コロナ禍の中で、ヘルスケアやフィットネスの維持に関心が高まり、四六時中身に着けながらユーザーが自分で自身の健康を見守れるウェアラブルデバイスが大いに注目を集めた。Apple Watchもその代表的なプロダクトだ。
日本時間9月8日にアップルがクパティーノの本社で開催した新製品発表会で、Apple Watchの新しいシリーズとなる「Ultra」とApple Watch Series 8、第2世代のApple Watch SEという3つの新製品を披露した。イベントに参加した筆者が、現地での取材を元に新製品のインプレッションをレポートする。
アウトドア仕様を徹底強化したUltra誕生
今回、新しいアウトドアスポーツモデルのApple Watch Ultraが加わったことで、Apple Watchのメインシリーズが初めて3つのラインに枝分かれした。
アップルのCOO(最高執行責任者)であるジェフ・ウィリアムズ氏は、本機の発表にともない「Apple Watch Ultraは、ユーザーに冒険、耐久レース、探検の限界をさらに押し広げることを可能にする万能なツール」とコメントを寄せている。
衝撃耐久性が高く、腐食にも強い航空宇宙産業レベルの49mmチタニウムケースを採用。フラットな形状のサファイアクリスタルガラスの周囲には、ほんのわずかにケースの高さを加えて落下時にガラスへと伝わる衝撃を軽減するデザインとした。
筆者が今回クパティーノを訪れた期間、日中は36度以上、あるいは40度台に到達するほど「強烈な晴天」に恵まれた。燦々と照りつけるカリフォルニアのパワフルな陽射を受けても、Apple Watch UltraのRetinaディスプレイは視認性が損なわれない。iPhone 14 Proシリーズが搭載するSuper Retina XDRディスプレイのピーク輝度性能に匹敵する「2000nits」の明るい画面を搭載しているからだ。屋外スポーツを楽しむ際に期待されるキホンの機能を、Apple Watch Ultraは全方位に満たした。
またApple Watchで初めて、2つの周波数が異なるGPSセンサーを載せて、新しい測位アルゴリズムを組み込んだ。トレッキングやハイキングを楽しむ場面だけでなく、Apple Watch Ultraは高層ビル群の中でも現在位置が正確に測位ができる。都会に暮らすランナーにもぜひ新しいUltraに注目してほしい。
デザイン・装着感は意外にゴツくない
だが、もちろんアップルは新しいApple Watch Ultraを本気のアスリートや冒険家たちのためだけにつくったわけではない。発表会場ではUltraに多くのジャーナリストたちが熱い視線を注いでいた。現地でより深く取材を進めると、アップルがUltraの発売を契機として、さらに広く・多くのApple Watchユーザーを獲得しようとしている意気込みも伝わってきた。
例えばナイキのスポーツシューズを、日々ワークアウトに勤しむ習慣を持たない方もファッション感覚で買い求めるように、Apple Watch Ultraのスタイリッシュさを多くの潜在的ユーザーに訴えかけることにもアップルは力を入れている。
筆者は発表会場でApple Watch Ultraの実機に触れることができた。まず最初に「とても軽い」ことに驚いた。チタンを採用するメリットが存分に活きている。ケースのサイズが大きいため、実際のスペックを見比べるとアルミニウムケースを採用する45mmのApple Watch Series 8よりも重いのだが、筆者は直感的にこれならベッドで睡眠トラッキングをしながら使っても苦にならないだろうと思った。
アウトドアレジャー用のグローブ(手袋)を装着したままでも操作がしやすいように、Apple WatchのハードウェアインターフェースであるDigital Crownと右側面のボタンは、一段突き出たケースにガードされるようなデザインに仕上げている。ゴツそうに見えるが、大きく堅牢なベゼルとケースを備えるダイバーズウォッチに比べるとUltraはかなりスリムな腕時計だ。女性が身に着けても様になるだろう。
