アップルが、同社初の高性能ヘッドホン「AirPods Max」を発表しました。アクティブ・ノイズキャンセリングや「空間オーディオ」のサラウンド再生など、特徴的な機能が満載です。本機の魅力を知るうえで大事なポイントを、オーディオライターの筆者が解説したいと思います。
アップル、ノイキャンヘッドホン「AirPods Max」12月15日発売
多機能なのに面倒な設定・操作がいらない
AirPods Maxは、アップル初のアクティブ・ノイズキャンセリング(ANC)機能を搭載するBluetoothワイヤレスヘッドホンです。筆者は、他社のANC機能を搭載するワイヤレスヘッドホンにはない重要な“4つの魅力”があると考えています。
ひとつは、「面倒な設定がいらないワイヤレスヘッドホン」であるということ。ANCや外部音取り込み、AIアシスタントによる音声操作など多彩な機能を備えるワイヤレスヘッドホンは、アプリや本体のリモコンを使って各機能のパラメータを調整したり、心地よく使えるようにするためにユーザーが自身で設定しなければならないことがたくさんあります。
AirPods Maxは、アップルがワイヤレスオーディオのために独自に設計・開発した「Apple H1」チップを2基載せて、最先端のソフトウェアの力と合わせて、そのサウンドやANCと外部音取り込み機能の効果など、いつもベストコンディションになるように自動で最適化してくれます。
例えて比べるなら、「iPhoneのカメラ」に近い感覚かもしれません。iPhoneのカメラは、デジタルカメラのようにモード設定や露出調整、フォーカス合わせの手間をかけることなく、シャッターボタンをタップするだけで誰でもキレイな写真・動画が撮れますよね。いつ、どんな環境でも「AirPods Maxのベストコンディションなサウンド」を楽しめることが、アップルがAirPodsシリーズやスマートスピーカーのHomePodシリーズでも提案する「コンピュテーショナルオーディオ」の醍醐味なのです。
空間オーディオ&ダイナミック・ヘッドトラッキングに対応した初めてのヘッドホン
AirPods Maxは、iOS 14を搭載するiPhoneやiPadOS 14を搭載するiPadにペアリングして対応するビデオコンテンツを再生すると、迫力あふれる立体サラウンド音声が楽しめる「空間オーディオ」をサポートしています。
空間オーディオ対応のビデオコンテンツには現在、Apple TVアプリで配信されているAppleオリジナル作品や、5.1ch/7.1chのサラウンド、またはDolby Atmosの音声を収録するオンデマンド視聴対応の映画やドラマ、アニメなどがあります。
空間オーディオ対応のコンテンツを再生すると、AirPods Max、またはiPhone/iPadが内蔵する加速度センサーとジャイロセンサーの情報をもとに、ユーザーの頭と体の向きの位置関係をリアルタイムに解析して、コンテンツの音像をあるべき正しい位置に定位させる「ダイナミック・ヘッドトラッキング」も同時に楽しむことができます。例えば、映画の主人公がセリフを話している場面でAirPods Maxを装着したまま顔を左に向けると、右側のイヤーカップから声が聞こえてくるような感覚です。
空間オーディオとダイナミック・ヘッドトラッキングは、映像コンテンツの視聴体験に高い没入感をもたらしてくれるテクノロジーであり、同じ機能が使える製品は今のところAirPods MaxとAirPods Proのほかにはありません。さらに、このリアルなサラウンド再生とヘッドトラッキングを、スマホとヘッドホン・イヤホンだけのシンプルな組み合わせにより実現したポータブルオーディオシステムも、また前例がないと思います。
対応するコンテンツは今後ますます増えてくるでしょう。海外では、Disney+のサラウンドコンテンツの一部にも対応の輪が広がっているようです。ANC機能だけでなく、パッシブな遮音性能も高いイヤーパッドと、ゆったり装着できるイヤーカップを備えるAirPods Maxならば、AirPods Proよりも豊かなサラウンド感が味わえるかもしれません。
iPhone/iPad/Macと相性抜群。「自動切り換え」がとても便利
そして言うまでもなく、AirPods Maxは「iPhoneやiPad、Macと抜群に相性の良いワイヤレスヘッドホン」です。Siriによる音声コントロールがスムーズにできることも重要なポイントですが、筆者はiOS 14/iPadOS 14、macOS Big Sur以降のOSから、それぞれのデバイスがユーザーのApple IDでサインインしている場合、機器間でAirPodsとの接続が素速く切り替わる「自動切り換え」が大変便利だと日々実感しています。
他社のBluetoothヘッドホンでは多くの場合、ユーザーのiPhoneとiPadに機器登録が済んでいても、接続を切り替える時には設定パネルを開いて再度操作が必要になります。アップルの自動切り替えは、AirPodsを耳に装着してデバイスでコンテンツ再生を始めるだけで音声が聞こえてきます。iPadを用いたビデオ通話にAirPods Maxを使ったあと、iPhoneで音楽を聴いてリラックスしたい時などに、いちいちペアリングを設定し直す必要はなく、ユーザーが必要な操作は「iPhoneで音楽を再生」するだけ。複数のアップルデバイスをヘビーに使っている人には、リモートワークにもAirPods Maxが便利なヘッドホンとして感じられるはずです。
アップルらしいスタイリッシュで機能的なデザイン
最後に注目したいAirPods Maxの4つめの魅力は、やはり「アップルらしいデザイン」です。Apple Watchと同じDigital Crownでボリュームをアップダウンしたり、音楽再生の一時停止操作を早く体験してみたいですね。筆者は、今からもうソワソワしています。筆者の大好きなグリーンもラインナップにそろっていて大満足です。というか、これほどしっかりとしたグリーンをまとったハイエンドクラスのANC機能搭載ワイヤレスヘッドホンは、ほかにないはず。着けているだけでユーザーの個性を主張できるアイテムになりそうです。
とはいえ、ヘッドホンというアイテムは装着感が合わないことには、長く着けていると頭が痛くなってきたりして、少しずつ使うのがおっくうになってくるもの。ユーザーの髪型やメガネ、アクセサリーを身に着けた状態に合わせて、AirPods Maxが再生するサウンドを自動で最適化する「アダプティブイコライゼーション」機能の効果も合わせて、この次は装着感や操作感も入念に確かめつつ、実機による詳しいレポートをお届けするつもりです。音質やANC、ヒアスルー機能の効果もしっかりとチェックして、AirPods Maxが61,800円(税別)という価格に見合うヘッドホンなのか、コストパフォーマンスを検証したいと思います。
著者 : 山本敦 やまもとあつし ジャーナリスト兼ライター。オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。独ベルリンで開催されるエレクトロニクスショー「IFA」を毎年取材してきたことから、特に欧州のスマート家電やIoT関連の最新事情に精通。オーディオ・ビジュアル分野にも造詣が深く、ハイレゾから音楽配信、4KやVODまで幅広くカバー。堪能な英語と仏語を生かし、国内から海外までイベントの取材、開発者へのインタビューを数多くこなす。 この著者の記事一覧はこちら