Mac用Apple Siliconの第1弾、M1チップを搭載したMacBook Airは、これまでの2倍近いバッテリー持続時間と、多くの処理で4倍前後の高性能を両立させ、異次元とも言えるバランスを達成した軽量薄型のMacノートブックだ。外観はいままでのMacBook Airとほとんど変わらないが、中身も性能もまったくの別物と考えられる。それだけに、これまでとは異なった分野での活用も期待できる。アップル謹製M1チップを搭載する新世代モデルの中でも、その特長を余すところなく発揮する代表的な存在と言える。
ほとんど変わらない外観に反して仕様の変更は多い
新しいMacBook Airを目にして誰しも感じるのは、外観がまったくと言って良いほど変わっていないということだろう。もちろんサイズもまったく同じ、さらに重量も旧モデルと10g単位までは同一だ。とはいえ、スペックを細かく見比べれば、インテルからApple Siliconへの変更にともなうCPUやGPUの変更以外にも、異なる点がいくつかあることに気付く。新旧MacBook Airの主なスペックを表で確認しよう。
まず気付くのは内蔵GPUの違いは当然として、2020年3月18日に発表した旧MacBook Airが備えていたThunderbolt経由でのeGPUへの対応が、新MacBook Airには記載されていないこと。これまでMacBook Airで外部GPUを使っていた人がどれほどいたかは疑問だが、新しいM1搭載機では、それが使えなくなったのは確かだ。もちろんM1チップ内蔵のGPUが、インテル製のCPUに搭載されていたIris Plusよりも優れた性能を発揮することは、これまでのベンチマークテストから判明している。ただしその性能は、M1チップに固定されたものであり、拡張性という点では劣るのも間違いない。
その半面、内蔵ディスプレーはアップグレードされている。解像度が2560×1600ピクセルのRetinaディスプレーは同じだが、新しいMacBook Airでは400ニトの輝度とP3準拠の広色域を実現している。つまりより明るく、より鮮やかな表示が可能となった。このスペックを、MacBook Proと比べると、色域こそP3で同じだが、今年登場したMacBook Proは、インテル版もM1搭載モデルのいずれも500ニトの最大輝度を実現している。内蔵ディスプレーを最大輝度の状態で使い続けることは、そうそうないないとはいえ、スペック的にはMacBook AirとMacBook Proにはそれなりの差が見られるのは確かだ。
また外部ビデオ出力機能にも、新旧MacBook Airでスペックの相違が見られる。最大6Kディスプレーをサポートする点は同じ。旧MacBook Airは、4Kなら2台の同時出力が可能だったが、新MacBook Airのスペックを見ると、解像度によらず外部ビデオ出力は1台までとなっている。その一方で、旧MacBook Airにはなかったアダプタ経由でのDVI出力への対応が記載されているから、必ずしも機能が低下しただけとは言えない。いずれにしてもMacBook Airに2台の外部ディスプレーを接続するというのは、それほど一般的な使い方とは思えない。そうした使い方を考えていなかった多くのユーザーにとっては、大きな問題とはならないはずだ。
ビデオ出力機能以外にも、スペック表の表記からは、Thunderboltポートの仕様が変更されているように見える。ポートが2つなのは同じだが、旧モデルでは「Thunderbolt 3(USB-C)」となっていたものが、新モデルでは「Thunderbolt / USB 4」とされている。まずこの新モデルの書き方はちょっと紛らわしい。一瞬、Thunderbolt 4とUSB 4をサポートしているように見えるからだ。実際にはM1搭載MacはまだThunderbolt 4はサポートしていない。Thunderbolt 3までだ。またこの新旧のThunderbolt/USB-Cポートは、実質的にはほとんど同じものと考えられる。いずれもサポートするデータ入出力機能は、以下のように同じだからだ。
・DisplayPort ・Thunderbolt 3(最大40Gb/s) ・USB 3.1 Gen 2(最大10Gb/s)
それに対して、はっきりと仕様が異なり、確実にアップグレードされているのはWi-Fiだ。旧MacBook Airでは、802.11acまでのサポートだったが、新MacBook Airでは、それに加えて802.11axのWi-Fi 6をサポートする。もちろんルーター側でWi-Fi 6をサポートしていなければ何も変わらないが、ポテンシャルとしては確実に1世代新しくなっている。
なお、メモリとストレージについては、新旧モデルでスペックが一致する技術的な必然性はないと考えられるものの、標準で8GB/256GB、CTOオプションにより最大で16GB/2TBというインテル時代からの仕様は、M1搭載モデルでも変わらない。このあたりは、MacBook Airというモデルのクラスを考えて統一したものとも思われるが、実は現状のM1搭載Macの3機種はすべて同じ仕様だ。
