2011年、Appleの創業者であるスティーブ・ジョブズはCEOを退きました。以降、AppleのCEOはティム・クックが努めています。クックがCEOになってから、Appleは「大きく変化」しました。ジョブズ時代のAppleとクック時代のAppleにはどのような変化があるのかを、Appleに詳しいYouTubeチャンネル「Apple Explained」が解説しています。
Appleの創業者であり元CEOのスティーブ・ジョブズは今までに、Macintosh、iPod、iPhone、iPadなどの革命的な商品を次々と生み出しました。ただ、そんなジョブズは1985年にAppleの主要な役割を担うにふさわしくないと判断され会社を追い出されています。そこから、Appleの経営は悪化し、その結果、12年間でCEOが3人も変更になっています。しかし、どのCEOもAppleの収益を回復させることはできませんでした。
そして1997年、ジョブズはAppleに復帰し、翌年にiMacを発売します。iMacのヒットによってAppleは倒産の危機から一挙に立ち直り、黒字に転換したのです。Appleの成長にはジョブズの存在が必要不可欠だったのです。
ただ、ジョブズがいなくなった2011年以降もAppleは成長し続けています。なぜ、ジョブズを追い出した1985年のように衰退しなかったのでしょうか?その理由は、Appleにジョブズの哲学が植え付けられているからです。
1985年にジョブズが追い出されたとき、当時のCEOであるジョン・スカリーやAppleの取締役会は、ジョブズとはまったく異なるアプローチで経営を行いました。現に彼らは、コンピュータのラインアップを細分化し、顧客を混乱させています。当時のジョブズには、Appleを成長させることができる経営者を選択する余地がなかったのです。
しかし、2011年にジョブズがCEOを退くときには、数多くの選択肢がありました。ジョブズは、会社を黒字化するためにどのようなリーダーシップが必要かを理解している後任者を選ぶ必要がありました。そこで、選ばれたのがティム・クックです。実際、クックは今後のAppleの成長に大きく貢献することになります。
大きな変更点の1つは、チャリティーに関してです。クックは、Appleの従業員を対象にマッチング・プログラムを始めました。これは、従業員が501c3団体に寄付すると、一人当たり1万ドルを上限に会社も同額を寄付するというものです。このプログラムのおかけで寄付を行う従業員は増え、開始後1年以内にAppleはマッチングだけで130万ドル(約1.7億円)以上を寄付することができました。
莫大な収益を上げる企業としては、この額は大したことではないと思われるかもしれませんが、ジョブズの時代に何のチャリティ活動もしなかったことに比べれば、大きな進歩です。ちなみに、クック個人はすでに数百万ドルを慈善事業に寄付していますが、2015年のインタビューで、死ぬまでに8億ドル(約1,000億円)の全財産を慈善事業に寄付するつもりと発言しています。
また、クックは従業員割引と時給の引き上げを実施しました。例えば、Macは500ドル(約6.7万円)、iPadは250ドル(約3.3万円)の割引が追加されたそうです。Appleの小売店の離職率が業界最低レベルなのは、こうした福利厚生のおかげかもしれません。
Apple製品は「より高価格」で「環境を配慮したデザイン」に
次の大きな変化は、製品デザインにおける環境問題との付き合い方です。ジョブズ在任期間末期にはすでに環境に非常に優しい企業で、ほぼすべてのApple製品がリサイクル性に優れたEPEATゴールドの評価を受けていました。しかし、クックはさらに環境に配慮し、100%再生可能なエネルギーで会社を動かすことを目標に掲げました。そして、2018年に全世界で正式に達成しています。
さらにAppleは、サプライヤーのうち9社が同じく100%再生可能エネルギーで稼働できるよう支援しています。これはテック業界ではまったく前例のないことです。
しかし、Appleの環境への取り組みはこれだけにとどまらず、iPhoneを分解して内部の貴重な素材を回収し、デバイスをより効率的にリサイクルできるLiamとDaisyという2つのロボットも導入しました。また、2018年のMacBook AirとMac Miniは、初めて100%リサイクルされたアルミニウムが使用されています。これらの取り組みを見ると、いかにAppleが環境責任の限界を押し広げているかが分かります。
次の大きな変化はApple製品の価格です。Apple製品は2015年ごろから値上がり続けています。ジョブズがiPhoneの新モデルを発表したとき、その価格は決して上昇しませんでした。ジョブズはApple製品をできるだけ安くしたいと考えていました。その証拠にジョブズは、1984年に発売された初代Macintoshの価格は1,500ドル(約20万円)かせいぜい2,000ドル(約27万円)であるべきだと述べています。しかし、スカリーは結局2,500ドル(約33万円)に値上げしてしまい、一般消費者には手が届かない価格になってしまいました。
ティム・クック下のAppleでも、製品価格は上がっています。例えば、iPhone 3GSは199ドルでしたが、最新のiPhone 14は最低構成でも799ドルです。ただし値上げ効果のおかげで、Appleは手元資金を大きく増やしました。2011年にジョブズが去ったときの手元資金は760億ドル(約10兆円)でしたが、2018年頃は2370億ドル(約31兆円)にもなっています。
次の大きな変化はメディアと関わる頻度です。ジョブズは非常に秘密を持つ人間で、ほとんどインタビューに応じないことで有名でした。しかし、クックは違います。2011年にCEOに就任して以来、何十回となくインタビューに応じています。クックはFacebookがユーザーデータを販売していることを非難したことさえあります。クックが道徳的で透明性のある方法でAppleをリードし続けるのであれば、Appleユーザーのデータはしっかり守られることでしょう。
クックはApple製品をシームレスで使いやすく、デザイン性に優れ、かつ収益性の高いものにすることで、優秀なリーダーであることを証明しています。これは、企業の存続にとって重要なことです。ジョブズ自身も「船を浮かせるにはお金が重要だ」と述べていました。
しかし、ジョブズ時代から変わっていないこともあります。それは、Appleが今でも素晴らしいデザインの使いやすい製品を作り続け、業界で最高の小売店を作り続け、ユーザーのプライバシーを真剣に考え続け、すべての顧客体験を大切にしているということです。これらはスティーブ・ジョブズが生涯をかけて築き上げ、育ててきたAppleの本質です。このジョブズの哲学を、クックがしっかり引き継いでいるからこそ、Appleは今でも世界一の企業として成長し続けることができるのです。
2022-12-25 18:44:25