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なぜリチウムイオン電池は膨らむ? 電解液を劣化させる「過充電」「過放電」とは

突然ですが、皆さまは「電池」と聞いたときに何を思い浮かべますか?

 テレビのリモコンや子どものおもちゃに使う「乾電池」、体温計に使う「ボタン電池」、クルマに積んでいる「鉛蓄電池」、お手元のスマートフォンやノートPCに必要な「リチウムイオン電池」、最近あちこちで目にする「太陽光パネル」(太陽電池)も広義で解釈すれば電池の一種といえるでしょう。電池というものは今や私たちの生活のありとあらゆる場面に用いられている製品・技術です。

 また、SDGs(持続可能な開発目標)に向けた取り組みが進められる中、首相の菅義偉氏が2020年10月26日の所信表明演説で「2050年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにし、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言したこともあり、電気自動車(EV)へのシフト、再生可能エネルギーや蓄電技術の活用など、電池技術への関心も高まりつつあります。

 私が現在所属している日本カーリットでは、群馬県渋川市にある「電池試験所」「危険性評価試験所」にて、お客さまからお預かりした電池の特性評価試験を行っています。「電池試験所」では充放電設備を用いて電池の容量や寿命といった特性の評価を、「危険性評価試験所」では発火や爆発が予想される過酷な条件でも対応可能な試験設備を用いて安全性の評価を、それぞれ実施しています。

 また、ご縁もあって「超逆境クイズバトル!!99人の壁」(フジテレビ系)にジャンル「電池」で出演する機会がありました。番組出演に際して電池について改めて調べていくと、世間に伝わる電池の情報、特にインターネット上のものの多くは必ずしも正しいものばかりではありませんでした。このコラムでは、受託評価という形で電池業界に携わる者の1人として、電池についてあまり世間に知られていないと感じる点や、広く周知したいことを、ささやかながら発信していきたいと思います。

 まずは連載第1回となる今回から数回にわたり、私たちの生活には欠かせない「リチウムイオン電池」の安全性について解説していきます。

放置していたPSPのバッテリーがパンパンに膨らむ
2020年7月下旬、SNS上で「プレイステーション・ポータブル(PSP)」のバッテリーが話題となったことをご存じでしょうか。「放置していたPSPのバッテリーが膨らんでいる」という注意喚起をきっかけに、久しぶりにPSPを確認した人たちから同様事例の報告が相次ぎ、「PSPのバッテリー」がTwitterのトレンド入りするまでとなりました。

 こういった「電池の膨張」はPSPのバッテリーに限った話ではなく、リチウムイオン電池を使った製品であれば生じ得るものです。世代がバレそうですが、“ガラケー”の電池がパンパンに膨らんでしまってプリントシールの貼ってある裏蓋が閉まらない……なんて覚えのある方もいるのではないでしょうか。

 リチウムイオン電池はなぜ膨らむのでしょうか?

リチウムイオン電池の膨張は幾つかの要因によって起こりますが、一般ユーザーが通常の使用環境で目にする電池の膨らみは、電池材料の劣化に伴うガス発生に依るものと考えて差し支えないでしょう。電池の内部にガスがたまることでパンパンに膨らんでしまうのです。

 ガス発生のメカニズムについてはさまざまな研究結果が報告されていますが、実は「リチウムイオン電池」というのは非常に懐の深い名称であり、材料構成や電池特性が大きく異なるものであったとしても、全て一緒くたにして「リチウムイオン電池」と呼ぶことができてしまいます(この辺りの話は改めて別の回で解説します)。

 そのため、厳密にいうと材料構成の違いによるガス発生挙動の違いを個別に考慮する必要があるのですが、今回は教科書的に使用される一般的な材料構成の場合について考えていきます。

 一般的にリチウムイオン電池の充放電は以下の式によって表されます。

原理的には正極と負極の間をリチウムイオン(Li+)が行き来するだけの可逆的な化学反応であり、充放電に伴う不可逆的な材料の変化(劣化)は見られません。しかし実際にはわずかながらではありますが不可逆的な化学反応も同時に発生し、電池は徐々に劣化していきます。

 電池を構成する材料の中でも「電解液」の劣化や分解がガス発生に大きく寄与しています。一般的に電解液は、炭酸エステル系の有機溶媒にLiPF6などのリチウム塩を溶解したものが用いられますが、たとえメーカーが推奨する正常な仕様範囲で使っていても電解液は徐々に反応して分解物を発生させます。しかしこの場合に生じる分解物は沈殿(固体のもの)が主であり、ガス発生量としては微量です。よりガス発生量が多くなるのは「過充電」や「過放電」と呼ばれる状態のときです。



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