多くのユーザーにとって実用上最も大きく影響するのは、CPU/GPU以外ではバッテリー持続時間時間だろう。これについては、あらためて後で述べることにする。
MacBook Airならではの微妙なキーボードレイアウト変更
ディスプレーを閉じた状態では、新旧のMacBook Airを区別するのは、ほぼ不可能だ。上のスペック表で見た通り、サイズも重量も変わらなければ、デザインもまったく同一だ。新旧2台のモデルを重ねて、どの方向から見ても、違いをみつけることはできないだろう。
さらにカラーバリエーションが、ゴールド/シルバー/スペースグレーの3種類というのも、新旧モデルで変わらない。もしカラバリに変更があったのなら、少なくとも共通しない色については識別の手がかりになったはずだが、それもない。
ただし、ディスプレーを開けば、新旧モデルの違いが明らかになる。その違いはキーボードにある。とはいえ、約1mmのストロークを確保した、バックライト付きのMagic Keyboard自体は基本的に変わらない。明らかな違いは、キーボード最上段のファンクションキーのF4、F5、F6に割り振られた機能にある。
新MacBook Airでは、これが「Spotlight検索」、「音声入力のオンオフ」、「おやすみモードの設定」といった機能に割り振られている。ちなみに、これまでのMacBook Airでは、「Launchpadの起動」、「キーボードバックライトの減光」、「同増光」のような機能を発揮するものだった。
今回のM1搭載機でも、MacBook ProのTouch Barの同じ位置のボタンに割り振られた機能は、旧MacBook Airを含む、これまでのMacの標準的な配置と同じになっている。つまり、今のところ新MacBook Airに見られるF4、F5、F6キーの機能は、MacBook Airだけのものということになる。
こうした違いは、MacBook AirとMacBook Proの性格の違い、ひいてはアップルが想定する主な対象ユーザーの違いを反映したものと考えられる。簡単に、そしてちょっと極端に言えば、MacBook Airはユーザーが日常生活で使える領域をサポートするための機能を重視したのだろう。検索機能の起動はともかくとして、通信機能としての音声のオンオフ、そしておやすみモードによる通知のオフなどは、自宅でも職場でも、常にユーザーが携帯してそばに置いておくマシンにとって便利な機能だと考えられるからだ。
こうした機能のキーへの割り当ては、Touch Barならソフトウェアの変更だけで可能だ。もしBig Surとして実験的に実装するのであれば、MacBook Proの方がはるかに簡単だ。それをキーボードのキートップだけとはいえ、ハードウェアの変更が必要なMacBook Airでのみ実施したのは、MacBook Airはそうあるべきという確信をアップルが抱いていたに違いないと感じさせる。
キーから直接呼び出せなくなった機能のうち、Launchpadの起動はDockのアイコンをクリックするだけなので問題ない。もともとそうしていた人も多いだろう。ただ、キーボードのバックライト調整はどうするのかと心配になるかもしれない。システム環境設定の「キーボード」では調整できないからだ。
これは、まずメニューバーをクリックしてBig Surの「コントロールセンター」を開き、その中にある「キーボードの輝度」ボタンをクリックすることで、スライダーによる調整が可能となる。複数のステップが必要だが、それほど頻繁に調整するものでもないので、さほどの不便はないだろう。
ほぼ4倍の性能×2倍のバッテリー持続時間
これまでに掲載してきたベンチマークテストの結果を改めて確認しておこう。まず、専用のベンチマークテストプログラムを使ったテストでは、M1搭載の新MacBook Airは、インテルCore i3搭載の旧MacBook Airに対して、CPUで実質的に3.3〜3.9倍、GPUでは2.6〜2.8倍となっている。また、実用的なアプリを使ったテスト(未掲載)でも1.7〜4.2倍の速度を示している。大まかに表現すれば、「ものにもよるが最大約4倍の速度」と言っていいだろう。
一方、フルHD/フルスクリーンのビデオの連続再生でバッテリーの持続時間をテストしたところ、バッテリーのコンディションに違いがある可能性は否定できないものの、新MacBook Airは旧MacBook Airに対して2倍以上の持続時間を示した。
もちろん、こうした性能差が、あらゆる状況の下、あらゆるアプリで得られるわけではない。しかしそれと同時に、こうした性能差は特殊な状況でだけ発揮されるものでもない。日常的に体感できる速さやバッテリーの持ちとも一致している。
これまでのMacBook Airでも、特に処理速度に不満を感じていたというユーザーは、それほど多くなかったと思われる。そして、より高速な処理を必要とするユーザーには、MacBook Proという選択肢が用意されていた。もしユーザーがMacBook Airに不満を感じたとしても、上位のラインアップによって対応できた。
