てんかんの持病がある子供の家族会と東京のITベンチャーが、患者家族向けのスマートフォンアプリ「nanacara(ナナカラ)」を共同開発し、12月から無料提供を開始する。日々の発作や服薬の記録を簡単にデータ化できるほか、家族内で情報を共有する機能を持たせ、介護者らの負担軽減につなげるねらいだ。
開発したのは、てんかんの子供を持つ家族や専門医らでつくる民間団体「SAChi Project(サチプロジェクト)」(大阪市)と、ITベンチャー「ノックオンザドア」(東京都)。
てんかんは、薬で発作をコントロールしており、治療のためには服薬と発作の詳細な記録が欠かせない。だが、発作は突然起きるため、患者の対応に追われながらデータを取ることは家族の負担となっていた。
アプリは、服薬時間や診察結果、発作の状況が動画などで記録でき、家族内で情報を共有する仕組み。
写真撮影した診療明細書を自動的にデータ化し、動画の自動タイマー機能で発作が続いた時間を記録できるなど、手入力の手間を省いた。今後、撮影した写真から顔を識別し、患者の体調を自動的に測る人工知能(AI)機能も持たせる。
将来的には、集めたデータを医療機関などに提供し治療や創薬に役立てたいとしている。
問い合わせはサチプロジェクト設立準備室(06・7777・2708)。
■「子育て楽しむ一助になれば」
「治療と生活の助けとなり、患者家族が子育てを楽しむのに役立てば」。てんかん患者家族向けのアプリ開発に携わったサチプロジェクト発起人の本田香織さん(38)=大阪市城東区=も、てんかんの長女を持つ母親の一人。自身の経験が患者家族への思いをより強くし、開発への取り組みを後押しした。
まな娘の萌々花(ももか)ちゃんに異変が起きたのは、平成25年3月の朝。布団の上で、白目をむいて生後5カ月の小さな体を震わせていた。救急搬送したが、原因はわからずじまいだった。
「高い確率で重度の障害が残ります」。転院先で判明した病名は、乳児に生じやすい難治性てんかんの一つ「ウエスト症候群」。親しい友人にも事実を伏せた。「てんかんに対する偏見を私自身が持っていたんだと思う」と振り返る。
転機は、同じ悩みを抱える家族とのつながりだ。「ママ友」たちは、普通におしゃれをし、笑っていた。「私も子育てを楽しんでいいんだ」と思え、発症から約半年後、萌々花ちゃんの成長と闘病の記録などをブログにつづり始めた。
《こんな発作のときどう対処すれば?》《どんな薬を使ってる?》。同じ病の子を持つ親から、切実な相談が寄せられた。
「てんかん児の世話は手探りで、保護者が経験的にやっている部分が大きい」。1歳の萌々花ちゃんは、発作を断続的に千回以上繰り返したことも。そうしたなかで、医師に発作の状況やその前後の薬の飲み合わせを正確に伝えることは「難しかった」という。
また、てんかん児という理由で、近くの医院での診察や幼稚園などへの受け入れを断られたこともあった。「身近に相談ができる経験者がいれば解決できていたはず」と悔やむ。
親の悩みなどを情報交換する受け皿をつくろうと、27年に一般社団法人「mina family(ミナファミリー)」を設立。30年10月、サチプロジェクトを立ち上げると、専門医らの協力を得て、約30家族から介護時の悩みなどを聞き取り、約1年かけてアプリの完成につなげた。
7歳となった萌々花ちゃんには、重い心身障害が残る。手はかかるが、いとおしさは尽きない。「健常者でも子育ては大変で、楽しいこともつらいこともあるのは、同じなんだと今は思える」と充実した表情を見せた。(吉国在)
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■てんかん
脳の神経細胞の過剰な電気的興奮に伴い、意識障害やけいれんなどを発作的に起こす慢性的な脳の病気。全身を大きく震わせる症状のほかに、ぼんやりとしたり、手足や顔といった一部の筋肉が一瞬引きつったりと、異常が起きる脳の部位に応じてさまざまな症状が現れる。治療には、発作が起きないようにするための「抗てんかん薬」などが用いられる。国内には、約100万人の患者がいるとされる。
2019-11-12 19:36:12