世界的に新型コロナウィルスが経済に影響を落としている中、調査会社が発表したスマートフォン出荷量で大きな動きがありました。シャオミが暫定ながらも史上初の1位に、またrealmeが恐ろしいほどの急成長で存在感を高めています。
カウンターポイントの調査では、2021年6月の全世界のスマートフォン出荷量でシャオミがサムスンを抜いて1位となりました。一般的にこの手の調査は季節内の変動要因を抑えるために1四半期ごと、すなわち3か月単位でデータが発表されます。たとえば6月は中国で「618」と呼ばれるECサイトの大規模なセール期間があり、中国国内のスマートフォンの販売数が急増します。
ちなみに618とは6月18日の意味で、中国最大のECサイトJD(京東)の創業日にあやかり、JDが開始したもの。その後Tmallなどライバル各社も追従し、618は1年の中でも最大級とも呼べる大セールが行われ、スマートフォンも売れまくります。
カウンターポイントによると、2021年6月の出荷台数のシェア数は、シャオミが17.1%、サムスンが15.7%、アップルが14.3%でした。
上位3社のここ数年の毎月の動きを見ると、シャオミはブレがありながらも着々と右肩上がりに出荷数を伸ばしていることがわかります。これに対してアップルは秋の新製品発表から上向きになり、12月はサムスンを抜き去るものの、年が明けるとそのまま下がっていく――の繰り返し。いびつな線を描いています。一方のサムスンはアップルの動きの影響をもろに受けており、通年1位とはいえ冬商戦ではいいところを見せられていません。
このことからわかるように、6月にアップルが3位になったのはシャオミに抜かれたというよりも想定内のこと。むしろアップルは前年6月よりも高いシェアを誇っていますから、既存のiPhone 12シリーズが不振なのではなく、しっかり売れていることがわかります。
ではなぜサムスンが落ち込んだのでしょうか?グラフを見るとサムスンは例年春から夏にかけては絶好調でアップルを大きく引き離しています。しかし今年は新型コロナウィルスのおかげで大きなダメージを受けました。サムスンのスマートフォンの主力上場のあるベトナムで5月から感染者が急増し、工場が生産停止に追い込まれ能力が大幅に落ち込んでいます。なおサムスンだけではなくフォックスコンなど、同じベトナム北部に工場を持つ他の企業にも影響を与えています。
サムスンはGalaxy S21シリーズを1月に投入したほか、ミドルレンジモデルを中心としたGalaxy Aシリーズのラインナップを今年に入ってから大きく変えました。最大の特徴は5Gへの対応。中国メーカーの低価格モデルにも対応できる「Galaxy A22 5G」をはじめとして「Galaxy A32 5G」「Galaxy A42 5G」「Galaxy A52 5G」と中低価格モデルをすべて5Gへ対応させました。これでシャオミなどに対抗する予定が、製品が生産できなければ出荷台数も増えません。
またこれから出てくるサムスンの「Galaxy Z Fold3」などがこの秋以降、高い注目を集めることは約束されているようなもの。カウンターポイントのアナリストが「サムスンの動きを握るのは工場の動き」と語っているように、ベトナム政府の新型コロナウィルスの抑え込みがうまくいくかどうかが、サムスンのこれからの動向の大きな鍵となりそうです。
さてiPhoneが売れている日本では、世界中で売れているのはハイエンド・高価格な製品と思われがちですが、全世界で実際に売れ筋なのはミドルレンジ以下の手ごろな価格の製品です。オムディアによる調査を見ると2020年のスマートフォンの機種別出荷台数は、1位が「iPhone 11」、2位が「iPhone SE(2020年モデル)」。またサムスンでトップ10に入っているのは「Galaxy A51」「Galaxy A21s」「Galaxy A01」「Galaxy A11」。そしてシャオミで唯一トップ10入りしたのは「Redmi Note 9 Pro」でした。
シャオミもカメラ特化の「Mi 11 Ultra」など上位モデルを出してはいますが、多くの国では低価格なRedmiシリーズが爆発的に売れています。「なにがなんでもハイエンド」という消費者の数は現実的には多くありません。
