アメリカの製薬大手ファイザーの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン「BNT162b2」は、2020年12月にアメリカやイギリスが相次いで接種を開始したほか、WHOも2020年12月31日に緊急使用を初承認しました。しかし、普通のワクチンなら5~10年かけて開発されるところを、わずか1年足らずで開発されスピード承認された新型コロナウイルスワクチンに対しては、不安や抵抗感がある人も少なくないはず。そんな新型コロナウイルスワクチンの接種を受けるべき理由を、イギリス・ポーツマス大学の病理学研究者であるアレッサンドロ・シアニ博士が10点にまとめて簡潔に解説しています。
◆01:医療サービスを支援するため
シアニ氏によると、子どものころに感染症の予防接種を受けると、生涯にわたって感染症にかかるリスクが低くなるのが一般的とのこと。これは、将来にわたって医療サービスへの負担が軽減され、その分のリソースが事故や予防できない病気にかかった人への医療サービスに振り分けられることを意味しています。
このことを念頭に、シアニ氏は「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防接種もこれまでの予防接種と全く同じで、感染症例を減らしたり、医療機関への負担を軽減させたりすることで、医療サービスのリソースを解放することになります」と述べました。
COVID-19は2019年12月に発見されたものであるため、記事作成時点では予防接種により獲得された免疫が生涯にわたり有効かどうかは不明ですが、2020年12月に発表された最新の研究では「COVID-19への免疫は最短でも8カ月間、場合によっては数年間は続く」ということが示されています。
新型コロナウイルスの免疫は少なくとも8カ月間持続するとの研究結果 - GIGAZINE
◆02:集団免疫を獲得し病気に弱い人を守るため
ある地域で感染症の予防接種を受けた人の割合が十分なレベルに達すると、感染者が少なすぎるためそれ以上感染症が拡大しないことが判明しており、この効果は「集団免疫」と呼ばれています。
社会が集団免疫を獲得すれば、既往症などによりワクチンの接種が受けられない人もCOVID-19から守ることが可能だと、シアニ氏は指摘しました。
◆03:人の命が救われるため
WHOは「百日ぜきやはしかなどの予防接種で救われる人命は、年間200万~300万人に達すると試算しています。また、20世紀だけで約3億人の命を奪った天然痘が根絶されたのも、天然痘ワクチンのおかげです。
このことから、シアニ氏は「COVID-19は一部の人にとっては致命的であることが証明されています。COVID-19による死亡リスクが高い人でも、予防接種を受ければ命が救われるかもしれません」と述べています。
◆04:人々の健康が守られるため
ワクチンが効果を発揮したのは、はしかや天然痘だけではありません。ポリオに有効なワクチンが普及する前は、ポリオにより体が変形してしまった子どもの姿や、首から下を全て金属製の人工呼吸器に収める鉄の肺で治療を受ける人の姿がよく見られましたが、ワクチンのおかげでポリオは1988年から2020年にかけて99.9%も減少しました。
COVID-19から回復しても肺や脳に深刻な後遺症が残ることを念頭に、シアニ氏は「COVID-19は、健康に長期的な影響を与える危険性があります。ワクチンはこうした健康被害からも人々を守ります」と述べています。
◆05:十分にテストされているため
新型コロナウイルスワクチンは極めて迅速に承認されましたが、承認の過程で実施された臨床試験は世界各地で何万人もの人々が参加した大規模なものでした。シアニ氏によると、「新型コロナウイルスワクチンが迅速に開発できたのは、安全性試験が徹底されていないからではなく、お役所仕事の削減のおかげです。新型コロナウイルスワクチンは、ほかのワクチンと同様にしっかりと試験が行われています」とのことです。
◆06:時間とお金を節約するため
金銭的な側面からも、新型コロナウイルスワクチンの接種は推奨されています。病院でCOVID-19の治療を受けると13日間ほど入院を余儀なくされ、その間の患者は仕事ができず治療費もかさみます。一方、新型コロナウイルスワクチンの予防接種は1回数分間しかからず、多くの地域では無料で接種が受けられます。
◆07:人々が安全に旅行できるようにするため
旅行などのために海外に渡航する人には、予防接種証明書の提示が求められることがあります。今後は、新型コロナウイルスワクチンも同様に、旅行に必須のワクチンとなる可能性があると、シアニ氏は予想しています。
◆08:薬剤耐性を持つウイルスの発生を防ぐため
既に感染症にかかってしまった人に抗ウイルス剤を投与することは、抗ウイルス剤に耐性を獲得したウイルスを発生させるリスクをはらんでいます。一方、予防接種でCOVID-19に感染することが防げれば、抗ウイルス剤を使う必要もなくなるので、耐性を持つウイルスの発生も抑制されます。
なお、2020年12月ごろからイギリスを中心に新型コロナウイルスの変異種が流行の兆しを見せていますが、専門家は「変異種がワクチンの有効性を大幅に妨げることはない」との見解を示しています。
「新型コロナウイルスの変異種」がイギリスで流行の兆し、新たな変異種について専門家が解説 - GIGAZINE
◆09:未来の世代を守るため
新型コロナウイルスワクチンの接種がもたらす長期的な恩恵について、シアニ氏は「今回のCOVID-19のパンデミックは、ワクチンがなければ1つの病気で世界が壊滅的な打撃を受けるということを明らかにしました。私たちが自分や自分の子どもたちに予防接種を施すことは、将来の世代へのかけがえのない贈り物です」と話しています。
◆10:フェイクニュースの拡散を防ぐため
COVID-19のパンデミックが猛威を振るった2020年には、COVID-19関連のフェイクニュースで多くの人が命を落としました。また、近年では誤った情報に基づくワクチン忌避の影響で、かつてアメリカから根絶されたはしかが再流行するという事態も発生しています。
こうした前例について、シアニ氏は「予防接種を受ければ、感染症から自分自身や大切な人を守ることができるだけでなく、誤情報の拡散と戦う姿勢の模範となることができます」と述べて、人々が率先して予防接種を受けることがフェイクニュース対策として重要だとの見方を示しました。