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東工大、6G時代向けの超小型衛星搭載用Ka帯フェーズドアレイ無線機を開発

東京工業大学(東工大)は、第6世代移動通信システム(6G)時代の低軌道衛星コンステレーションに利用可能な超小型衛星搭載用Ka帯フェーズドアレイ無線機を開発したこと、ならびに衛星通信における右旋・左旋の両円偏波を同時に利用したKa帯高速通信を、CMOSフェーズドアレイICを用いて実現したことを発表した。

同成果は、東工大 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の白根篤史准教授、東工大 工学院 電気電子系の岡田健一教授らの研究チームによるもの。詳細は、米・コロラド州デンバーで現地時間6月19日から21日まで開催された、無線周波数の集積回路に関する国際会議「Radio Frequency Integrated Circuits Symposium 2022(RFIC 2022)」にて発表された。

6Gにおいては、地上だけでなく上空や宇宙といった、非地上のネットワークを用いた通信網の構築が期待されている。従来の衛星搭載用の無線機では、長距離かつ高精度な右旋・左旋両円偏波を実現するため、ホーンアンテナのような一方向にのみ高い利得を持つ大型のアンテナが用いられてきた。しかしこのようなアンテナでは、低軌道衛星において常に地球を指向するために大規模な姿勢制御機構が必要となり、超小型衛星への搭載が困難だった。

一方で、フェーズドアレイ無線機を用いることで基板上の平面アンテナによるアンテナ部の小型化、さらにビームステアリング機能による姿勢制御なしでの通信方向の制御が可能となるものの、その場合、円偏波の精度がビームステアリング時に劣化してしまい、両円偏波を用いた高速通信が困難という課題を抱えていたという。

そこで研究チームは今回、新たに円偏波補償回路およびインピーダンスチューナ回路を考案することで、どのようなビーム角においても円偏波精度を劣化させることなく両円偏波を用いた高速な無線通信技術を開発することにしたという。

●2つの新技術で小型化、高効率化、高性能化を実現
考案された円偏波補償回路は、円偏波の精度を決める2つの直交信号の振幅および位相を正確にIC内部で検出することが可能だという。2つの直交信号それぞれに対して同じ電圧検出回路を用いて振幅を検出し、再度同じ電圧検出回路を利用して2つの信号の位相差を検出するといった同じ検出回路を用いることで、回路間におけるミスマッチなく、精度の高い振幅および位相情報を得ることができ、高精度の円偏波の実現を達成したという。

また考案されたインピーダンスチューナ回路は、ビームステアリングによるアンテナインピーダンス変化をフェーズドアレイIC側で補償することで、どのビーム角においても高い電力効率で通信することを可能にするというもの。人工衛星のアンテナにおけるインピーダンスは、ビームステアリングの設定される角度によってのみ変化することから、比較的狭い範囲でのインピーダンス変化となる。そのことから、今回の研究では、人工衛星のビームステアリングに特化したインピーダンスチューナ回路を新たに開発し、フェーズドアレイICに集積化することに成功したという。

プロトタイプのKa帯フェーズドアレイ無線機は、8個のフェーズドアレイICと32素子のアレイアンテナで構成。フェーズドアレイICは、シリコンCMOSプロセスを用いて製造され、1チップあたり8系統のトランシーバを集積し、4素子の両円偏波対応アンテナを駆動させることを可能としたという。また、1系統あたりの面積は、0.38mm2と小さく、出力電力と消費電力で定義される送信電力効率は14.4%と、ほかの衛星搭載向けの無線機と比べても高い効率を達成したとする。

実際に、同無線機と測定評価用のアンテナを用いたOver The Air(OTA)測定による、無線通信特性の評価が行われたところ、新開発の円偏波補償回路およびインピーダンスチューナ回路を利用することで、1.39倍の電力効率の改善、ならびに右旋・左旋の両円偏波で16APSK変調時に14.8dB以上のEVMの改善効果が確認されたとする。

なお研究チームでは、今回開発したKa帯フェーズドアレイ無線機を、数年以内に小型衛星に搭載して実際に打ち上げ、宇宙実証を行う計画だとしており、今後の衛星コンステレーション時代の到来を加速させるとしている。



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