これまでiPad Airは、iPadとiPad Proの中間的なポジションを維持してきた。スタンダードなiPadよりも常に高性能でありながら、薄く、軽い。ある意味、「iPadよりもiPadらしいマシン」という位置付けでもあった。それでも、性能的にはiPad Proには及ばず、中身は一世代前のiPad Proのお下がり的な印象があるのも否めなかった。今回のiPad Airは、そうした既成概念を打ち破り、新生iPadと言えるような独自の個性を持ったマシンに仕上がっている。見た目もかなりインパクトが強いが、さらに印象的な中身について、掘り下げて見ていこう。
独自のカラバリで個性を強調
新しいiPad Airで最も印象的なのは、そのデザインだ。基本的には、先行するiPad Proと同様のスタイルを採用したと言えるが、カラーバリエーションによって、iPad Proとはかなり異なる印象を与えることに成功している。iPad Proが「スペースグレイ」と「シルバー」という、その名の通りのお仕事用というイメージを演出しているのに対し、新しいiPad Airでは、その2色に加えて「ローズゴールド」「グリーン」「スカイブルー」の3色も選べる。
これは、iPad Pro的な使い方、エンタメを中心にするような使い方、いずれにも対応できることを主張しているかのように感じられる。なお、iPad Airのカラバリは、新しいiPhoneのカラバリとかぶる部分もあるものの、それぞれ独自の色を含んでいて、全体的に異なる個性をかもし出している。
デザイン的に見て、iPad Proと最も大きく異なっているのがカメラ部分だ。iPad Proでは、iPhone 11以降と同様に角の丸い正方形のベースの中に、複数のカメラやフラッシュなどを配置するスタイルを採用していた。新しいiPad Airでは、まずカメラが単眼というだけで、iPad Proとはだいぶ印象が異なる。ただし、これまでのiPad Airよりも口径がかなり大きなレンズを採用し、少し離れて小さなフラッシュ用のLEDが配置されている。
ただし、この単眼のカメラはiPad ProやiPhone同様に、レンズが本体の後面からかなり飛び出したものになっている。レンズの口径も、iPhoneとほぼ同じだ。ノーマルのiPadやこれまでのiPad Airのような、背面に完全に埋め込まれて、背面からまったく飛び出していないスタイルとは、かなり雰囲気も異なる。それでいて、iPad ProやiPhoneのようなベース部分がないだけに、レンズ単体としての飛び出し量はむしろ大きく感じられる。実際には背面から、約2mmほど出っ張っている。これは、単体でテーブルにぴったりと置いて使う場合などは、正直に言ってじゃまだ。特に不安定になるわけではないが、レンズをカバーするアルミ製本体の円筒形の突起の角が直接テーブルに当たるので、精神衛生上もよろしくない。
なお、新しいiPhoneでは、「カーボンフットプリントを減らすため」として電源アダプターが同梱されなくなったことが話題となった。このiPad Airには、相変わらず20Wの電源アダプターが付属している。iPadはカーボンフリーを目指さなくてもよいのかという意地の悪い疑問も浮かぶ。これは本体側、電源アダプター側、いずれもUSB-CコネクターでありiPadファミリーとして、まだ統一された仕様ではないことが影響しているのかもしれない。
iPhone 12と同じチップを採用、パフォーマンスに期待!?
