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イーロン・マスクのツイッター買収は本当に言論の自由を実現するためなのか?

イーロン・マスクのツイッター買収の話題は、日本でも盛り上がっている。「マスクがツイッターを手に入れたら投稿後のツイート編集機能をつける? 」「ツイッターは有料化する?」 など、本当にマスクが検討していることから、単純に発言の意図を誤解しているものまで、さまざまな議論が百出している。

日本は、顔見知り同士でつながるフェイスブックやビジュアル中心のインスタグラムよりも、テキスト中心のSNSであるツイッターのほうが活況を呈している世界でも珍しい国だ。やはりその動向を左右しかねない今回のマスクによる買収は、多くのユーザーにとって関心事にちがいない。

ただ、基本的に話題となっているのは「今後のツイッターにどんな機能がつくのか?」というようなもので、自分たちが今後も引き続き楽しめるのかというような内容である。しかし、当のアメリカではもっとシリアスに捉えられていて、政治問題化していると言ってもいい状況だ。

「アップセット」という言葉の意味

アメリカにおいて今回の買収は、言論の自由(free speach)をめぐる問題であり、イーロン・マスクなら、どんなに楽しくしてくれるかというような話は二の次なのである。では、マスクがツイッターを買収して、上場廃止となり、公開市場から消えてしまったら言論の自由が消えるということなのだろうか。

マスクはいまのところはその逆だと言っている。つまり「言論の自由を実現するためにツイッターを買収する」と言っているのだ。マスクはツイッターをどうする気なのか。彼はこの件について下記のようにツイートしている。

「For Twitter to deserve public trust, it must be politically neutral(ツイッターが公的に信頼されるためには、政治的に中立でなければならない)」

特に違和感のない、至極まっとうな議論である。たしかに偏ったイデオロギーや党派性に染まったツイッターに、民主主義の成立要件である言論の自由があるとは言えない。しかし、このツイートには、まだ続きがある。

「which effectively means upsetting the far right and the far left equally (それは、事実上極右と極左を平等に『アップセット』させるという意味だ)」

この「アップセット」という言葉が曲者だ。一般的には、「混乱」「動揺」と訳す。この場合は、「ツイッターが政治的中立になれば、極右も極左も混乱する」という意味になるだろう。これはSNSなどインターネットで起こりがちな「集団極性化(group polarization)」を防止することを指していると解釈できる。

「集団極性化」というのは、インターネットでは極端な人がより多く発言し、また穏健な意見よりもわかりやすく説得力を持ってしまうため、極右、極左などがより過激な発言を繰り返し、結果、政治思想的な「極」に意見が偏りやすくなるという現象だ。これがなくなるぞとマスクは言っていると解釈できるのだ。

マスクが実現しようとしている空間とは

しかし、そんなベタな解釈はマスクにはおそらく通用しないだろう。マスクはツイッターのユーザーを煽って、むしろ集団極性化現象を利用してきたという前歴がある。

例えば、すぐに自ら消したツイートだが、先日カナダのコンボイラリーを弾圧したトルドー首相をヒトラーになぞらえた画像を投稿した。カナダの人口の倍以上の9000万人超のフォロワーを誇るマスクがそれをやるのは、各国の保守層やオルタナ右翼を煽るに十分な影響力だ(誤解のないように言っておくとコンボイラリーの参加者はむしろ政治的に穏健な中立派が多かった)。

実際に極左や極右(特に極右)を煽らないよう、ツイッターのみならず、SNSのメガプラットフォーマーは、極端に攻撃的な意見や、(彼らがそうとみなした)フェイクニュースへの検閲を昨今は強めている。

ツイッターなどは、当時、現役のアメリカ大統領であったドナルド・トランプのアカウントをバン(禁止)するという思い切ったことまでやった。となると、集団極性化の防止というものは、マスクがわざわざ買収してやるまでのことではないのだ。

では、彼の言う「アップセット」とは何か? 実は「アップセット」には「怒る」という意味もある。つまり前述のマスクのツイートは次のように言っているとも受け取れる。

「ツイッターが公的に信頼されるためには、政治的に中立でなければならない。それは、事実上極右と極左を平等に怒りに燃えさせるという意味だ」

つまり、検閲をすべて止めて、自由放任の言論を与え、その結果として集団極性化がもたらされたとしても、それこそが公的に信頼されるツイッターなのだと言っているとも解釈できるのだ。

これまでのマスクの来歴や、もともと政府機能を極端に小さくするべきだというリバタリアンであるということを鑑みるに、本当に実現しそうなのは、争いに溢れているが本当に自由な言論空間、差別もあるが本音も臆せず言える公共空間、そんな世界を実現させるために動いていると考えるのが自然だろう。

しかし「アップセット」というのは、両義的で賢いワーディング(言葉の使い方)だ。マスクは、単なるリバタリアンではなく、抜け目のないビジネスマンとして、いざという時の逃げ道をしっかり確保しているとも言える。



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