CPUやGPUといったマイクロプロセッサの性能は年々向上していますが、同時に消費電力も増加する傾向にあります。世界中のデータセンターが消費する電力の合計は、2020年には世界の電力の2%に達しており、2030年までに8%を占めるまで増加すると予測されているため、マイクロプロセッサの省電力化は大きな課題となっています。そんな中、日本の研究チームが、従来のCPUの80倍の電力効率で動作する超電導マイクロプロセッサの開発に成功しました。
横浜国立大学の研究グループは、特定の金属を非常に低い温度まで冷却すると抵抗がゼロになる超伝導を利用することで、微小なエネルギーで動作可能な低消費エネルギー論理回路「断熱磁束量子パラメトロン(AQFP)回路」を用いて超電導マイクロプロセッサの設計に取り組みました。その結果、AQFP回路を一万基以上搭載した超電導マイクロプロセッサ「Monolithic Adiabatic iNtegration Architecture(MANA)」の開発に成功したと発表しています。
研究チームの一員である横浜国立大学先端科学高等研究院准教授のクリストファー・アヤラ氏によると、一般的な超電導電子機器の動作周波数が数百GHzであるのに対して、MANAは最大約10GHzで動作するとのこと。なお、今回の研究では、MANAは一般的なCPUと同等の2.5GHzで動作しましたが、設計手法や実験方法が改善するにつれて、5~10GHzで動作させられるようになります。
MANAは超電導体を用いて設計されているため4.2K(約マイナス269℃)まで冷却しなければ動作しません。研究チームは、以下の画像のように特注のケーブルの先端にMANAを取り付け、液体ヘリウムボンベと接続することでMANAを動作させることに成功しました。
上記の通り、MANAを動作させるためには、約マイナス269℃という非常に低い温度を保つ必要がありますが、冷却に必要なエネルギーを計算に入れても、現在流通している7nmプロセッサと比べて80倍のエネルギー効率で動作するとアヤラ氏は述べています。
また、アメリカ電気電子学会(IEEE)の学会誌であるIEEE Spectrumは、MANAは液体ヘリウムによる冷却システムを必要とするため、データセンターやスーパーコンピューターなどの大規模なコンピューティング環境に適していると指摘しています。
アヤラ氏は、「MANAには、クロックネットワークやレイテンシなど改善の余地がある部分が多く残されており、私たち研究チームはこれらを改善するために研究を続けています」と今後の研究開発への意欲を語りました。