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iPhone 12 Pro / Pro Maxに搭載の『LiDARスキャナ』とは?その機能や用途について解説

2020年10月に発売された「iPhone 12 Pro」と、11月に発売された「iPhone 12 Pro Max」には、背面カメラ部に「LiDAR(ライダー)スキャナ」が搭載されている。「iPhone 12」や「iPhone 12 mini」との差別化ポイントとしてこの言葉を見聞きした人もいるだろう。

LiDARスキャナは2020年3月に発売された「iPad Pro」にも搭載されており、被写体とそれ以外の距離を把握することで、背景ぼかしや暗所でのオートフォーカス、iPhone 12 ProとiPhone 12 Pro Maxではナイトポートレートでも活用されている。このほか、空間を認識することでARなどへの応用も進められているところだ。

このLiDARスキャナとはいったい何か、その機能や用途などについて解説する。

LiDARとは

「LiDAR」という言葉は、「Light Detection and Ranging」(光検出と測距)を略したもの。言葉の意味からもわかるように、レーザー光を利用して離れた物体の距離を測る仕組みだ。同様の仕組みとして、電波を使って離れた物体との距離を測るレーダーがあるが、これの光版と考えればいいだろう。

距離の測位には、レーザーやLEDなどの発光源から光を照射し、対象物に反射して戻ってくるまでの時間を計測する「ToF(Time of Flight)」という方式が主に用いられている。この「ToF」は「Xperia 1 II」や「Galaxy S20 Ultra 5G」などにも採用されており、LiDARを搭載するスマホは以前からあった。ただ、これらのスマホが搭載しているものと、iPhone 12 ProやiPhone 12 Pro Max、iPad Proが採用するLiDARスキャナとは若干の違いがある。それはToFの測位方法だ。

ToFには、光が反射して戻ってくるまでの時間を計測し、物体との距離を計算する「ダイレクトToF(dToF)」と、反射した光の位相差から距離を求める「インダイレクトToF(iToF)」という2つの種類がある。どちらも一長一短あり、たとえば、dToFのほうは、外光に強く物体との距離が離れていても計測できるというメリットがある。反面、光の速度を直接計測することになるので、高精度化(高解像度化)が難しい。

もう一方のiToFは、レーザー光を周期的に放出し、反射してきたレーザー光の位相のズレから距離を計測する。具体的な仕組みは割愛するが、dToFに対して装置が簡単で小型化が容易なのが特徴だ。ただし、外光の影響を受けやすく、長い距離には向かない。

これまでiToFは家庭用ゲーム機などの民生品に多く採用されており、先に挙げたXperia 1 IIやGalaxy S20 Ultra 5G、そしてAQUOS R5GなどもiToFを搭載しているが、iPad ProやiPhone 12 Pro、iPhone 12 Pro Maxでは、dToFを採用した。原理上は従来のスマホよりも野外での利用に強く、長い距離での利用が可能なはずだが、距離は5mに制限されている。これは距離を制限することで、小型化や省電力化を狙ったものと考えられる。

暗いところでもきれいな背景ボケ撮影が可能に

iPad Pro、そしてiPhone 12 Pro、iPhone 12 Pro Maxが採用したことで注目されたLiDARだが、その仕組み自体は新しいものではない。その原理は1960年代に誕生しており、1990年代にはすでに宇宙分野で実用化されていた。最近では、NASAが火星探査ミッションで使用するために研究開発が行われている。身近なところでは、自動運転車がクルマの周囲になにがあるかを認識するためにもLiDARが活用されている。

そのLiDAR(ToFセンサー)をスマホやタブレットに搭載する理由は、カメラでの撮影で、被写体との距離を測り、一眼レフカメラのように、きれいに背景をぼかせるようにするためだ。最近のスマホはLiDARを使わなくても、iPhoneやGoogle Pixelの「ポートレートモード」のようにAIが被写体のみを認識し、それ以外の部分をぼかせるようになってきているが、画像内で被写体を認識しにくい夜間など暗い場所での処理は苦手としている。

その点、レーザー光を利用するLiDARは暗所にも強い。iPhone 12 Pro、iPhone 12 Pro Maxでは、これを活かしてナイトポートレートを撮影できる。また、被写体をより認識やすいことから、夜間や暗所でのオートフォーカスが速くなるというメリットもあり、iPhone 12 Pro/Pro Maxでは従来より最大6倍のオートフォーカス速度を実現している。

iPhone 12 Proでのナイトポートレートモード。暗い場所でも背景がきれいにボケている

今後はARアプリが充実しそう?

LiDARの利点は写真撮影だけではない。とくにスマホへの搭載ではAR(Augmented Reality : 拡張現実)での利用が期待されている。現実の風景にさまざまな映像を重ねられるARだが、しばしばオクルージョン(ARコンテンツが現実の物体の前後関係により、後ろに隠れたり、手前に表示されたりするという技術)が問題となる。

たとえば、テーブルの向こう側にARコンテンツを表示したい場合、テーブルの位置が把握できていないとテーブルの手前に表示されてしまったり、テーブルと重なってしまったりと不自然な表示になってしまう。しかしLiDARで周囲の位置関係を正確に測定できれば、それをもとにARコンテンツの自然な表示が可能になる。

また、壁や床、家具などの位置を認識することで、AR上でそこにさまざまなアイテムを配置できるようになる。LiDARがなくてもある程度の配置は可能だが、LiDARで位置関係が想定できれば、より自然に、そして簡単に配置できる。実際にそうした機能を持つアプリも登場してきている。こちらは、iPad ProのLiDARスキャナとARKitで家具の配置を確認しているところ。LiDARスキャナにより、壁や家具の位置などを正確に把握でき、これまで以上に具体的にイメージができる。

iPhone 12 ProやiPad Proが採用したことで注目されているLiDARスキャナ。スマホへの採用が進めば、写真だけではなくARなどの分野でも活用する場面が増えてくる。自動運転など5G時代のサービスにも活用される可能性がある、今後も注目しておきたい技術だ。



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