耐久生の高い3種類のバンドも、Apple Watch Ultraのために設計された。いずれも本体の耐久生が高く、バックルが衝撃を受けても外れにくいように工夫している。
Apple Watchの新機能「皮膚温測定」で何を測れるのか
Apple Watch Series 8は従来からのメインストリームモデルの進化形だ。完成されたデザインを受継ぎながら、装着した手首の皮膚温が測定できるセンサーを新設した。
皮膚温センサーは手首の肌に近い本体の背面に1つ、そしてディスプレイのすぐ下にもう1つをレイアウトしている。2つのセンサーを搭載することで、外部環境が計測に与える影響を避けることを目的とした設計だ。
皮膚温は睡眠中に計測する。Apple Watch Series 8(またはUltra)を身に着けながら5夜睡眠を続けて取ると、iPhoneのヘルスケアアプリに皮膚温の測定結果が記録されるようになる。皮膚温の表示は数値ではなく相対的な変化をグラフで読み取る形になる。
皮膚温測定は女性ユーザーの健康を見守ることに主眼を置いている。本機能により、ユーザーは推定される過去の排卵日の通知が受け取れるようになる。排卵が周期を知ることにより月経予測や家族計画に役立てられる。あるいは期間が長い月経や不正出血など基礎疾患の症状に疑いが見られた場合に通知を受け取るように設定することも可能だ。
コロナ禍の現在、ユーザーの体温が測定できるウェアラブルデバイスに注目が集まった。Apple Watchの皮膚温センサーは、ユーザーの体温測定を目的とした機能ではない。センサーによる皮膚温測定も睡眠中に行われるように設計されており、任意のタイミングでオンデマンドに測ることもできない。
なぜなら、手首に装着したウェアラブルデバイスだけで人の体温を高精度に測れるセンシング技術が今のところまだ存在しないからだ。アップルはまだ不正確な情報しか取ることのできないセンシング技術をApple Watchに載せることを是としなかった。反対の見方をすれば、皮膚温センサーはユーザーの日々の暮らしに役立つ完成度の高い機能であるといえそうだ。
ヘルスケアアプリに蓄積される皮膚温のデータは、HealthKitを介してサードパーティのデベロッパがこれをアプリの開発に役立てることもできる。皮膚温を元に、男性のユーザーにもストレス測定、あるいは睡眠解析など日々の生活をサポートする機能を提案することもいずれ可能ではないかと思う。
毎日の充電の煩わしさを解消する新しい低電力モード
そしてApple Watch Ultra、Apple Watch Series 8には常時表示Retinaディスプレイ、ワークアウトの自動開始、心臓の健康通知など一部のセンサーや機能をオフにして、ウォッチのバッテリー持続時間を長く伸ばせる新しい低電力モードが搭載される。Series 8は最大36時間、Ultraは最大60時間の連続稼働を実現するこの機能が、スマートウォッチの充電に煩わしさを感じ、嫌っていた人々の心を溶かすことになるかもしれない。
3万円台で買える新しいSEはパフォーマンス向上を実現
そして最後に第2世代のApple Watch SEについても触れておきたい。2020年に初めて登場したSEが2年ぶりにリニューアルされる。
上位モデルのUltra、Series 8と同じ、アップル独自の設計によるS8 SiPデュアルコアプロセッサを搭載したことで、第1世代のSEよりも約20%の処理高速化を実現した。
第1世代のSEとケースのサイズやデザインはいっしょだが、ケースの色に合わせて再設計されたバックケースにはナイロン複合材を採用して軽量化を図った。
何より、GPSモデルは税込価格がSeries 8よりも2万2000円も安い税込3万7800円〜で発売される。上位モデルのUltraでスポーティなスマートウォッチを好む層を取り込み、手頃なSEで「初めてのApple Watchユーザー」を開拓する。ウェルバランスなSeries 8を含む「3本の矢」が揃うApple Watchがこれからどんな飛躍を遂げるのか期待したい。
2022-09-08 20:49:34