●さすがはThinkPad、X1 Foldは「使える」折りたたみPC
持ち歩くときは畳んで小さく、使う時は開いて大きく。そんな折りたたみ型ディスプレイは、2018年末から2019年にかけて搭載スマホが登場するなど、製品への採用が始まっている。そして2020年秋、ついにPCにも搭載製品が登場することになった。それがレノボ・ジャパンの「ThinkPad X1 Fold」だ。ノートPCとして世界初となる折りたたみ型ディスプレイを採用するThinkPad X1 Foldはどこが凄いのか。実機をじっくりチェックしていこう。
○開発者の執念が感じられる折りたたみ型ディスプレイ
ThinkPad X1 Foldで元も関心のある部分は、なんといっても折りたためるディスプレイだろう。そこでまず、ディスプレイ部をじっくり見ていきたいと思う。
X1 Foldのディスプレイは、折りたためるスマホ同様に、フレキシブルに曲がるフィルムタイプの13.3型有機ELディスプレイを採用している。この有機ELディスプレイはLG Electronicsと共同開発したもので、開いた状態でのサイズは13.3型、表示解像度は2,048×1,536ドットとなっている。アスペクト比が4:3となっている点は、昔のディスプレイでは一般的だったものの、現在では16:9や16:10のディスプレイが標準となっていることもあって、なんだか新しく感じる。
ディスプレイを開いた状態でディスプレイのヒンジ付近を触ってみても、ほとんど段差を感じることなく非常にフラットな状態になっていることがわかる。これは、ヒンジ付近のディスプレイ背面側に、日本の伝統織物技術である「三軸織物」にヒントを得たという特殊な補強板を用意してしっかりディスプレイを支えていることによる。
折りたためるディスプレイでは、ヒンジ付近のディスプレイの段差が多少あってもしょうがないという気もするが、ここまでのフラットさの実現からは開発者の執念が伝わってくる。
ディスプレイを折りたたむ場合には、画面中央部のヒンジを中心として内側に折りたたむことになる。その場合でも、ディスプレイの背面に用意されている補強板がなだらかに曲がっていき、曲がるディスプレイを裏からしっかりサポート。X1 Foldはディスプレイが曲がった状態でも利用可能となっているが、その状態でカーブするヒンジ付近の画面を触ってもディスプレイ部の浮きを感じることがなく、十分な強度も確保されており、不安は一切感じない。
このディスプレイ開閉構造は「マルチリンク・トルク・ヒンジ・メカニズム」と呼ばれており、3万回の開閉に対応する耐久性を備えているという。また、ThinkPadブランドということで、ThinkPadシリーズで実施されている「拷問テスト」と呼ばれる過酷な堅牢性試験も実施。ディスプレイに関しては、ディスプレイ表面に鉄球を落とすといった非常に過酷なテストにも耐える強度を確認しているとのこと。ディスプレイが曲がると言ってもThinkPadシリーズ同等の優れた堅牢性が確保されているため、安心して利用できると言っていいだろう。
そして、開閉も非常にスムーズで非常に気持ちがいい。ヒンジは適度なテンションでスムーズに開閉しつつどの角度でもしっかりディプレイを保持してくれる。また閉じる瞬間にはマグネットで上下が吸い付き、しっかりと閉じた状態を保持。開く場合には、マグネットの吸引力を上回る力を加えるとフワッと開く。この気持ちよさは一般的なクラムシェルノートPCでは味わえないもので、ぜひとも家電量販店の店頭デモ機などで触って確認してみてもらいたい。
○開くと大画面タブレットPC、折ってコンパクトクラムシェルPCとして利用可能
X1 Foldは、ディスプレイを開いた状態ではいわゆる1枚板のタブレット状となり、手に持ってタブレットPCとして利用できる。ボディ素材にはカーボンファイバーを採用しているため非常に剛性が高く、華奢な印象は皆無。開閉時にも全く不安は感じない。
