楽天モバイルがついにiPhoneの取り扱いを開始した。三木谷浩史CEOは「日本のスマホユーザーの半分近くがiPhone。我々にとっても重要な端末だ」と語る。日本で最も人気なデバイスを扱うことで、3キャリアと戦える互角に環境が整いつつある。
先日開かれたプレスカンファレンスでは、河野奈保CMOが「本体価格は4キャリアで最安値」だとアピールした。確かに他の3キャリアと比べると最安値だが、それでキャリアを乗り換えるかと言えば微妙だ。ただ、楽天モバイルでは初めての申し込みとiPhoneの同時購入で2万円相当分のポイント還元を実施して、他社からユーザーを呼び込もうとしている。
しかし、3キャリアも他社からの乗り換えや機種変更で2万円近い割引を適用するなど、楽天モバイルが必ずしもお得という感じには見えない。
●キャッシュバックが根絶された
一昔前なら、各キャリアは多額な割引やキャッシュバックでユーザーを一気に獲得することが可能であった。
しかし、総務省が2019年に電気通信事業法を改正したことで、そうしたキャッシュバックは根絶されてしまった。
本来ならば、iPhoneを取り扱い始めたばかりの楽天モバイルがこうしたキャッシュバックを活用して、iPhoneを大幅に割引し、他キャリアから顧客を奪えればよかったのではないか。
iPhoneの購入を検討しているユーザーとすれば、「iPhoneはできるだけ安く買いたい。月々の通信料金も安くしたい。楽天モバイルの料金プランが気になるが、MNPして大丈夫か不安」という人も多いはずだ。まずはお試し的に楽天モバイルを契約する際、端末代金ができるだけ安ければ、楽天モバイルを試す心理的な負担はかなり下がるはずだ。
ただ、楽天モバイルとしては「端末の割引はしないが、月々の通信料金は安い」という路線を貫くのだろう。月々の通信料金が安いからこそ、端末の割引はできないというのが内情のはずだ。
●割引規制を緩和してはどうか
総務省が楽天モバイルを第4のキャリアとして育てたいのであれば、割引規制を見直した方がいいのではないか。アメリカのキャリアでは、5Gを盛り上げようと、iPhone 12への割引がモリモリだったりする。
日本は世界で5Gに関して大きく後れを取っている。5Gスマホを普及させるには割引の見直しは不可欠なような気がしている。
一方で、NTTドコモは総務省での「競争ルールの検証に関するWG(第16回)」において、「通信料金収入を原資とする過度の端末代金の値引き等の誘引力に 頼った競争慣行について2年を目途に根絶とされていたが分離徹底やスイッチング円滑化が進む中、ルール緩和・キャッシュバック競争に逆戻りすべきではない」と、ルール緩和への反対を強く唱えていた。
さらにNTTドコモは「利用者が通信と端末それぞれを自由に選択可能となることが健全な携帯電話市場の発展につながる」として、非回線契約者にもオンラインで端末を一括あるいは分割で購入できるようにするという。
すでに端末と回線の分離が進んでいるのだから、総務省が一律に「端末の割引は2万円まで」という制限をつけるのではなく、キャリアが自由に端末の販売戦略ならびに料金戦略を選べるようにすればいいのではないか。
もし、いま2万円までという制限を撤廃すれば、端末販売に対して多額のキャッシュバックをつけて、顧客獲得を優先することも可能だ。一方で、NTTドコモのようにキャッシュバックを拒否するのであれば、通信料金をさらに値下げすることで、顧客満足度を上げてユーザーに逃げられないようにすることもできるだろう。
●楽天モバイルの優位性は薄れた
楽天モバイルにいま求められているのは早期に契約者数を増やし、経営を安定させることだ。かつて三木谷浩史CEOは楽天モバイルの損益分岐点を700万契約としていたが、それはすべてのユーザーから、以前の料金プランで設定されていた3278円を徴収できた場合の計算となる。
現在の新しい料金プランでは月間1GB未満の利用なら通信料収入はゼロ円となる。仮に700万人を集めても、すべてのユーザーが1GB未満なら収入はゼロ円なわけで、楽天モバイルとしては早期に700万を超えるユーザーを集めつつ、できるだけデータ通信を使ってもらい、3278円に張り付いてもらうことが急務となるのだ。
NTTドコモがahamo、KDDIがpovo、ソフトバンクがLINEMOなど、各社が3000円程度のオンライン専用プランを出したことで、楽天モバイルの優位性が薄れてしまった。このままでは、単に料金プランの比較だけでは差が無く、ユーザーの流動性が上がるとは思えない。
今後、市場を活性化させ、さらに市場の流動性を上げるのは、総務省が作ったルールの中で、競争を阻害する要因を撤廃していくのが望ましいのでは無いか。
すでに安価な料金プランが出そろい、日本の通信料金は世界的に見ても安い部類に入っていた。すでに菅義偉総理大臣の要望はかなえた状態だ。
これからさらに市場を活性化させるには、端末の割引規制を見直し、楽天モバイルが有利な立場にできる一方で、5Gスマホの普及を加速させる方向に舵を切るべきではないだろうか。