2020年も残りわずか。モバイル業界では早くも2021年のスマホトレンドが見え始めてきた。
クアルコムは12月2日、例年ハワイで実施していた「Snapdragon Tech Summit」をオンラインで開催した。このイベントは毎年スマホに搭載されているチップセットである「Snapdragon」のアップデートを発表する場となっている。このイベントで発表されるSnapdragonの仕様を見れば、翌年発売されるAndroidスマートフォンのトレンドが見えてくる、というわけだ。
●5Gは下り最大7.5Gbps
今回のSnapdragon Tech Summitで発表されたのは「Snapdragon 888」だ。今年までハイエンドスマホにはSnapdragon 865が搭載されてきたが、型番が「888」に変更となる。
ハイエンド向けチップセットと言うことで、もちろん5Gに対応している。865ではモデムが別となっていたが、888では第3世代のX60 5GモデムRFシステムが一体化されている。
5Gの方式であるSA(スタンドアロン)およびノンスタンドアロン(NSA)に対応し、5Gキャリアアグリゲーション(周波数を束ねて高速化する技術)や、グローバルマルチSIM、DSSも利用できる。
すでにNTTドコモは5Gのキャリアアグリゲーションにより、865でも4.2Gbpsという最高速度を達成しているが、888では下り最大7.5Gbpsでの通信が可能になるという。始まったばかりの5Gであるが、年を追うごとに高速化していくというわけだ。
Wi-Fi関連も強化され、「Qualcomm FastConnect 6900モバイル接続システム」により、下り最大3.6Gbpsの「Wi-Fi 6」、6GHz帯を用いる「Wi-Fi 6E」が使えるようになる。
Snapdragon 888のCPUはQualcomm Kryo 680となり、5nmプロセスで製造される。CPU全体の性能は最大25%向上させたとのことで、最大2.84GHzで駆動する。
●トリプルカメラで4K同時撮影
注目はカメラ周りだ。ここ数年、背面に複数のカメラを搭載するのが当たり前となったが、Snapdragon 888では画像信号プロセッサーを1つではなく3つ搭載してしまった。これにより、3つのカメラで、それぞれで28メガの写真を同時に撮影したり、4K HDRの動画を同時に撮影して処理できる。3つのカメラから同時に最高2.7ギガピクセル/秒でキャプチャーできるため、こうしたことが可能になるのだ。
また、HDR動画撮影では、コンピュテーショナル処理が進化し、色合いやコントラスト、ディテールが大幅に改善。暗い場所でもさらに明るく撮影できるようになる。さらにHEIF形式で10bitの色深度での撮影が可能だ。
カメラに関してはどのメーカーも注力しているだけに、Snapdragon 888をベースに各メーカーとも独自の画像処理を盛り込んで、SNS映えする写真を撮れるようにしてくることだろう。
AIに関しては、Qualcomm Hexagon 780で処理し、カメラ、音声アシスタント、ゲーミングなどで利用していく。
イベントでは日本からはNTTドコモ、ソニーモバイル、シャープの担当者がメッセージを寄せた。また、Snapdragon 888に対してはモトローラ、LG、ASUS、MEIZU、ZTE、nubia、OnePlus、OPPO、vivo、Xiaomiなどもビデオでコメントをしており、来年にも各社からSnapdragon 888を搭載したスマホが発売される見込みだ。
●Snapdragon 765後継は来年早めか
Snapdragon 888により、まだまだハイエンドスマホは進化していきそうだが、一方でメーカーが主力として位置づけているのは、Snapdragon 700番台シリーズや600番台シリーズだろう。
特に今年は各社ともSnapdragon 765を採用したところが多く、コストパフォーマンスのいい5Gスマホとして人気が出ていた。Snapdragon 865では10万円を超えるモデルも珍しくないが、Snapdragon 765であれば6〜7万円という値付けになる。「なんとか手の届く5Gスマホ」を作る上ではSnapdragon 765が欠かせないわけだ。
今回のイベントでSnapdragon 765の後継モデルについては一切発表がなかった。しかし、クアルコムではハイエンドである800番台シリーズで培った技術などを700番台や600番台に落とし込み、価格を下げるという戦略を展開しており、これからも同様の流れになるとしている。
おそらく来年の早い段階でSnapdragon 765の後継モデル(個人的な予想としてはSnapdragon 777)が発表され、各メーカーで採用されていくのではないか。
例年の流れでいえば、12月のSnapdragon Tech Summitで新しいSnapdragonが発表され、それらを搭載した新製品が翌年2月のバルセロナ MWCというイベントで、各メーカーがお披露目する感じであった。しかし、世界的なコロナの大流行により、来年2月のMWCはすでに、2021年6月に延期が決まっている。
各メーカーとも来年前半はリアルでの発表はせず、オンラインでの新製品発表が続く。そのため2月発表にこだわることなく、各メーカーとも好きなタイミングでオンライン発表会を開催することだろう。
いずれにしても、世界的な5Gが盛り上がりを見せているだけに、各メーカーともハイエンドからミドルクラスに至るまで、すべて5G対応のスマホが続々と発表されるはずだ。いまから、どんなスマホが登場するのか、楽しみに待ってみたい。