しかし、今回のMacBook Airは、容易に持ち運び可能なこのクラスのノートブックとして、メーカー、OSを問わず、間違いなく最高クラスの性能を発揮するものとなっている。今のところ、ユーザーに不満を抱かせる余地は、ほとんど残されていないと言ってもよいほどだ。1つ困ったことがあるとすれば、もしこのMacBook Airの性能に不満を抱くユーザーがあったとしても、それを現状のMacBook Proで解消するのが難しいこと。これまでに示したベンチマークテスト結果からも分かるように、両者のパフォーマンスは拮抗している。
アップル曰く、システムが生み出す熱はアルミニウム製の放熱板が拡散するので、負荷の高い作業をしても静かとのこと
ファンレス設計が新たな用途を開拓する
現状では、Mac用のApple SiliconとしてまだM1しか登場していない。そして、そのM1チップを搭載した3機種の性能は、これまでのところ実質的に「ほぼ同じ」範囲に入るものと言っていい。とはいえ、ベンチマークテスト結果をよく見れば、MacBook Air < MacBook Pro < Mac miniという微妙な性能差が見られるのも確か。それが各機種ごとのM1チップや、周辺回路の微妙な仕様の違いによるものなのか、空冷能力の差によるものなかははっきりしない。CPUに比較的長時間負荷のかかる処理ほど、言い換えれば発熱量の大きい処理ほど機種間の性能差が見られる傾向があるため、後者の可能性も十分に考えられる。
いずれにしても、その差はわずかながら、M1搭載機の中でMacBook Airは性能的には最も控えめな機種ということになる。ただし、たとえば10分単位で高負荷が続くような処理を実行しない限り、その差が表に現れることはない。そのような処理では、空冷ファンを内蔵しないMacBook Airの本体は、それなりに熱くなる。熱は底面全体に広がり、放熱効率は悪くないと感じられるものの、過度な発熱を抑えるために、CPUのクロック周波数を落としている可能性がある。
そのような場合でも、空冷ファンを内蔵するMacBook Proの本体の温度上昇はわずかなものに抑えられている。もちろんMac miniも同様だが、同程度の高負荷に対するファンの回転数、騒音を比べると、Mac miniはMacBook Proよりもさらに冷却能力に余裕があるように見える。
M1チップ搭載のMacBook Airの購入を検討している人にとって、いちばん気になるのは「MacBook ProではなくMacBook Airを選んでも間違いはないだろうか」ということだろう。今述べたような冷却性能の違いと、そこからくると思われるわずかな性能の差を除いても、MacBook AirとMacBook Proの間にはいくつかの違いがある。中でももっとはっきりしているのはTouch Barの有無だ。
今のところ、これが選択の決め手になる可能性も高い。ただ、筆者の個人的な好みでは、Touch Barよりも物理的なキーのほうが使いやすく感じられる場面も少なくない。キーなら、どんな状況でも常にそこにあるものを、Touch Barでは、何ステップかの操作によって呼び出さなければならないことがあるからだ。ただし、音声やビデオなど、時間軸に沿って変化するデータを扱うようなアプリの場合、その時間軸をコントロールするのにTouch Barがかなり有効に機能するのも確かだ。そうしたアプリを使う機会が多い人は、Touch Barの有無も十分考慮して選択する必要があるだろう。
Touch Bar以外の主な違いは、すでに述べたように内蔵ディスプレーの最大輝度がMacBook Proの方が大きいこと、バッテリー容量もMacBook Airの49.9Whに対してMacBook Proは58.2Whとなっていて、それだけ連続使用時間が長くなることがまず挙げられる。いずれも「程度の差」でしかない。
さらに細かい点を見ていくと、オーディオ関連の仕様にも差が見られる。一言で言えば、再生/録音とも、MacBook AirよりもMacBook Proの方が高品質なのだ。これについては、今後掲載予定のMacBook Proのレビューで詳しく述べる予定だ。もし音楽系の用途に使うとしても、本当に高品質を要求される場面で、内蔵のスピーカーやマイクに頼ることはむしろ少ないと考えられるので、これが直ちにMacBook Airの欠点になるとは言えない。
それよりも何よりも、MacBook Airの最大の利点は空冷ファンがないことだ。上で述べたように、それによって冷却性能が劣るというデメリットは確かにあるが、まったくの無音で使えることが、ほかの何ものにも代えがたいという用途も必ずある。例えば、機器によるノイズの発生がまったく許されないデリケートな音声の収録の場面にも、MacBook Airなら持ち込むことができるのだ。これは、むしろMacBook Proを超えたプロ向きの特長と言えるだろう。
そこまで突き詰めた用途でなくても、日常的な情報ツールとしての使い方から、それなりの負荷が要求される用途、さらには静音が要求される状況でも安心して使える相棒的なマシンとして、MacBook Airのカバー範囲はかなり広い。