2022年2月24日からロシアによるウクライナ侵攻が始まり、ネット上でも激しい戦いが繰り広げられています。ビッグ・テック各社はウクライナ政府と協力体制を築いており、あまり公にはなっていませんが、ウクライナの公的機関がフラグを立てたコンテンツのモデレートを優先的に行うことになっているとのこと。その措置がどれぐらい有効に行われているかを調査したレポートが発表され、YouTube、Twitter、LinkdInは対応率が著しく低いことが指摘されています。
このレポートは、ビッグ・テックの対応に不満を感じたウクライナ政府が、ヨーロッパを拠点とした複数の非営利団体の連合・Disinformation Situation Centerの独立研究者らと提携し、調査を行ったもの。
ウクライナ政府から削除要請のあったコンテンツを、「1:クレムリン(ロシア政府)による戦争プロパガンダやヘイトスピーチを拡散するアカウント」「2:InstagramとFacebookでのなりすましアカウント」「3:LinkedInでのクレムリンによる戦争プロパガンダ」「4:Facebook・YouTube・Twitterでのヘイトスピーチ」「5:Metaの製品・サービスでの戦争プロパガンダに該当する広告」の5つに分類し、それぞれについて、ビッグ・テックがどの程度対応したのかを分析しています。
その結果、Metaはウクライナ当局によりフラグの立てられたコンテンツに対してかなり効果的な対応を行っているものの、アカウント自体はプラットフォーム上に残っているケースが多く、YouTube・Twitter・LinkedInはそもそもフラグの立てられたコンテンツへの対応率自体が低いことがわかりました。
政府の担当者によると、フラグの立てられたコンテンツへのプラットフォーマーの対応は数週間かかることもあり、まったく反応がないことも少なくないとのこと。
具体的に、ヘイトスピーチへの対応をグラフ化したものが以下。縦軸は対応した割合で、赤は分析時点で利用不可能になった件数、青は分析時点でまだ利用可能だった件数を示しています。棒グラフは左からYouTubeの動画、YouTubeのコメント、Facebookの投稿、Facebookのコメント、Twitterのツイートの順で並んでいて、Facebookに投稿されたヘイトスピーチは確認された98件がすべて削除され見られないようになっていたことがわかります。Facebookはコメントも48件が削除され、残ったのは10件でした。一方、YouTubeはヘイトスピーチを含む動画もコメントも削除されたのは3割程度、Twitterも同様でヘイトスピーチと報告があったツイートで削除されたのは3割弱でした。Twitterではそもそも問題となったツイートの数がYouTubeとFacebookの合計よりも多くなっています。
ドイツのシンクタンク・CeMASの共同CEOであるピア・ランバーティ氏は、ロシアによるプロパガンダはウクライナ人だけを目標としているわけではなく、ロシアに対する石油制裁やウクライナへの軍事支援などでコストがかさむことを言い触らすことで、ウクライナ側に立っている国々の国民の支持を弱体化させようとしていると指摘。
ランバーティ氏は、ビッグ・テックが削除要請に応じることも重要である一方、最も必要となのは、プラットフォーム全体でロシアのプロパガンダネットワークを監視するための積極的・体系的なアプローチを取ることであり、「ファクトチェックが必要になるようなら、すぐに手遅れになります」と警告しています。