ロジクールのiPad用のトラックパッド付きキーボード、「Combo Touch」。直販価格は2万460円
Macを中心とするアップル製品用の高品質な周辺機器で知られる、ロジクールのiPad用のトラックパッド付きキーボード、「Combo Touch」をしばらく試用する機会を得たので、実際の使い勝手を中心にレビューする。
アップル純正Magic Keyboardに取り残されたiPadをサポート
最近では、iPad用のキーボードと言えば、すぐにアップル純正のMagic Keyboardを思い出す人が多いだろう。当サイトでも、iPad Pro 12.9インチモデルと組み合わせたレビュー記事をお届けしている。アップル純正キーボードの場合、デスクトップ用キーボードの製品名もMagic Keyboardだし、さらにMacBook Proの内蔵キーボードもMagic Keyboardと呼ばれているので、ちょっと、いやかなり紛らわしい。アップルでは、薄型でも優れたキータッチを実現したキーボードに、Magic Keyboardという呼称を無条件で与えているかのようだ。
とはいえ、Magic Keyboardの利点は、キータッチの良さだけにはとどまらない。iPadOSの進化によって利用可能となったトラックパッドを内蔵しているのも大きな特長だ。それによって、iPadをノートパソコンのような感覚で使えるようになる。その点では、このCombo Touchも同様だ。操作感覚に優れたアイソレーションタイプのキーボードに、軽く触れるだけで操作可能なトラックパッドを組み合わせた製品となっている。
iPad用のMagic Keyboardは、現行と1つ前のiPad Pro専用で、12.9インチモデル(第3世代と第4世代)用と、11インチモデル用(第1世代と第2世代)用がある。こう書くと、なんだか幅広い製品をサポートしているようだが、サポートするのは幅広いラインナップのあるiPadの中でもProだけ。iPad Air、何も付かないスタンダードなiPad、そしてiPad miniはサポートしない。Proのユーザーは、iPad全体から見ればむしろ少数派だろう。アップルは質の高いキーボードをPro用にだけ提供して、差別化をより強力なものとしたいのかもしれないが、良質のキーボードを求めているのは、iPad Proのユーザーだけとは限らない。
そこに目をつけたのが、ロジクールのCombo Touchだ。一言で表せば、純正Magic Keyboardとほぼ同等のキータッチ、トラックパッドの使いやすさと、純正をも上回る便利な機能を、Pro以外のiPadに提供するための製品ということになる。サポートするのは、第7世代のノーマルのiPadと、第3世代のiPad Air、そしてiPad Proの10.5インチモデルだ。ちょっと異質に感じられるのは、10.5インチのiPad Proだろう。これはiPad Proの小さい方が現行の11インチになる直前のモデル、つまり最新のモデルからすると2世代前のものということになる。
このように、対象モデル構成は変則的なものに見えるかもしれない。これは現行のiPad Airが、2世代前のiPad Proの小さい方のモデルとの共通点が多いことと関係していると考えられる。つまりおそらく当初は、現行のiPadと同Airをサポートする製品として企画された。ところが現行のAirをサポートしたら、自動的に2世代前の小さい方のiPad Proでも使えるものになった、ということだと想像できる。ただし注意が必要なのは、第7世代iPad用のCombo Touchと、第3世代iPad Airおよび10.5インチPro用のCombo Touchは、異なる2種類の製品として販売されていること。両者の違いは、微妙(0.94mm)なサイズの差だけで、機能的にはまったく同じものと思われる。ちなみにこのサイズの違いは、iPad本体の厚みの違いに対応したものだ。
今回は、10.5インチiPad Proを使用して、同機種に対応したCombo Touchを試用した。
キーボードとしての使いやすさはMagic Keyboardとほぼ同等
Combo Touchの基本的な機能、構成はiPadとの関係で見たとき、本家のMagic Keyboardとほぼ同じと言える。つまり、使用していないときにはiPadの表面のディスプレイと裏面をカバーするキャリングケースの役割を果たす。ケースを開くと、ディスプレイを覆っていた部分がトラックパッド付きキーボードになり、背面を覆っていた部分がスタンドとして機能する。
ただし、違いはいろいろある。まずはiPad本体と背面カバーの固定方法だ。Magic Keyboardには、iPad Pro本体に数多く仕込まれたマグネットと呼応する位置に、やはり多くのマグネットが配置されていて、ほとんど自動的にぴったりした位置に吸い着くように固定される。Combo Touchが対応するiPadには、そのようなマグネットは仕込まれていないので、その手は使えない。そこでCombo Touchでは、iPadの側面まで回り込んだ柔軟性のあるバスタブのような枠によって、iPad本体を包み込む方式を採用している。慣れないと着脱には骨が折れるが、かなりがっしりと固定されるので、使用中に外れしまうような心配は皆無だ。