背面側には本革製のカバーが装着されている。これによって、これまでのThinkPadシリーズにはない質感と高級感を実現。ThinkPadロゴとX1ロゴはカバーに彫り込まれているが、こちらもなかなか味わい深い。
この革製カバーはディスプレイの開閉に合わせてスライドする構造となっており、ディスプレイを完全に開くと背面を完全に覆い、閉じると本体の一部が現れる。また、カバーの一部は開閉型のスタンドとなっており、スタンドを開くことで本体を立てて利用できるようにもなっている。
ディスプレイは10点マルチタッチのタッチ操作に対応。加えて、製品に標準添付となるスタイラスペン「Lenovo Mod Pen」によるペン入力にも対応。折りたためるディスプレイでペン入力に対応するのは、スマホも含めてX1 Foldが世界初だ。
このスタイラスペンは、ワコムと共同開発したものとなっており、4,096段階の筆圧検知に対応。そして、ディスプレイを開いた状態での段差がほとんどないこともあって、実際の書き心地も非常にスムーズだ。
ディスプレイは開いた状態だけでなく、曲げた状態での利用にも対応。本のように中途半端に開いた状態で手に持って使ったり、折り曲げた状態で一方の底面を床に置いて利用することも可能だ。折れ曲がったディスプレイの上下に2つのアプリを分けて表示するなど、曲がる画面を有効に活用するためのユーティリティも用意しており、利便性も高められている。
また、X1 Foldには標準でBluetooth接続の薄型ワイヤレスキーボードが付属する。このキーボードは、サイズがW234.78×L144.6×D4.2mmと、X1 Foldを折りたたんだ状態での横幅と奥行きに合わせたサイズとなっている。配列は日本語仕様。キーボード側面には付属のスタイラスペンのLenovo Mod Penを取り付けるバンドも用意されている。
ただ、サイズが小さい割には、主要キーのキーピッチは横18mm、縦17.5mmと余裕がある。ストロークは1mm±0.2と浅いのは仕方がないが、キーピッチに余裕があるためタッチタイプも問題ない印象。ただし、キー数が73個と少ないため、Enter付近のキーなどFnキーと併用となっているものがかなり多い。キー数を増やすとキーピッチが狭くなり、窮屈なタイピングを強いられるため、X1 Foldでは快適なタイピングを優先させたようだが、妥協は強いられる。個人的には、もう少しピッチを狭めてもいいので、キー数を増やしてもらいたかったように思う。
もちろん、利便性を高めたいなら別途キーボードを用意してもいいだろう。特に自宅やオフィスのデスクで利用する場合には、より大きなキーボードを用意した方がはるかに快適に利用しやすくなる。例えば、「ThinkPad トラックポイント キーボード II」を用意すれば、名実ともにThinkPadそのものの操作性を実現できるので、特にお勧めしたい。
ところで、このキーボードは折り曲げた状態のディスプレイ上に置いて利用することも考慮され、ディスプレイ上にマグネットで固定できるようになっている。合わせて、ディスプレイ上にキーボードを置くと、ディスプレイの表示領域がキーボードを置いていない側のみとなり、見た目的には小型のクラムシェルPCそのものといった雰囲気となる。
この状態では、ディスプレイサイズは約9.6型、表示解像度は1,536×1,006ドットとなる。13.3型のクラムシェルノートPCと比べるとかなりコンパクトになるため、航空機の座席テーブルのように小さなテーブルにも余裕で置いて利用可能だ。
さらにこのキーボードは、ディスプレイ部に付属キーボードを挟んで折りたたむことを前提として設計されている。キーボードを置かずにたたむことももちろん可能だが、その場合にはディスプレイ部に隙間ができる。それに対し、キーボードを挟むと、隙間なく綺麗にたためるようになる。しかも、キーボードをディスプレイ上に置くとキーボードのバッテリーがワイヤレス充電される仕様。そのため、持ち運び時にはディスプレイにキーボードを挟んでたたみ、持ち運ぶようにしたい。