このようにiPad Airは、外観だけからも完全にリフレッシュされ、車で言えばフルモデルチェンジを受けたモデルであることがはっきりと分かる。しかし本当に注目すべきは、むしろ中身の方だ。中でも象徴的なのは、メインチップとして「A14 Bionic」を採用していること。言うまでもなく、最新のiPhone 12/Proと同じチップだ。現行のiPad Proが採用するのはA12Z Bionicだから、少なくともチップの世代としては、iPad Airの方が進んでいる。この効果については、後に示すベンチマークで確認するが、iPad AirがiPad Proに迫る、あるいは部分的には上回るほどのパフォーマンスを発揮することは期待していい。
このスペック表を見ていくと逆にiPad Airが、まだまだiPad Proに及ばない点も数多くあることに気付く。というよりも、いくら高性能をチップを搭載していても、やはりiPad AirとiPad Proではそもそも設計コンセプトの異なるマシンなのだということを思い知らされる。
まず大きく異なるのが、ストレージサイズのバリエーションだ。iPad Airでは64GB、または256GBの2モデルなのに対し、iPad Proでは128GB、256GB、512GB、1TBという4モデルを揃え、やはりクラスが違うと感じさせる。
すでに述べたように、iPad Airは単眼カメラなのに対して、iPad Proは2眼となっている。これは、もちろん見た目だけでなく、機能的にも大きな違いをもたらす。iPad Proの2眼は、広角と超広角の組み合わせだが、iPad Airではこのうちの広角レンズを付けた12メガピクセルのカメラだけを採用したものと考えられる。広角カメラとしてのスペックは、iPad AirとiPad Proでほとんど変わらない。またディスプレー側のインカメラ(FaceTime HD)も、両者はスペック的にかなり近い。少なくとも7メガピクセルでf値が2.2という基本スペックは同じだ。ただし、iPad Proではインカメラにも自動手ブレ補正機能が備わっている点が異なる。
もう1つ大きく異なるのが音声関係の装備だ。iPad Airのスピーカーは2つで「ステレオ」に対し、iPad Proは4スピーカーを採用する。iPad AirもiPad Proと同様、本体側面の短辺側にスピーカーの音の出口が2組ずつ並んでいるので、4スピーカーのように見える。確かにiPad Proでは、このそれぞれの内側に1つずつ、合計4つのスピーカーが配置されている。そのため、iPad Pro本体を縦向きに置いても、横向きに置いても、必ず左右に2つずつのスピーカーが割り振られることになり、ソフトウェアによるチャンネルの切り替えによって、常に正しいステレオ効果が発揮できる。
それに対してiPad Airは、音の出口こそ片側に2組あるように見えるが、残念ながらスピーカーそのものは1つの側面に1つずつしか内蔵していない。これは、本体を横向きしたときにのみ、正しいステレオ再生を可能にする。ウェブ上の動画はともかく、映画などを観る場合には、たいてい横向き置くはずだ。また、Magic KeyboardやSmart Keyboard Folioを利用する場合にも、本体は必然的に横向きになるので、何の問題もない。ただし、本体を縦にして再生する場合には、正常なステレオ効果は得られない。この際、どちら向きに回転しても、必ず上になった短辺から右チャンネル、下から左チャンネルの音が出るように、スイッチングするようだ。
マイクについては、iPad Airはデュアル、iPad Proは5つも内蔵している。配置の向きによらず、ノイズキャンセリング効果やステレオ収録を考えると、これもiPad Proの方が断然有利だ。とはいえ、これについては実際に作品レベルのビデオ撮影をしない限り、ウェブ会議など、一般的な用途の範囲では、ほとんど気にならないだろう。マイクについても、iPad AirとiPad Proの差別化のための1項目として納得できる。
iPad AirとiPad Proの本体サイズを比較すると、画面サイズが0.1インチ(約2.5mm)しか違わないiPad Proの11インチモデルと、縦横はまったく同じだ。ただし厚さがiPad Airは6.1mmなのに対し、iPad Proは5.9mmと、0.2mmだけ薄い。iPad Airでもかなり薄く感じるが、実はiPad Proはさらに薄いというのも、さすがはiPad Proと感心せざるを得ない部分だ。ただし、重量は、Wi-FiモデルもCellularモデルも、わずかながらiPad AirがiPad Proよりも軽く、もともと軽いことを意味する「Air」の面目を保っている。
前任機の第3世代と比べると、本体の厚みは6.1mmでまったく同じ。長辺の長さが3mmほど短くなり、逆に短辺の長さは4.4mmほど長くなっている。要するに前任機よりもやや正方形に近付いたかたちだ。面積で言えば、新しいiPad Airの方がわずかに大きい。それでいて、前任機よりも小さく、薄く感じられる。
この印象は人によって違うかもしれないが、iPad ProやiPhoneのように、エッジの効いた側面を採用したデザインの影響だと感じられる。裏表2枚の大きな平面を、細いバンド状の側面でつなぐというデザインは、持ちやすさも向上させている。またディスプレーがオフの際には判別できないが、ベゼルを細くしたことも、大きさの感じ方と関係がありそうだ。
