あらゆるものがサービス化されるXaaS(X as a Service)の発展が目覚ましい。Circular Economy Hubでは、XaaSのなかでもPaaS(Product as a Service/製品のサービス化)、さらにその先に循環性向上を見据える循環型PaaSの真価を問う特集をお届けしている。
今回は、快適な空気環境の提供を目指し、空調機の導入と保守運用の事業をパッケージにしてPaaS型のビジネスモデルで提供するサービス「Air as a Service(AaaS)」を三井物産と共同で開発した、ダイキンエアテクノを取材した。
Air as a Service とは
AaaSは、利用者が空調機を購入・所有せず月額制で利用できるサービスである。機器の選定・施工から最適な運転の実行、エネルギーマネジメント、保守メンテナンスまでをダイキンがワンストップ体制で行っている。ダイキンは、法定点検を実施するだけでなく、故障予知による予防メンテナンスで空調の安定稼働を保証している。顧客にとっては、空調の初期導入・電力消費・運用管理にかかる費用と人的労力を削減でき、また不具合が発生した際に予想外の修理費が発生することも避けられる。
2022年2月時点での同サービス採用数は約30施設。医療や福祉関連の施設が半数を占め、その他オフィスビル・店舗・工場・学校・宿泊施設などが続く。いずれも中小規模の施設であることが多い。AaaSの導入により、顧客が空調の状態を気にすることなく、本来の業務に集中できることがメリットだ。なお当サービスは、2020年度省エネ大賞に選ばれている。
今回編集部では、ダイキンエアテクノ 取締役 エンジニアリング本部長の浜口守さんと、エンジニアリング本部 PaaS企画部 エアアズアサービス推進グループ 課長の石川大地さんに同サービスについて主に循環性向上の観点からお話を伺った。(以下は両氏のコメント)
本サービスの立ち上げの経緯・背景は?
2015年に三井物産より、業務用空調のProduct as a Service 型事業を国内から共同実施することについての提案を受けました。いずれは海外展開を視野に入れてのお話でした。1990年代にITや通信の分野から始まった「モノからサービス」への流れは、IoT技術の普及が進展するに伴い、ハードウェア中心の産業にも広まっていました。
当社としても、それまでの製品売り切り型のビジネスモデルから、お客様に提供するソリューション自体を利益の源泉にしていく新たな販売手法を探していたところでした。売り切り型のビジネスでは、お客様との接点は製品の販売時と修理時のみに限られていますが、今後は長期間にわたってお客様とつながり続けるビジネスモデルも必要だと考えていたのです。
さらに、お客様の製品利用データの収集やその解析により、空調利用時に発生する「ムリ・ムダ・ムラ」を無くし、省エネルギーを実現、環境負荷を削減するという効率化も見込めました。
事業を実施する際にキーとなるのはIoT(データ活用)とファイナンスと考えており、IoTについてはダイキンの持つ強みを活かし、ダイキンにはないファイナンスの分野については三井物産が補完するという方法で、事業を立ち上げることになりました。「ソリューション事業自体が高付加価値を提供し、収益性を持つ」ビジネスモデルのスタートです。
2016年7月のエアアズアサービス立ち上げ後、2018年1月に本格的なサービス開始を発表。2019年にはダイキンからの資本金を増資し、三井物産とダイキンからの出向社員を含むメンバーで会社を運営しています。お客様への提案やサービス契約はAaaS社が行い、空調の設計・施工・保守・エネルギーマネジメントはダイキングループで提供しています。
PaaSモデル構築にあたっての課題意識・顧客ニーズとその解決策は?
どのメーカーも先進的な省エネ機器を開発するようになってきていたのですが、普及率が低いという実態がありました(省エネ型 : 標準型 = 3:7)。また、売り切り型のビジネスモデルでは、せっかく省エネ機器が納入されても、運用時にお客様がその機能を充分に使いこなせておらず、メーカーはお客様の利用シーンにまで入り込めていないという点も課題でした。
さらに、施設の設計・運用の工程において、設計~施行~保守~エネルギーマネジメントなど各プロセスに関わるステークホルダーが多く、空調システムがうまく機能しない事態が発生した場合の責任の所在が不明確であるという点も、製品のライフサイクルにおける省エネ・環境負荷低減を阻む要素となっていました。
一方で、省エネ・省コストを実現したいというお客様のニーズは従来からありました。ビルなどの施設で空調設備を導入しようとすると、初期投資だけで1億円規模の予算が必要になることもあります。また、購入後も突発的な不具合で修理が必要になるなど、予想外のコストが発生することはお客様にとって大きな課題でした。
近年はそれに加え、猛暑による熱中症のリスクを下げるために空調の重要性がより高まり、特に医療機関などでは慢性的な人手不足のため、空調の管理などをアウトソースしたいというニーズも高まってきています。
これらを総合的に解決するために、空調を安定稼働する責任をサービス提供側が保証し、なおかつお客様は月額の固定費でそれを利用できるようサービスとして、AaaSを立ち上げました。これによって、設計からエネルギーマネジメントまでのすべてのプロセスにダイキングループがワンストップで責任を持ち、お客様の空調機器の利用状況を常に把握し、省エネ・環境負荷低減につながるような空調機器の運転を実現できるようになりました。