○サイズがコンパクトなためか数字以上にずっしり重く感じる
X1 Foldの本体サイズは、ディスプレイを開いた状態でW299.4×D236×H11.5mm、ディスプレイを折りたたんだ状態でW158.2×D236×H27.8mm。開いた状態ではなかなかのサイズ感だが、折りたたんでしまうとかなりコンパクトで、小さめのカバンにも余裕で収納できるといった雰囲気となる。
本体の重量は973g(最小構成時)と1kgを切っている。開けば13.3型ということで、重量的には13.3型軽量モバイルPCとほぼ同等レベルだ。ただこの重量はキーボードを省いた本体のみのもの。付属キーボードの重量は178gなので、キーボードを加えると重量は1,151gと1.1kgを超え、ペンも加えるとさらに重量が増すことになる。実際に、キーボードとLenovo Mod Penを加えた重量を実測してみたところ、1,154gだった。
13.3型モバイルノートPCでもこの程度の重量のものは多くあるため、トータルの重量にはそれほど不満は感じない。ただ、X1 Foldは折りたたむとかなりコンパクトになることもあって、本体を手にすると数字以上にずっしり重く感じてしまう。やはり、見た目がコンパクトになることが、そう感じさせているのだろう。
おそらく、もっと軽くすることは可能だろう。ただ、それでは必要十分な堅牢性が得られず、ThinkPadブランドとしての要件を満たせなくなる可能性が高い。確かにやや重く感じるのは事実だが、折りたためるディスプレイを搭載するPCを、高い堅牢性を兼ね備え安心して持ち歩ける中でこの重量なら、十分納得できるはずだ。
○CPUにCoreとAtomを積層実装する「Lakefield」を採用
X1 Foldでは、CPUとして「Lakefield」ことCore i5-L16G7を採用している。こちらの記事で紹介しているように、10nmプロセスの「Sunny Cove」ベースのコアを1基と、22nmプロセスの「Tremont」ベースのコアを4基、GPUコアなどを統合したプロセッサやI/Oコントローラ、8GBのメインメモリなどを3次元的に積層実装している点が最大の特徴。基板実装面積を大幅に低減できるとともに、消費電力の低さも特徴となっており、小型のモバイルPCに最適なCPUとなっている。
メインメモリはLakefieldに統合されている8GBのみとなり、増設は不可能だ。内蔵ストレージは容量512GBのPCIe/NVMe SSD(256GBモデルもあり)を搭載する。
無線機能は、IEEE 802.11ax準拠無線LAN(Wi-Fi 6)とBluetooth 5.0を標準搭載。この他、カスタマイズで5G対応のワイヤレスWANも搭載可能だが、試用機では非搭載だった。
生体認証機能は、Windows Hello対応の顔認証IRカメラを搭載。こちらは500万画素のWebカメラとしても利用できる。ただし他のThinkPadシリーズに搭載されるカメラの物理シャッター「Think Shutter」は搭載しない。
ポート類は、USB 3.1 Gen2準拠USB Type-Cを2ポート搭載する。このUSB Type-CはいずれもDisplayPort Altモード対応で映像出力が可能なほか、USB PD対応で電力の入力にも対応。付属ACアダプタもUSB PD対応のものとなっている。また、USB Type-Cは様々な利用形態に対応できるよう、開いた状態での長辺側と短辺側にそれぞれ1ポートずつ備えている。
付属のACアダプタはUSB Type-Cポートに接続して利用するものが付属する。ただ、サイズがやや大きく、電源ケーブルも太くかさばるのが少々残念。もしACアダプタも含めて軽快に持ち歩きたいなら、汎用のUSB PD対応ACアダプタを利用した方がいいだろう。
●Lakefield搭載で実力はいかほど? ベンチマークテスト