iPad ProやiPhone 12もうらやむ新世代Touch IDを装備
旧モデルは、言ってみれば旧iPhoneのデザインを継承したもので、前面パネルの端に大きなホームボタンを備えていた。それがベゼルを細くできない最大の要因だった。しかし新しいiPadは、ホームボタンに組み込まれていた指紋認識機能を、側面の電源ボタンに移動させることで、Touch ID機能を維持しながらホームボタンを廃止した。スペック表だけを見ていると、旧モデルも新しいiPad Airも「Touch ID」となっているので気付きにくいが、これは今のところ全アップルデバイスの中でiPad Airだけに備わった誇るべき機能だ。
iPhoneやiPad Proでは、ホームボタンを廃止すると同時にTouch IDも廃止した。新しいiPad Airは、セキュリティ機能として名前だけは旧モデルと同様のTouch IDを採用している。このあたりは、Face IDに移行したままのiPad ProやiPhoneとは大きく異る点だ。よく指摘されるように、昨今のフェイスマスクを装着する機会が増えている状況を考えると、Face IDよりもTouch IDの方が使い勝手が優れていると感じられる場面も多いはず。それを電源ボタンに組み込んで残したのは英断と言っていい。
ただし、その分だけ電源ボタンは長く、幅の広いものとなっている。厚さが6.1mmの新iPad Airでもギリギリのように見える。それを厚さが5.9mmのiPad Proに組み込むには、もう一段のエンジニアリング的努力が必要かもしれない。ただし、厚さが7.4mmあるiPhone 12/Proに組み込むのは、今の部品のままでも難しくないだろう。今後は、Touch IDとFace IDの両方を備え、ユーザーのニーズに応じて使い分けられるというデバイスが登場しても、まったく不思議ではないように思える。
Touch IDへの指紋の登録は、これまで同様簡単で、画面に表示される指示に従ってボタンに何度か指を触れるだけでいい。
これまでのホームボタンに組み込まれたTouch IDの場合、親指で、おそらくは1方向からのみ押す人が多かったのではないかと推察される。しかし、側面にある電源ボタンの場合、押し方は人によってかなりのバリエーションが出る可能性がある。縦に持つ場合と横に持つ場合でも異なるだろうし、Magic KeyboardやSmart Keyboard Folioを装着した場合とそうでない場合でも異なるかもしれない。そうしたバリエーションに対応するには、考えられるすべての押し方に対して指紋を登録しておけばいい。
「設定」の「Touch IDとパスコード」では、「指紋を追加...」ボタンをタップすることで、複数の指紋を簡単に登録できる。この画面で電源ボタンにタッチすると、登録した指紋に合致した指紋名がハイライト表示されるので、確かに登録されていることが容易に確認でき安心だ。
いずれにしても、これまでも電源ボタンを使ってiPadのロックを解除することに慣れていた人、つまりロック解除にホームボタンのTouch IDを使っていなかった人は、ほとんどTouch IDの存在を意識することなく、Touch IDを有効にした電源ボタンによるロック解除に移行できるはずだ。これはセキュリティの面でも安心だ。ただし、ホームボタンでロック解除することに慣れていた人は、意識を転換する必要があるかもしれない。
Magic KeyboardもSmart Keyboard Folioも使えるSmart Connectorを装備
今やiPad miniを除くiPadの前モデルに標準装備となったSmart Connectorは、当然ながらこのiPad Airも装備する。キーボードは、Magic KeyboardとSmart Keyboard Folioのいずれも装着可能だ。ただし、名称が似ている(「Folio」が付かない)旧iPad Airや第8世代iPad用のSmart Keyboardとは互換性がない。サイズも微妙に異なるが、同じSmart Connectorでも位置が異なるからだ。iPad Proや新iPad Airでは、USB-Cコネクターに近い部分の背面にある。旧iPad Airや第8世代iPadのSmart Connectorは、長辺の側面にあった。
厚さ以外の本体サイズが同一なだけに、11インチのiPad Proと新iPad Airは、Magic KeyboardもSmart Keyboard Folioも共通の製品で対応できる。今回は、後者のSmart Keyboard Folioとセットで試用した。キーボードの使い勝手やキータッチは、前回レビューした第8世代iPad用のSmart Keyboardとほぼ同じだ。キーのピッチは、ほとんどのキーが標準より1mmだけ狭い18mmで、違和感なくタイプできる。
また、右端に近い合計7つの記号キーだけ、幅が狭く、ピッチも14mmに狭められている点も、Smart Keyboardと同じ。一見頼りなさそうに見えて、意外にもしっかりした打ち心地のタッチも共通している。
