メタバースは、頭からゴーグルのようなものを被ってリビングに座ったまま、対話、物品購入、デートなど、あらゆることをバーチャルでこなせる「はるか未来のスペース」だと思われている。 だが、メタバースが「単なる空間」以上の何かを表象しているなら? フィジカルよりもデジタルに生きることになったときの世界を表しているとするなら?ダブリンの「トリニティ・カレッジ」の敷地を抜けて、所蔵されている『ケルズの書』のページをめくれる 家から一歩も出ずにエベレスト山を登ったり、サメと泳いだり、グランドキャニオンでスカイダイビングをしたりすることを想像してみよう。専門家によると、いずれもメタバースなら可能だという。メタバースは、世界中の優れた技術者らによって構築されている新しいレベルのバーチャルリアリティだ。 「私は、ダブリンのトリニティ・カレッジの敷地を抜けて、所蔵されている『ケルズの書』のページをめくりたいのですが、それがVRならできるんです」とイギリスの未来学者アンドリュー・カリー氏は、アイルランドの最高学府に数百年にわたり保存されている福音書の写本に言及し、こう述べた。 メタバースの完成形では、リアルな画像や音声、さらには匂いさえも伝えられる見込みだ。フルスペクトラムVRヘッドギアを装着し、スマートウェア、触れた感覚を与える触覚グローブを身に着ければ、自宅にいながらにして旅行者としてアテネのパルテノン神殿に触れたり、韓国のダルゴナコーヒーのクリーミーな泡を味わったりできるかもしれない。 もはや自分自身でなくても良いかもしれない。メタバースの住人は、ブラジルの熱帯雨林で狩りをしたり、レブロン・ジェームズとしてマディソンスクエアガーデンでバスケットボールをしたりすることだってできる。限界は、イマジネーションが尽きるまでやってこない。 発展途上の技術、2030年が照準か? 「2030年までに、大部分の人が何らかの手段でメタバースにいることになるだろう」。こう予測するのは、ニューヨークにあるフューチャー・トゥデイ・インスティチュートの役員、メラニー・スビン氏だ。 彼女によれば、「仕事や教育上やむをえず」メタバースを使う人もいれば、「就業時間のほとんどを"つないで過ごす”」人も出てくるらしい。 メタバースでは、一人ひとりに拡張現実(AR)を構築することができる。それには「身体的、行動的特性によるバイオメトリックス、感情検知、感情分析、そしてパーソナルデータを織り交ぜる」ことが必要だとスビン氏は語る。 「ARのウェアラブル装置は、今日のスマートフォンと同じぐらい浸透するかもしれない」と、3Dテクノロジー企業セシウムのCEO、パトリック・コッツィ氏は述べる。彼以外の人々も、オキュラスのようなVRヘッドセットが携帯電話に完全に取って代わり、24時間常に装着し、友達とチャットしたり、買い物をしたり、バーチャルの成層圏を旅するような未来を見ている。 しかし、現行バージョンのメタバースでは、当面はそこまでのスペクタクルは期待できず、まだまだ道のりは長い。2030年という予測も、とてつもなく楽観的なものだろう。さらに、オキュラスのVRヘッドセットを30分以上身に着けたことがある人ならわかってもらえると思うが、メタバースのテクノロジーはまだまだ発展途上だ。 したがって、企業がメタバースに参入しているといっても、そのテクノロジーは未熟で、ビデオゲームや人気のないコンサートなど、ほんのわずかしか使用例がない。 スビン氏も『ニューロマンサー』や『レディ・プレイヤー1』のようにメタバースを完全に実現することは、夢のまた夢だということはわかっている。しかし、彼女は「いつになったら我々が映画『マトリックス』のネオのように行き来できるようになるのか?と問われれば、2030年のちょっと先ぐらいではないかと考えています」と付け加えた。
2022-09-04 20:11:36