空調の稼働時間が長く、かつ空調の稼働保証がより重要となる施設(病院・福祉施設・宿泊施設など)から特に高い評価を頂いています。
PaaSモデルだからこそ得られるエアコンの省エネ効果とは
空調機器の省エネ性を最大限に引き出すために、主に以下3つのアプロ―チが必要だと考えています。
1.その施設にあった最適な機器を選定し、設備設計をすること
2.運用改善のためのコミッショニング(年間の稼働データを分析・見える化し、省エネ運用のムダやムラを検証)と省エネを実現するチューニング
3.ハイブリッド型のメンテナンス(遠隔からの自動運転と、現地でのフィルター定期清掃やフロン排出の法定点検)を実施すること
これらの施策により、従来型の売り切りモデルより16%程度エネルギー消費量が抑えられると見ています。また、実際に当モデルを導入された病院の例では、2年間で空調にかかる電気使用量を37%削減できたという実績も出ています。
PaaSモデルだからこそ得られる長寿命化・導入コストの削減効果とは
売り切り型の場合、故障停止時の影響範囲を最小限にするために系統を細分化するという設計方法を採用します。この方法では、停止時の影響範囲を小さくとどめることができる一方で、復旧までの時間を要するというリスクがあります。
PaaS型の場合、室外機系統の統合モジュール化を推奨しており、負荷実態に合わせた自動交互運転によって圧縮機の稼働を平準化しつつ、24時間365日遠隔監視します。万が一の故障時もバックアップ運転や早急な対応で室内の空調環境を保つことができ、機器の長寿命化も期待できます。
また、実際のピーク空調負荷に合わせた独自の設計手法も併せることで、部屋の広さに対するエアコンの大きさや台数の最適化を図ることができるので、導入時のコスト削減につながります。
PaaSモデルによってメーカーが製品の所有権を持ち続けることで、製品の寿命にはどのような変化が見込まれるか
AaaSでは、ダイキンが定期的にお客様の利用機器のメンテナンスを行うので、故障につながる要因を早期発見することにより、製品寿命を延ばせる可能性が高まります。
利用期間が長くなると空調設備の劣化が進んでいきますが、弊社のサービスにより劣化進行速度を抑え、お客様に初回ご利用頂く10-13年を超えて、設備の性能を維持していく考えです。
さらに、お客様の施設で利用期間が終了し回収された製品のうち、再利用可能な部品については別の製品での再利用も行います。空調設備は室外機・室内機など複数の機器で構成されていますが、寿命の長い室内機は長期間使用し、寿命の短い室外機だけを先に交換するなど、使えるものは長く使うように組み合わせてサービスを提供しています。
顧客の機器利用データはどのように活用されているのか
ご提案前にエアコンの使用実態を1年間計測すると、そのビルや部屋に対する最適なエアコンの大きさや台数などがわかります。お客様が現状利用している空調機よりも能力が低い機器に変更しても問題ないことも多く、省エネ・省コストにつながる提案を行っています。
また、サービス開始後はお客様の空調利用状況を常にモニターしているため、空調の消し忘れや設定温度が高すぎる・低すぎるなどの利用状況も把握でき、運転効率を改善するための提案や、電力使用のピーク時に使用を抑える提案につながっています。
PaaSモデルがもたらす、利用者とサービス提供側双方へのメリットとは
インタビューより、利用者とサービス提供側双方へのメリットを下記にまとめた。
利用者にとって
・サービスの導入により下記空調のライフサイクル全体で発生するコストの低減が見込める。
製品の設備導入に関わるイニシャルコストの低減
修理や補修にかかるメンテナンスコスト低減
空調機器の運転にかかるエネルギーコスト低減
・これらの工程で発生する人的リソースを、サービス提供側に任せることができるため、空調の不具合を心配することなく本来の業務に集中できる
サービス提供側にとって
・利用者の設備利用状況を常に把握することで、顧客の新たなニーズを汲み取り、サービスの設計に反映させたり、機器の消耗具合などを把握して今後の製品開発に反映させたりすることも可能
・サービス提供側が利用者に対して省エネ・省コストを提案、実現していくことはCO2排出量の削減に直結する。利用者の低炭素化に貢献できうる
・製品自体の長寿命化につながる
今後の循環性向上に対する期待は大きい
AaaSは立ち上げから数年というまだ若い事業であり、一般的な寿命が10-13年とされる空調設備は、AaaSの開始以降これまでまだ寿命を迎える時期には来ていないのが現状である。
今回のインタビューより、PaaSモデルでの空調サービスの提供により、顧客の機器利用データの活用による空調の運転方法の改善提案やメンテナンスの提供など利用の最適化に加え、製品自体の循環性も向上していくであろうことが大いに期待できた。
現在は日本国内で展開されている本サービスだが、今後は立ち上げ時の目論見のように海外展開の可能性も考えられる。もう少し時間が経過し、AaaSサービスが成熟してきた時期に、どのような成果が生まれているか、改めてお話を伺ってみたい。