ただし、Smart Keyboardにはない機能として、このSmart Keyboard Folioは2段階だけだが、画面の角度を調整できる。キーボードの台座部分に、本体の側面を収める溝が2本用意されているのだ。手前の溝に合わせると、画面は比較的寝た状態となり、iPadを近くに置いてタイプするのに適している。キーボードから遠い方の溝に合わせれば、画面は立った状態となる。これはiPadを遠くに置いたり、重ねた本の上に置いて使う場合に実に具合がいい。2段階のみの調整でも、かなり効果は大きいと感じられた。
カメラ部分のくり抜きはiPad Proの角丸正方形のベースに合わせてある
なお、Magic KeyboardもSmart Keyboard Folioを装着することで、カメラの出っ張りはカバーの厚さに吸収され、不安は解消される。これは持ち運ぶ場合も、本などと重ねて水平に置く場合にも都合がいい。ただし、すでに述べたようにいずれのキーボードも11インチのiPad Proと共通なだけに、カメラ部分のくり抜きはiPad Proの角丸正方形のベースに合わせてある。iPad Airに装着すると、文字通りちょっと間が抜けた感じになってしまうのは残念だ。
入力装置としては、新しいiPad Airが第2世代のApple Pencil 2に対応したことも、付け加えておく必要がある。これは、本体デザインがiPad Proと同様の直角的な側面を採用したことで可能となったもの。もちろん本体側面には、Apple Pencilをマグネットで吸い付け、そのままワイヤレスで充電するための機能を備えている。
そしてもちろんiPadOS 14も、新しいiPad Airとともに使用する第2世代のApple Pencil 2を完全にサポートしている。
iPad Proに迫るパフォーマンス
新しいiPad AirがiPad Proに最も近付いたと言えるのは、外観のデザインよりも、A14 Bionicを採用したことによるパフォーマンスの方だろう。いつものように、モバイルデバイスのベンチマークテストとして一般的なAnTuTuと、パソコンを含む広範囲のデバイスで使えるGeekBenchを使って性能を評価した。新しいiPad Airと比較したのはノーマルの第8世代のiPadと、2020年モデル(第4世代)のiPad Pro(12.9インチ)の2モデルだ。
まずAnTuTuの結果を見ると、第8世代のiPadよりも45%ほど大きな数値を示した。約1.5倍の速さということになる。さすがにiPad Proと比べると、87%程度の数値に留まるが、かなり迫っているのは間違いなく。通常の操作では、体感的にも引けを取らない。
GeekBenchでは、CPU性能は第8世代のiPadよりも63%ほど大きな数値で、約1.6倍の速さを示している。さすがにiPad Proにはやや劣るが、実はCPUコア1つあたりの性能では、iPad AirがiPad Proを凌いでいる。ただし、新しいiPad AirのA14が6コアなのに対し、iPad ProのA12Zは8コアのため、マルチコアではiPad Proが辛うじて勝ったというわけだ。GPUで数値計算を実行するComputeのテストでは、iPad AirはノーマルiPadの実に2.2倍の性能を示した。さらにわずかながらiPad Proを凌いでいる。
こうしたベンチマークテストは、マシン性能の中のほんの一面から見たものに過ぎないので、それによって総合的な評価が定まるわけではない。例えばGeekBenchではGPU性能はiPad AirとiPad Proでほぼ同等に見えるが、AnTuTuの性能内訳を見ると、iPad AirはGPU性能でiPad Proにだいぶ劣るという結果が出ている。とはいえ、新しいiPad Airは、性能面でノーマルiPadを大きく引き離し、かなりiPad Proに近付いたものであることは間違いない。
今回のレビューで見てきたように、iPadの総合的なパフォーマンスは、CPUやGPUの性能だけで決まるものでもない。機能面も考えればiPad Airには、まだまだiPad Proに劣る面が多くある。大きく分ければ、iPad Proはクリエーター向けで主に能動的な使い方をすることを想定しているのに対し、iPad Airはやはりコンシューマー向けで、主に受動的な使い方をすることを意識して設計されたマシン、という区分があるのは確かだ。
iPadに対して、とにかく考えられる最高の性能と最大限の機能を求める人は、やはりiPad Proを選ぶべきだろう。そうしたはっきりとした目的やこだわりがない人なら、新しいiPad Airを選べば性能的にも機能的にも、十分に満足できることは間違いない。
あとは、64GBで税別6万2800円から、256GBで同7万9800円から、という価格をどう見るかだ。ノーマルiPadと比べるとストレージ容量も2倍だが、価格もほぼ2倍のクラスに感じられる。それでも、iPad Proはさらにもう1クラス上の価格帯(256GBで同9万5800円から)であることを考えると、コスパ的には最適解のようにも見える。最終的には自分がiPadに何を求めるか、ということに尽きるが、それに応じて3つのクラスが用意されているのだから、選び甲斐は十分にある。