今年も新型iPhoneが発表された。5.8インチOLED(有機EL)搭載の「iPhone 12 mini」が追加され、発売から3年目に突入する「iPhone XR」を併売するため、iPhoneのラインアップは今後7機種になる。搭載フラッシュメモリの容量をそろえて価格を比較するとグラフはほぼ一直線。予算に合わせて選べるといえばその通りだが、気をつけたいポイントもいくつかある。
掲載したグラフと一覧表は、現行iPhoneの価格と主要なスペックをまとめたもの。価格を比較しやすくするため、ローエンドモデルの価格を縦棒グラフに、全モデルに共通する128GBフラッシュメモリ搭載機の価格を折れ線グラフにした。
5Gモデムは「iPhone 12/12 Pro」シリーズのみ。ただし、当面の間、5Gは限られた場所での利用にとどまる見通しなので、年内に購入するなら5G対応は“将来の保険”程度に考えていい。
コンパクトさで選ぶなら
コンパクトなサイズのiPhoneが欲しいなら、選択肢は2つしかない。「iPhone SE」とiPhone 12 miniは、横幅が近いため握りやすさという意味では確かに近いが、その価格差は3万円。スマホとしては明確に製品のクラスが異なるため、仕様を知れば選びやすい。
iPhone 12 miniは、超広角カメラと最新のSoC、5Gモデムの採用が大きなポイント。逆にカメラ性能にあまりこだわらず、「マスク必須の時代だからで指紋認証のTouch IDが欲しい」という人はiPhone SEを選んで間違いない。
両者のSoCは世代が1つしか違わない上、SEが搭載している「A13 Bionic」は2020年の基準で考えてもトップクラスの性能を持つ。5Gのサービスエリアが広がるにはまだ時間がかかり、SEの4G(LTE)モデムはギガビットクラスの最新サービスにも対応しているから当面は一線級で使える。
iPhone 12 miniは、最新のカメラ性能とコンパクトなボディの両方がほしい人に向いている。iPhoneのカメラは、演算能力で画質を高めるコンピュテーショナルフォトグラフィーのアプローチにより、最新SoCになるほど画質が高まる。A14 Bionicの世代では、特に動画の画質が向上しており、超広角でのナイトモードも魅力的だ。
価格重視で選ぶなら
価格重視なら、A13 Bionic搭載のiPhone SEがいい。実際、店頭でもSEが人気だ。量販店以外の販売データは明らかになっていないが、周辺機器メーカーなどに聞くと、ケースや保護ガラスなどの売れ行きは明らかにSEに偏っているという。
購入しやすい製品であることは間違いないが、一方でSEに次いで安くなった「iPhone XR」に心が揺らいでいる方も多いのではないだろうか。全面スクリーンのiPhoneが6万円を切るのは魅力で、カラーバリエーションの豊富さも、SEに対するプラス要因になる。
ただ、前述のようにiPhoneのカメラ性能はSoCの世代でほぼ決まる。特にA13 Bionicでは「Neural Engine」とISPが目覚ましい進化を遂げた。価格も大事だが、カメラ性能と画質も重要と考えるならiPhone SEを選んだ方が良い結果が得られるだろう。ただし評判のナイトモードは、内蔵RAM容量の関係でSEは対応していない。
筆者なら、予算が限られるならSE、XRの値段に1万円を追加できるならA13 Bionicを搭載した「iPhone 11」を選ぶ。
「iPhone 12」と「iPhone 12 Pro」で迷ったら
iPhone 12とiPhone 12 Proは画面サイズが全く同じで、どちらもディスプレイはOLED(有機EL)を採用した。外形はカメラ部を除いて全く同じ。保護カバーも同じものが利用できる。では何が違うのか。
まずフレームの素材が異なる。iPhone 12はアルミフレームだが、12 ProはPVA処理が施されたステンレス。Apple Watchのステンレスケースでも使われている仕上げで、高級感は高い。
とはいえアルミフレームのiPhone 12は質感が低いというわけではない。価格からも分かる通り、iPhone 12は上位製品だ。むしろiPhone 12 Proが極めてていねいに仕上げられたプレミアムモデルという方が正しい。
目立つ違いはリアカメラの数。iPhone 12に望遠カメラが搭載されないのは、iPhone 11と11 Proのときと同じだ。背面ガラスの処理も同様で、12はカメラ部が曇りガラス風のエッチング処理になっているのに対し、12 Proは背面全体がくもりガラス風と、処理の面積が反転している。
