インテルは15日、「Tunnel Falls(トンネルフォールズ)」と呼ばれる最新の量子コンピューティング・チップを発表した。量子コンピュータの研究者を対象としたもので、サンディア国立研究所やメリーランド大学、ロチェスター大学、ウィスコンシン大学マディソン校の研究所に提供する予定だ。
インテルは2月、量子スタックを完全にシミュレートするソフトウェアパッケージをリリースしていた。一方、競合のIBMは先週、量子テクノロジー研究において大きな進展があったとの論文を、カリフォルニア大学バークレー校と共同で科学誌ネイチャーに発表している。
さらに、グーグルやマイクロソフト、アマゾンなどの大手もこぞって、この分野の開発に取り組んでいる。量子コンピューティングは、人工知能(AI)や化学シミュレーション、暗号化などを大きく飛躍させることが期待されている。マッキンゼーは今年発表した報告書で、量子コンピューティング市場の規模は2040年までに900億ドル(約12兆6000億円)を超え、生み出される経済価値が数兆ドルに達する可能性があると推定していた。
古典コンピューターで扱われるビットは、情報の最小単位を0か1だけで表しているが、量子ビット(qubit)では、0と1のほか、0と1とを重ね合わせた状態も表すことができ、従来とは比較にならないほど高速な並列計算が実現できる。しかし、量子ビットは非常に壊れやすいため、エラーが発生しやすく、拡張が難しいという欠点がある。
そのため、量子コンピューターの実用化にはまだ数年かかるとみられている。これは特に、マイクロチップ上の集積回路やトランジスタにほぼ限定される古典コンピューティングとは異なり、量子コンピューティングには複数のハードウェアソリューションの候補があり、それぞれに長所と短所があるためだ。
「超伝導方式」と「シリコン方式」の戦い
インテルのチップは、同社が最も得意とするシリコンチップテクノロジーをベースとしたものだ。シリコンは、現時点では量子コンピーティング領域では劣勢にあり、このテクノロジーで大量の量子ビットを持つチップを開発する技術はまだ初期段階にある。例えば同社のトンネルフォールズは、12個の量子ビットを搭載しているが、IBMは400個以上の量子ビットを搭載した超伝導体チップを開発した。
しかし、ネイチャー誌が最近掲載した記事では、シリコンには産業レベルにまで拡張できる長期的な利点があることが示唆されている。
インテルの量子ハードウェア担当ディレクター、ジェームズ・クラークは先週、記者団に対し、「当社の技術は、トランジスタに関する知見を基盤としており、そこが他社とは違うところだ」と説明。「当社の目標は、現状の最先端技術になるべく小さな変更を加えて、これらを作ることだ」と述べている。
インテルはまた、生産に関しても、専門のグループや研究所に限定していない。クラークによると、トンネルフォールズは、同社の最大の製造拠点であるオレゴンの工場で生産されるという。
インテルの量子テクノロジーの最終的な計画が何であるかという点について、クラークは「まだ早すぎる」と述べている。同社は量子コンピューティングをフルスタックのソリューションにする計画だというが、そこにマイクロソフトや他の競合が開発しているような「サービスとしての量子コンピューティング」のソリューションが含まれるかどうかについては明言を避けた。
2023-06-18 20:14:42