シャオミはハードウェアの利益を原価の5%以内に収めると公言し、コストパフォーマンスの高い製品を次々と出しています。先進国で所得に余裕のある層や、ハイエンドモデルが好きな人たちは他のメーカーの製品を買うかもしれません。しかし世界各国の多くの消費者にとってシャオミのスマートフォン、特にRedmiシリーズは「こんなに安くていいの?」と驚きを与えているわけです。日本市場でRedmiを中心に展開しているのも、確実にシェアを取ろう――と本気で考えているからでしょう。
シャオミは折りたたみ式の「Mi MIX Fold」など最新技術搭載のモデルも出してきてはいますが、地道に「低価格・高コストパフォーマンス」の製品を作り続けてきたことで、世界中の消費者の支持を受けているわけです。もちろんシャオミの製品では満足しない――という人もいるのは当然です。しかしシャオミがどこの場所、地域であれ1位になったということは、シャオミの製品で満足する人が世界で一番多かった、という事実そのものなのです。
シャオミの強さはストラテジーアナリティクスの2021年第2四半期のヨーロッパのスマートフォン出荷量を見てもわかります。ヨーロッパの4月、5月、6月の合計の数字ですから中国市場の動きは加味されていません。この3か月間でシャオミはサムスンを抜いて1位になっています。ヨーロッパでもハイエンドモデルが売れていると思う人も多いでしょうが、ドイツやフランスなどでも保守的な消費者が多く、価格に見合った製品を買う人が多く存在します。シャオミのスマートフォンは3-4年前のスマートフォンを使い続けていた人たちにとって、買い替え先として大きな魅力に映ることでしょう。
さてシャオミ1位の陰に隠れてしまっていますが、realmeの躍進がついにヨーロッパ市場でも無視できない存在になろうとしています。上記の表を見るとシャオミは前年同期比67.1%の伸びでしたが、realmeは1800%の成長。つまり約20倍もの台数が出荷されたのです。これはシャオミが低価格なRedmiで出荷台数を伸ばした理由と重なります。realmeの製品も価格は割安です。
各メーカーのシェアはシャオミがシャオミが25.3%、サムスン24%、アップル19.2%、OPPO5.6%、realme3.8%、その他22.2%であり、realmeの数値は上位3社からは大きく引き離されています。しかしノキアブランドを展開するHDM GlobalやOnePlusを抜いたということは、「低価格・高コスパ」そして「カッコいい」というrealmeの製品戦略が先進国でも十分受け入れられていることを表しています。
おそらくですが、ヨーロッパの若者たちはシャオミのRedmiを買うよりも、同じ価格・性能のrealmeのスマートフォンを勝っていることでしょう。なお話題の深澤直人氏デザインによる「realme GT Master Edition」もヨーロッパでの販売されるようです。
realmeは2021年6月にスマートフォン出荷台数1億台に到達(ストラテジーアナリティクス)。これはシャオミを抜いて世界最速とのこと(3位はアップル)。世界1位になったシャオミの勢いは本物ですが、realmeの今の成長速度はシャオミを上回っています。
さて今年下半期以降の動向ですが、サムスンは製品ラインナップは問題なくベトナム工場の回復が重要、シャオミは引き続きRedmiの多数展開で販売数を伸ばし、アップルは各国の5G移行の波にものり秋の新製品は確実に売れるでしょう。そのあとを追いかけるOPPOやvivoの戦略はさておき、realmeがAndroid初のMagSafe類似規格「MagDart」を投入するなど話題の製品をうまく出していけば、サムスン、シャオミ、アップル、OPPO、Vivo上位5社との差を縮める可能性は十分にあります。
ただし世界的な半導体不足もあるため、売れる製品を出しても生産が追い付かない、という状況も起こりうるのが2021年下半期の状況でもあります。各メーカーの出荷数・販売数の動きもさまざまな外因により大きく左右されることになりそうです。