ただし、この背面カバーの固定方法がCombo Touchの全体的な厚みの要因の1つとなっていることは、否定できない。Combo TouchをiPadに装着して折り畳んだ状態の厚みは、実測で約21mm程度になる。そのうち、前面カバーとなっているキーボード部分の厚みは6mm程しかない。残りの15mmが本体+背面カバーというわけだ。iPad(Pro)自体の厚みはスペック上6.1mmなので、差し引けば背面カバーだけで約9mm、つまり1cm弱も厚みが増えていることになる。
すでに述べたように背面カバーはスタンドを兼ねているので、その1cmの中には、自由に角度を変えられるスタンドのステーも含まれている。この部分は、Magic Keyboardのスタンド部分と同じようなしくみになっていて、可動範囲で任意の角度をキープできる。背面カバーの一部を折り曲げるように引き起こすステーが、0〜約110度の範囲で、好きな位置に固定できるのだ。ステーを最大角度まで引き起こした場合、ディスプレイの角度は155度程度まで開くことが可能だ。これは、テーブルに置いたiPadを、座らずに立ったままキーボードで操作するような場合を考えても、十分な角度と言える。
Magic Keyboardと大きく異なるのは、背面カバーとなるスタンド部分と、前面カバーとなるキーボードを完全に分離できること。実を言えば、Combo Touchのスタンド部分とキーボード部分は、お互いにまったく接続されていない独立したパーツなのだ。キーボード部分は、マグネットの力によってiPad本体の側面にあるSmart Connectorに吸着する。つまりスタンドとキーボードは、それぞれ別々にiPad本体に固定されることで、あたかも一体のように見えているだけなのだ。
その気になれば、スタンド部分を外してキーボード部分だけを付けて使うことも可能だ。ただし、その場合には、iPad本体とキーボードを同じ平面上に置いて使うか、iPad本体を適当な角度に保つなら、壁などに立てかける必要がある。もちろん、キーボードだけを外して、背面カバーを純粋なスタンドして使ってもいい。
iPad本体とキーボード部を接続するSmart Connectorは、接点が3つあるアップル独自のもので、純正のSmart Keyboard Folioなども利用している。接続は純粋に電気的なもので、iPad本体からキーボードやトラックパッドに電源を供給しつつ、ユーザーの操作に呼応する入力信号を受け取る。iPadの本体の電源がオンの状態で、OSやアプリが起動中でも着脱でき、接続すれば間髪をいれずに動作を開始する。
もちろん、ペアリングのような操作は不要で、Bluetoothのような無線通信と比べても、安定感、安心感は格段に高い。iPad本体の消費電力が、それなりに増加することを除けば、キーボードやトラックパッドの電源について、まったく心配する必要のないのも大きなメリットと言える。
カバーとしての厚みがあることは、iPad本体に対する保護機能が優れていることを意味しているとも言える。もちろん、防水機能を発揮するわけではないが、ファブリック仕上げのように見えるCombo Touchの表面には、防水コーティングがなされている。少量の水をかけても弾くし、汚れも付きにくい。仮に付いても、かんたんに拭き取ることができる。
背面カバーの、使用中にはディスプレイ上端となる位置には、簡単なApple Pencilのホルダーが付いている。Combo Touchが対応するiPadがサポートするApple Pencilは第1世代のものだが、手帳に付いているような単なる円筒状のペンホルダーなので、必ずしもApple Pencilを刺しておかなければならないというわけでもない。一般的なスタイラスでもいいし、普通の筆記具を刺しておいてもいい。また、この部分を持ってディスプレイ部分を開くタブとして使ってもいいだろう。
機能性、利便性は純正のiPad用キーボード以上!
キーボードとしての操作感覚は、個人の好みにもよるが、純正のMagic Keyboardとほぼ互角と考えていいだろう。キーの反発力は、ほんのわずかながらMagic KeyboradよりもCombo Touchの方が強いように感じられる。ストロークはほぼ同じで1mm程度を確保している。キーを連続してたたくようにタイプした際の音は、むしろCombo Touchの方が静かで、カシャカシャした感じはまったくない。
キーピッチは、一般的なキーボードよりじゃっかん狭い18mmとなっている。比べてみれば、確かに間隔は狭いが、実際にキー入力を始めれば、すぐに慣れてしまうほどの差でしかない。10.2〜10.5インチサイズのiPad用のキーボードとして、必要なキーを無理なく収めていることを考えれば、むしろ絶妙な設計と言える。ほとんどのキーは18mmのピッチを維持しているが、「return」キーの上あたりにある記号(「{/[」「}/]」「|/\」)の3つのキーだけは、わずかに横幅が縮められ、ピッチで言えば15.5mmほどになっている。それほど多用するキーでもなく、指が隣のキーに触れてしまうほど狭くもないので、まったく問題とは感じられない。
iPadOS用の外付けキーボードでは、ソフトウェアキーボードにはないカーソルキーが使えることが大きい。テキストを扱うアプリでは、狙った文字と文字の間に確実に、かつストレスなくカーソルを移動できることが非常に重要だからだ。もちろんCombo Touchも、Magic Keyboardと同様、カーソルキーを装備する。Magic Keyboardのような、いわゆる逆T字型ではなく、上下方向のキーだけ高さがハーフサイズの、いわばH型配列だが、これもまったく問題ない。むしろ全部のキーがハーフサイズの逆T字型よりも、こちらの方が使いやすいと思っている人も多いのではないだろうか。
