メールやYouTubeのムービーなどのインターネット上を行き来するデータは、伝送中の電波干渉などによるノイズの混入を避けられないため、データの受信側は受信したデータにノイズ除去処理を施す必要があります。マサチューセッツ工科大学の研究チームが、このノイズ除去処理を効率的に行える新たなデコーダーの開発に成功しました。
文書ファイル・画像ファイル・音楽ファイル・ムービーファイルといったようにファイルにはさまざまな形式が存在し、一口にムービーファイルといってもH.264やAV1などの多様なコーデックが存在するといったように、現代では非常に多くの種類のファイルが扱われています。これらのファイルには個別のデコーダーが用意されていますが、MITによるとデコーダーに用いられるアルゴリズムが非常に複雑であることから、それぞれのデコーダーのために専用のハードウェアを開発する必要が生じているとのこと。そこで、研究チームはあらゆる種類のファイルに対応するデコーダーとハードウェアの開発に取り組みました。
今回開発が発表されたのは、ユニバーサルデコードアルゴリズム「Guessing Random Additive Noise Decoding (GRAND)」と、GRANDを採用したハードウェアデコーダーです。通常のデコードアルゴリズムでは受信したファイルを解析してファイル形式を判断した後でデコードを開始していましたが、GRANDでは「各ファイル形式ごとのノイズが発生しやすい部分を確認することで、迅速にファイル形式を判断する」という手法が用いられています。この手法について、研究チームはGRANDの特徴を自動車修理に当てはめて、「自動車を修理する際に、わざわざ設計図を書き起こす人はいません。まずはガソリン残量をチェックして、次にバッテリー切れの有無をチェックします」と解説しています。
また、新開発のハードウェアデコーダーではチップに3層構造を採用しており、1つの層で単純なノイズパターンを解析し、残り2つの層で複雑なノイズパターンを解析するとのこと。これらの層は独立して動作し、電力効率の向上に貢献するとされています。さらに、研究チームが行った実証実験では128MBのファイルを数マイクロ秒でデコードできたとのことで、GRAND採用チップの性能の高さが示されています。
研究チームは今後もGRANDの対応可能ファイルサイズ拡大やチップの構造最適化による電力効率向上に取り組み、5GネットワークやIoTなどの分野でのデコード効率を向上させることを目標としています。