミストのデイビッド・デミングによる、2015年、全米経済研究所のワーキングペーパーでの発表だ。とりわけ、エンジニア、プログラマーとテクニカル・サポート、工学と科学技術者は縮小スピードが速いという。
AIに仕事を奪われることを心配しがちだが、その前に安価な発展途上国の労働者に単純なSTEMの仕事は奪われる。
過去数十年間、グローバル化によって、製造業の仕事が大量にアウトソースされ、知識労働者の仕事がそれに続いた。現在、アメリカの労働者が担ってきた多くの技術的仕事が外国に「出荷」される流れが来ている。
「ハーバード大より難しい」という理系人間の養成所
ニューヨークに拠点を置くアンデラ社の事業を取り上げよう。同社はナイジェリアのラゴス、ケニアのナイロビで高度なプログラミング・スキルを教える「テクニカル・リーダーシップ・プログラム」を運営し、とてつもない速度と精度で理系人間を養成している。
このプログラムへの注目は相当高く、入学希望者に対する合格率は1%を下回り、ニュースサイトのCNNによると、「ハーバード大より難しい」。2016年には定員わずか280人に対して4万人の志願者があり、ナイジェリアとケニアではすでに200人のプログラマーが働いている。
このプログラムはスキルを教えるとともに、技術チームのサービスを有料で提供しており、マイクロソフトやIBMといった一流のIT企業が同社のサービスを採用してきた。アンデラ社は、海外にいる科学技術者という、将来莫大な数に増える労働力のほんの一部を提供しているにすぎないが、すでにマーク・ザッカーバーグとグーグル・ベンチャーズが関心を寄せており、2016年には両者からおよそ2400万ドルが出資された。
「世界で最も才能ある人々」を輩出するプログラム
いま、テクノロジーの最前線にいる人材を輩出した大学を見渡すと、スタンフォード大学のある学部が目につく。
「シンボリック・システムズ」という専攻課程で、コンピューターのクラスと哲学、論理学、言語学、心理学のクラスを統合し、従来の文系理系が隔離された図式とは異なる形で研究を進める体制だ。マーク・ザッカーバーグは、このプログラムが「世界で最も才能ある人々」を輩出してきたことを認めている。
ここから、リンクトインの創業者リード・ホフマン、インスタグラムの共同創業者マイク・クリーガー、iPhoneとiPadのソフトウェアを開発したスコット・フォーストール、そしてグーグル初期の経営陣の一人で、ヤフーの元CEOだったマリッサ・メイヤーなど、そうそうたる顔ぶれの卒業生を輩出した。
大学で学ばなくても「遅すぎる」わけではない
「機械オタク」集団の職業はますます切り詰められていくだろうが、大学で学ばないと遅いわけではない。学び直す機会はいつでもある。
わずか1年で1800万ドルの資金調達した注目のベンチャー企業は、あるエンジニアがPCの画面から離れてアフリカで暮らしたことがきっかけで誕生した。アイデアは、人類学のフィールドワークの手法を用いることで見えてきた。
そのエンジニアが、低所得者層向けにスマートフォン購入などの金利サービスを提供するベンチャー企業「ペイジョイ」の共同創業者でCEOのダグ・リケットだ。以前はグーグルのソフトウェア・エンジニアで、マーク・ヘイネンとチームを組んで同社を起業した。ヘイネンはアマースト大学で歴史と移民研究を専攻した文系人間だ。二人はグーグルマップのチームで出会い、アフリカの地図製作で協力した仲間だった。
1年で約20億円を調達した奇抜なアイデア
リケットは、グーグルを退職後、テクノロジーの専門知識を広げようとコンピューター画面の前を離れてガンビアという小さな西アフリカの国の貧困地域向けに太陽エネルギー機器の提供を試みる企業で働いた。
2019-11-13 23:48:34