トラックパッドは、キーボードの手間側中央という所定の位置にあって、一般的なノートパソコンと比べても操作性は大差ない。サイズは、実測で幅95mm、奥行き54mmとなっている。12.9インチ用のMagic Keyboardと比べると、幅はやや狭いが、奥行きはむしろ長い。キーボードを前面カバー部の、もっとも奥側に寄せて配置していることから生まれるメリットだ。
最近のノートパソコンに慣れた人からすれば、トラックパッドの面積はかなり小さく感じられるだろう。これでも、画面サイズが10.2〜10.5インチのiPadのポインターを操作するには、まったく不自由はない。各種のジェスチャー操作を考えても、特段狭いとは感じられない。キーボードのホームポジションに両手を置いたとき、掌がトラックパッドに触れてしまうことのないサイズなので、むしろこれくらいがちょうどいいと感じる人も多いだろう。
キー配列に注目すると、純正のMagic KeyboardやSmart Keyboard Folioにはない、このCombo Touchの大きなメリットに気付く。それは、キーボードの最上段、数字キーの列よりもさらに上に、一連のファンクションキーを装備していることだ。ロジクールでは「iOSショートカットキー列」と呼んでいる。構成は、MacBookシリーズなどにも近い内容のもの。要するにiPad用のキーボードにMacBook並の機能性をもたらすものだ。
構成は、左から右に、ホーム、画面輝度を下げる、画面輝度を上げる、オンスクリーンキーボード、検索、キーの輝度を下げる、キーの輝度を上げる、前のトラック、再生/一時停止、次のトラック、消音、音量を下げる、音量を上げる、ロック、の各キーが並ぶ。これらのキーによって、ホーム画面の呼び出し、画面の明るさ調整、ソフトウェアキーボードの表示、検索、キーボードのバックライトの調整、音楽プレーヤーなどのコントロール、音量調整、ロックといった操作が、どんなアプリを使用中にも、キーボード上のキーを押すだけで可能となる。
こうしたキーは、特にMacBookの操作に慣れている人にとっては便利、というよりも、なければ不便にすら感じられるもの。純正iPad用キーボードの大きな不満点の1つを解消したことだけでも、Combo Touchの存在意義は大きい。
純正Magic Keyboardと同等の設定機能を実現
Combo Touchは、一般的なBluetooth接続のキーボードなどとは異なり、純正と同様にSmart Connectorを利用して接続することで、純正と同様のカスタマイズ機能を獲得している。
まずキーボードの動作に関するカスタマイズは、Combo Touchを接続することで初めて利用できる「設定」の「一般」にある「キーボード」の「ハードウェアキーボード」で可能となる。
ここでの設定のうち、特に日本語入力の使い勝手に大きな影響を与えるのは「ライブ変換」と「Caps Lockを使用して言語を切り替え」の2つだろう。前者は、macOSの日本語入力と同様の変換機能をiPadOSでも可能にするもの。ユーザーは、いちいち変換キー(スペース)を押さなくても、次々とかな漢字変換を続けていくことができる。もちろん、誤った変換が採用されそうになった場合には、スペースキーを押すことで、別の候補を選択することも可能だ。この場合、他の候補はmacOS同様に縦に表示されるので、一覧性が高い。
ライブ変換を使用しない場合には、ソフトウェアキーボードによる入力と同様の操作感覚となる。その場合、複数の候補は横に並んで表示されることになるので、一度に表示される候補の数も少なくなるのが難点だ。
一方の「Caps Lockを使用して言語を切り替え」は、文字通りCombo Touch上にあるCaps Lockキーによって、日本語と英語の入力を切り替える機能を有効にする。Combo Touchのキー配列は、英語(US)のみなので、スペースキーの左右に「英数」、「かな」といった言語切替用のキーは備えていない。入力切替をスムーズに実行するには、Caps Lockによる切り替え機能は有効だ。なお、このスイッチをオフにした場合には、Combo Touchの左下角にある「地球儀」キーによって、順繰りと入力言語を切り替えることができる。ただ、それではソフトウェアキーボードと同じで、あまり効率よく切り替えることはできない。
Combo Touchに内蔵のトラックパッドに関する設定も、「設定」の「一般」にある「トラックパッド」で可能となる。設定可能な項目は、やはりmacOSのトラックパッド設定を踏襲するもの。Combo Touchのトラックパッドは、MacBookシリーズのような電子式ではない。キーボードに近い側にヒンジのあるメカニカルタイプで、奥側では押し込むのがかなり硬くなる。そこで「タップでクリック」をオンにしておけば、トラックパッドをクリックするまで押し込む必要がなくなり、軽く触れるだけでタップ操作が可能となるので便利だ。
ただし、文字列の範囲を選択する際のようなドラッグ操作は、実際に電気的なスイッチが入るまでトラックパッドを押し込む必要がある。その点は、やや残念だが、iPadOSの仕様なので、致し方ないだろう。