では、望遠カメラが必要なければiPhone 12で良いか。実は新搭載となったLiDAR(Light Detection and Ranging)スキャナーの有無が両者のカメラ性能を大きく分けている。LiDARは光学的に距離を面で計測するセンサーで、3〜5m程度の範囲で被写体との距離や大まかな形状を認識できる。測定用の赤外線は自ら発するため、暗所でも測定できる。
iPhone 12 Proは、この情報を使って暗所でのオートフォーカス性能を高めたほか、ポートレイトモードでの背景分離や被写体のライティング処理にも活用する。カメラを使いこなし、自分自身で好みの表現を追求したい人なら、今後はLiDAR搭載モデルが欲しくなると思う。
また、年内に追加予定の「Apple ProRAW」フォーマットでの記録も12 Proシリーズしか対応しない。このフォーマットはカメラRAWに対し、iPhoneのカメラが現像時に生成する分析情報(セマンティックレンダリングなどで使われる処理レイヤーのデータ)が付加されたファイル。自由にパラメーターを変更しながらRAW現像を行える上、iPhoneカメラ独自の付加価値も失わない優れたフォーマットになりそうだ。
ただし生成されるデータが多いため、RAWとともに記録するには大量のメモリが必要だと思われる。実機が出回るようになれば分かることだが、12 Proには12よりも多くのRAMが搭載されているのだと推察できる。つまり、カメラ数の違いというより、iPhoneに対してどこまでカメラとしての機能性や画質を求めるかが両者を選ぶ上でのポイントになる。
OLEDの画面輝度にも少し違いがある。iPhone 12の通常時625nitsに対し、12 Proは800nits(HDR時は両方とも1200nits)。これは最大輝度に設定した時の明るさの違いなので、そこまで明るさを引き上げなければ表示品質は変わらない。晴れの日の屋外などでは12 Proの方が見やすいことはあると思うが、常用するものではないと思っていい。
「iPhone 12 Pro」と「iPhone 12 Pro Max」の違い
iPhone 12 ProとiPhone 12 Pro Maxは大きさとバッテリー容量を除き、ほとんどの仕様は共通だ。ただ、カメラも若干仕様が異なっている。
12 Proは35mmカメラ換算で52mm(従来と同じ)に対し、12 Pro Maxの望遠レンズは65mm相当と望遠側に寄っている。費用頻度が高そうな広角カメラにセンサーシフト式の手ブレ補正が加わり、レンズシフトの手ブレ補正と協調動作する。
価格や重量は二の次で、カメラ性能やバッテリー駆動時間など、とにかく制約の少ない撮影環境を望むならiPhone 12 Pro Maxになりそうだ。
メモリ容量が重要に
アップルは自社製ハードウェア向けにiOSを開発しているだけあって可能な限り古い世代の端末まで最新iOSをインストールできるようチューニングを図る。これはユーザーが購入したハードウェアを長く使い続けられるようにという配慮に加え、OSを最新に保ち続けることで、その上で動作するアプリの開発を容易にする目的もある。
ただし機能的には端末の世代によって制約を受けたり、パフォーマンスの違いとなって現れる場合がある。AppleのSoCは、Neural Engineを搭載したA12 Bionicで一度、ニューラルネットワーク処理が大きく向上したため、A12 Bionicが搭載されていれば、当面はアプリケーションの速度やiOS最新版の機能制約を受けることはないだろう。今回の7製品はすべてA12 Bionic以上を搭載した。
問題は搭載するメモリの容量だ。写真の画質を高めるコンピュテーショナルフォトグラフィーは、メモリ上に多くの情報を展開する。現行ラインアップのうち、iPhone SEとXRは搭載メモリ(RAM)が3Gバイト。iPhone SEがナイトモード撮影できないのは、十分なフレーム数のバッファを持てないためだろう。
現行のiPhone 11シリーズはProも含めて4GBのメモリを搭載している。これはiPhone 12でも引き継がれていると推測しているが、Apple ProRAWなどに対応するiPhone 12 Proシリーズはメモリが6GBに増量されていてもおかしくない。最新機能を制約なしで使ってみたい人は、詳細なスペックを確認してから選んだほうが良いだろう。