アップルがiPhone向けの次期OS「iOS 15.4」のパブリックベータを公開した。顔認証機能のFace IDを搭載するiPhoneも、画面のロック解除やアプリのサインインなどがマスクを着けたまま行えるようになる。その使用感を体験した。
“パブリックベータ”では、次に正式リリースを予定する新しいソフトウェアの品質を向上するため、一般ユーザーに向けてプレリリース版を提供し、フィードバックを得ることを目的としている。
iOS 15.4のパブリックベータは、Apple Beta Software ProgramからユーザーのApple IDとデバイスを登録すれば誰でも無償で試せる。
なお、パブリックベータ版ソフトウェアにはバグが含まれていたり、使用時に不具合が発生する場合もある。また、アップルの最新版OSパブリックベータの画面を公開することは禁じられているが、本稿では取材に基づく特別な許可を得たうえで掲載している。本稿で紹介する画面の表示、設定の手順などについては正式版で変更される場合もあることは了承いただきたい。
念入りに画像収集する理由
今回筆者はiPhone 13にiOS 15.4のパブリックベータを入れて試した。ソフトウェアのダウンロードとインストールには30分ほどかかったが、サーバーの混雑状況やユーザーが使用する通信回線の速度によって所要時間は変わる。
iOS 15.3まではFace IDを有効化するため、ユーザーは2度の顔画像の登録が必要だった。
iOS 15.4では初期設定の手順が少し変わった。新しくiPhone購入して、初めてFace IDを登録する際にはまず1度目の顔画像登録を行う。直後、iPhoneには「マスクを着用した状態でFace IDを使う」かを訊ねる画面が表示される。
既にFace IDのセットアップを済ませているiPhoneからiOS 15.4にアップデートする場合、この1度目の顔画像登録のプロセスは省略される。
「マスク着用時にFace IDを使用する」かを選択する画面で、「YES」を選ぶと2度目の顔画像登録に進む。
さらにユーザーが日常からメガネを着用している場合は、メガネを外した状態で3度目の顔画像登録が必要だ。念入りに画像を収集する理由は、iPhoneが「ユーザーの目の周辺の固有な特徴」を判定して、マスクを着けたままでの顔認証を行うからだ。そのため、マスクを着けた状態での顔画像登録は不要だ。
Face IDの登録・リセットは、初期設定をスキップして後から行うこともできる。iPhoneの「設定」アプリを立ち上げて、「Face IDとパスコード」を選択した中の画面に該当のメニューがある。日常2本以上のメガネを使い分けている方は、「メガネを追加」しておきたい。
「視線」を外すと解除できにくい
セットアップの完了後、一般的な不織布マスクを着けてiPhoneの画面ロックを解除してみた。画面をタップして点灯させた後、いつものように下から上に向かって画面をスワイプアップすると速やかにロックが解除された。
あまりに何事もなくロックが解除されるので不安になったが、iPhoneの画面にはFace IDが正しく動作していることを知らせる南京錠のアイコンとFace IDの文字が表示された。App Storeでのアプリの購入認証も、マスクを着けたまま難なくできた。
「設定」アプリの画面には、マスク着用時にもFace IDを正しく動作させるために必要ないくつかの注意事項がある。まず、ユーザーはFace IDを使用する瞬間にiPhoneの画面を注視しなければならない。わざと視線を外して試したところ、確かに画面のロック解除はできなかった。サングラスも注視検出の邪魔になるため、正しく動作しない場合があるようだ。
寒い冬には首にマフラーなどの防寒具を巻いて外出したり、音楽リスニングにもヘッドホンを使う機会が増える。それぞれを装着した状態でもFace ID認証は成功した。要はユーザーの視線と、目の周辺がiPhoneのフロントカメラで読み取れれば動作に問題はなさそうだ。
他人が解除できてしまう確率は?
マスクを装着したまま、iPhoneのロックを解除できる機能は2021年の春に公開された「iOS 14.5」以降から、watchOS 7.4を搭載するApple Watchを併用する形で先に実現している。
本機能の場合、それぞれのデバイスが近接していれば、ユーザーがサングラスを身に着けていてもロック解除が行える。その代わりに、家族など周囲にいる誰かがiPhoneのロックを解除できてしまうことも指摘されていた。
iPhoneの画面を注視する必要があるiOS 15.4のアップデートは、プライバシー保護の観点からも進化を遂げたと言えるだろう。何よりApple Watchを所有していないiPhoneユーザーには大きな朗報だ。
顔全体を認識する従来のFace IDと同じく、マスク着用時のFace IDでiPhoneのロックを他人が解除できてしまう確率は「およそ100万分の1」という、セキュアな使い勝手を実現しているという。またさらなる安全強化策として、マスク着用時のFace ID認証に5回失敗するとパスコードの入力が必要になるように機能が設計されている。
ついにホームボタンがなくなる日が来る?
コロナ禍によるパンデミックが今後落ち着きを見せる方に向かったとしても、日本国内では花粉症の季節などにも、多くの人々がマスクを日常的に身に着ける習慣がある。今後はFace IDを搭載するiPhoneが選びやすくなりそうだ。
Face IDによる顔認証とマスクの相性問題が解決されれば、現行モデルの中では唯一iPhone SEが搭載する指紋認証センサー内蔵の「ホームボタン」が、いよいよiPhoneから消滅する時が来るかもしれない。