○Lakefieldの処理能力は第10世代Coreプロセッサーにかなわず
X1 Foldが採用するCPUのLakefieldは、CoreとAtomのCPUコアを計5コア組み合わせるという特徴的な仕様となっているが、実際の性能はどの程度なのか。実際にベンチマークテストで検証してみた。
まずはPCMark 10の結果だが、第10世代Coreプロセッサー搭載PCなどと比べるとかなり低いスコアとなっている。また、CPUの純粋な処理能力を計測するCINEBENCH R23.200の結果も、それほど伸びてはいない。
第10世代Coreプロセッサーと同等のSunny Coveコアを搭載しているとはいえ、それは1コアのみであり、さすがにCoreプロセッサー同等の性能を求めるのは酷というものだろう。とはいえ、当然ながらAtomベースのPCに比べるとスコアーは大きく上回っており、そこまで非力ということもない。
実際にX1 Foldでテキスト入力やOffice系アプリの利用、Webアクセス、簡単な写真のレタッチ作業などを行ってみたが、性能不足を感じる場面はほとんどなかった。動画編集などは厳しい場面もありそうだが、ビジネス用途や比較的軽めの処理が中心であれば、処理能力に不満を感じる場面は少なそうだ。
3DMarkの結果もそれほど優れているものではない。とはいえ、X1 Foldではゲームを快適にプレイできるほどの3D描画能力が求められることはほぼないと考えられるため、こちらも大きな欠点とはならないだろう。
高負荷時の動作音は、CPUクーラーのファンの動作音は排気口に耳を近づけるとかろうじて聞こえる程度の静かさで、通常利用時にはほぼ無音と言ってもいいほどに静かだ。それでいて本体はほとんど熱くならない。このあたりはLakefieldの省電力性の高さによるものとも言えるが、手に持って使う場合でも熱が気になる場面はほぼないだろう。
次に、内蔵ストレージの速度をCrystalDiskMark 7.0.0hで計測してみたところ、シーケンシャルアクセスでリード1776.33MB/s、ライト854.77MB/sを記録した。PCIe SSDとしてはエントリークラスの速度ではあるが、必要十分な速度であり不満はない。
バッテリー駆動時間は、公称では最大約11.7時間とされている。今回は実機の試用期間が短かったことと、PCMark 10のバッテリーテストが正常に利用できなかった(3度試して全て正常終了せず)ため計測できなかったが、おそらく標準的な使い方であれば、全画面利用時には公称の半分ほど、画面上にキーボードを置いてミニPCとして利用する場合には、ディスプレイの消費電力が低減するため公称の2/3ほどの駆動時間が期待できるものと考えられる。実際に2時間ほどミニPCとして連続使用してみたが、バッテリーは20%ほど減っただけであった。そのことから、8時間近くは利用できるのではないだろうか。
○価格がネックも自慢できる1台になる
X1 Foldは世界初の折りたたみディスプレイ搭載PCだが、不安なく折りたためるのはもちろん、開いた状態での段差のなさやペン入力にも対応するなど、世界初とは思えないほどに完成度が高い。また、開いた状態で大画面タブレットPCとして、折った状態でキーボードを置くとミニクラムシェルPCとして利用できるというように、使い勝手もしっかり練られており、魅力的な製品に仕上がっていると強く感じる。
唯一懸念と言えるのが価格だろう。日本ではキーボードやペンなどフルセットで販売されるとは言え、399,300円から、直販サイトでのEクーポン適用時でも327,426円から(12月7日現在の価格)という価格は、さすがに高いと感じてしまう。ただ、製品の魅力はこの価格を考慮しても決して色あせるものではない。少なくとも、実際に使っていて、これほど楽しく満足できる製品は他にはなく、それだけで十分価格の元がとれるだろう。他にはない圧倒的な魅力を備えるPCを探しているなら、これ以上ない製品と言っていいだろう。