2008年にサンフランシスコで開催したイベントで、当時アップルのCEOだったスティーブ・ジョブズが壇上で茶色いマニラ封筒から「世界で最も薄いノートブック」MacBook Airを取り出してみせた。あの伝説のプレゼンテーションから15年。今度はアップルが「世界で最も薄い15インチノートブック」を発売する。独自設計によるApple M2チップを搭載する新しい15インチのMacBook Airのファーストインプレッションをレポートする。 高いパフォーマンスと可搬性のバランスが魅力の15インチ「ノートブック」 アップルは2022年の世界開発者会議WWDCで、フラットなデザインに刷新した13インチのMacBook Airを発表した。15インチのMacBook Airは同じデザインのApple M2チップを搭載する、シリーズ最大の「ノートブック(モバイルPC)」だ。 表示領域が広い15インチのLiquid Retinaディスプレイを搭載しながら、初代のモデルから守り抜く「薄く・軽いAir」のコンセプトを継承する。M2チップを搭載する13インチのMacBook Airと比べると本体の質量はわずか0.27kg(270g)重い1.51kg、厚さ方向には0.02cm(0.2mm)のサイズアップとなる1.15cmに止めた。ちなみに、M2チップを搭載する14インチのMacBook Proは15インチのMacBook Airよりも質量は90g重く、本体の厚さは0.4cm(4mm)ほど大きい。 M2チップを搭載する上位のMacBook Proに対して、15インチのMacBook Airはカスタムオーダーの場合もM2以上のチップを選択できない。本体側面のコネクタは2基に絞られ、ディスプレイは高精細・高輝度でありながら、よりダイナミックレンジの広いXDR(Extreme Dynamic Range)表示には対応しない。Proシリーズはスペックの高さではトップエンドを誇る。一方で、高いパフォーマンスとモバイルPCとして「機動力」のバランスを重視するのであれば、15インチのMacBook Airがもっと良い選択肢になる。 マルチタスクの生産性を高めるmacOSの機能と好相性 MacBookのディスプレイが大きくなると、ビジネスシーンでも頻繁に使うアプリケーションによるマルチタスクが効率化される。15インチのMacBook Airは内蔵するスピーカーシステムも強化された。エンターテインメント系コンテンツの音を再生した時の没入感は、13インチのMacBook Airよりも明らかに向上している。特に低音再生の安定感に違いを感じた。 現行バージョンのmacOS 13 Venturaから搭載する「ステージマネージャ」は、マルチタスク実行時にデスクトップに並ぶウインドウを一瞬ですばやく整理できる機能だ。macOSのコントロールセンター、またはシステム設定の「デスクトップとDock」からステージマネージャを有効にすると、その時点で使用中のアプリケーションが画面の中央に表示され、その他の起動するアプリケーションは左側にサムネイルが並ぶ。サムネイルを選択するとアクティブなアプリケーションのウインドウが切り替わり、マルチタスクがリズムよくこなせる。 ステージマネージャは複数のタスクを切り換えながら作業を進める際に便利な機能。15インチの大きな画面でその進化が発揮された MacBookのディスプレイが15インチを超えて大きくなると、ステージマネージャのユーザーインターフェースはメインのアプリケーションウインドウが広く使えるし、左側に並べられるサムネイルの数も増える。 2つのアプリケーションを左右に並べて表示する「Split View」もまた、15インチのMacBook Airの場合は使い勝手がさらに良くなる。片側にExcelのスプレッドシートを表示しながら、ウェブブラウザで検索したデータを入力する作業などにうってつけだ。 筆者が現在メインのマシンにしている13インチのM1 MacBook Airでは、ステージマネージャとSplit Viewがどちらも窮屈に感じられてしまい、使うモチベーションがわかなかった。15インチ以上のMacBookであれば機能の真価が実感をともない、使う頻度が上がる。 15インチのMacBook Airはパームレストも広い。だから心地よくキーボードタイピングができる。大型化によってポータビリティが損なわれないのであれば、15インチのMacBook Airはビジネス向けのモバイルPCとしても積極的に選ぶ価値があると思う。 左のM1搭載MacBook Airに比べて、右の15インチMacBook Airはキーボードの下側に広いパームレストになるエリアがある。キータイピングが心地よい 次期macOSがMacをゲーミングPCに変える 秋にアップルはmacOS 14 Sonomaを正式にリリースする。Apple M2チップの高いパフォーマンスに加えて、大きなディスプレイを搭載する15インチのMacBook Airは、このmacOSの新機能と相性の良いマシンになりそうだ。 macOSの天気やカレンダー、リマインダーなどアプリの情報をコンパクトに表示する「ウィジェット」は、これまで通知センターに格納されていた。macOS SonomaではiPhoneやiPadのように、ホーム画面に必要なウィジェットが置けるようになる。 さらに、これまでウィジェットは選択すると該当するアプリケーションが開く仕様だったが、新しいウィジェットはインタラクティブになる。例えば直接リマインダーにチェックを入れたり、Apple Musicの音楽再生操作など、アプリケーションを開かずにウイジェットで操作が完結する。ウィジェットの開発キットもアップデートされるので、今後は外部デベロッパも巻き込みながら「便利なウィジェット」が増えることを期待したい。その時には広いディスプレイを持つマシンの優位性が際立つはずだ。 また、macOS Sonomaには「ゲームモード」が新設される。AppleシリコンとmacOS Sonovaを搭載するMacでゲーミングコンテンツを立ち上げるとモードは自動で有効になる。ゲームモードが起動すると、AppleシリコンのCPUとGPUがゲームのアプリケーションに多くのリソースを割り当てて、ゲームの映像をより滑らかに表示し、動作を安定させる。ディスプレイの大きな15インチのMacBook Airで、ゲーミングコンテンツへの自然な没入感を得るために欠かせない機能だ。 アップルのゲーム配信、Apple Arcadeのタイトルも充実してきた。満を持してMacをゲーミングPCとして盛り立てていくため、次期macOSに「ゲーミングモード」が加わる アップルはWindowsなど他のプラットフォームからMacに、ゲームデベロッパがタイトルの移植をスムーズに行えるように、macOSのグラフィックスAPIであるMetalに新たな「Game Porting Toolkit」を追加する。この開発キットにより、WindowsベースのPCゲームをmacOSに移植するための作業が数カ月から数日単位にまで短縮されるという。この時期にスタンダードシリーズのMacBook Airを「大画面化」した大きな理由の1つは、アップルがゲーミングPCとしてAppleシリコンを載せたMacBookを全力で推す戦略に打って出るからだろう。 M2チップを搭載する2つの新デザインのMacBook Airが揃った後も、比較的価格が手頃なM1チップ搭載のエントリーモデルは販売を継続する。ラインアップが出揃ったMacBook Airシリーズは、上位MacBook Proシリーズにとって厄介な好敵手になりそうだ。