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Apple SiliconとmacOS Big Sur、目まぐるしく変化するMac

Appleは、6月22日からオンラインで開催したWWDC 20で、各デバイス向けの新OSを表した。すべてのOSは秋に正式版がリリースされることがアナウンスされている。

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今回のアップデートで最も大きな変化となるのは「macOS Big Sur」だ。これまで「macOS 10.xx」だったバージョンネームが、Big Surから「macOS 11」に上がる。Intelチップは引き続きサポートされるが、2020年末に登場するとみられるApple Siliconへの対応もあり、2001年から続いてきたバージョン10をついに卒業する。

MacのOSとアーキテクチャの移行の歴史

現在、macOSと呼ばれているMac向けのオペレーティングシステムについて、少しだけ歴史を紐解いておこう。

1984年にMacintoshに搭載された「System」から、1999年10月に発表され2001年に開発を終了した「Mac OS 9」まで、Appleが「Classic Mac OS」と呼ぶ旧OSが存在していた。Classic Mac OSが現役の間、AppleはMotorola 68000プロセッサからIBM・Motorola・Appleの3社で開発したPowerPCへ、1994年から1996年の2年間で移行を行った。

Classic Mac OSの最後のバージョンはMac OS 9.2.2であり、2002年のWWDCの壇上でスティーブ・ジョブズは、Classic Mac OSの葬儀を行うパフォーマンスをした。

その後継としてすでに開発を進めていたのがMac OS Xだった。このMac OS Xの初期の5つのバージョンには「Secret Double Life」(秘密の二重生活)があったと、スティーブ・ジョブズはWWDC 2005で明らかにしている。

Appleは、2006年から2007年の間にPowerPCからIntelチップへの移行を行っており、WWDC 2005でそれが発表されているが、PowerPCベースで開発されてきたと思われていたMac OS Xは、初期バージョンから5年間、Intel向けにもコンパイルされてきたという。

そのうえで、PowerPCとIntelの双方で動作するUniversalアプリ、PowerPC向けアプリをIntel Macで動作させるトランスコード技術のRosettaを準備し、ユーザーの実利用やアプリ開発の面で継ぎ目のない移行が可能なよう配慮してきた。

2020年のWWDCで発表したIntelからApple Siliconへの移行も、2年間というこれまでのトランジションと同じ時間が取られている。macOS Big Surは双方のコードに対応し、Universal 2、Rosetta 2と仮想マシンの仕組みを加えるなど、過去にうまくいったチップの移行を再現しようとしている。

過去、スティーブ・ジョブズがIntelへの移行で強調していたのは「Performance per Watt」、つまりパフォーマンスあたりの電源効率だ。Apple Siliconへの移行でも、デスクトップのパフォーマンスとモバイルの省電力性の両立を目指しており、同じ論理といえる。

macOS Big Surのデザインプロジェクト

2020年秋に登場するmacOS Big Surはメジャーバージョンアップということで、先述のようなテクノロジー面での進化が加えられている。同時に、Macのユーザーインターフェイスデザインも、新しいテイストへとアップデートされた。

インターフェイスは、透明なガラスがモチーフとなったベース、そしてiPadやiPhoneのように角が丸められたウインドウ、一覧性が高くグラフィカルなウイジェット、そして何より象徴的なのが、円形から角丸四角形となったアプリアイコンだ。いずれもiOS、というよりはiPadOSとの親和性が高められている。

その背後には、iPhone/iPad/Apple Watch/AppleTVといった各プラットホームと共通するUIの開発環境、SwiftUIを主体とした開発に軸足が移り、特にiPadOS側でも、Macでこれまでおなじみだった左にサイドバー、右にコンテンツという構成を標準としたことがある。

Appleは2年前のWWDCから、iPadとMacのアプリを一体的に開発する方法「Mac Catalyst」を用意した。これによって、macOS標準アプリのiPadとの一体開発に加え、TwitterやMessengerといった主要iPadアプリのMacへの移植も実現している。

UIの共通化に加えて、ボタンのシンプル化も進行している。Appleは、2019年に各OSに搭載し始めたアイコン用フォント「SF Symbols」に750種類もの新しいアイコンを追加した。これは、デザインのシンプル化、共通化、アプリ間でのイメージの統一などに寄与することとなる。
アプリ実行環境の実力

macOS Big Surは「IntelからApple Siliconへの円滑なアーキテクチャ移行」「iPadとのさらなる親和性の拡大」という2点にフォーカスを当てている、と見ることができる。

すでにAppleは、プロセッサで過去2回、OSで過去2回、合計4回のトランジションを経験している。いずれも2年という移行期間を置いているが、プロセッサの移行についてはOSを先行してリリースしながら、開発者のアプリ開発を支援し、つなぎの実行環境を用意、新しいアーキテクチャのMacをリリースしていく、という手順だ。

macOS Big Surはこの手順のうち、OSの先行リリースと開発者のアプリ開発支援、つなぎの実行環境を叶えるものといえる。

まず、macOS Big SurはIntel・Apple Siliconの双方で動作する。今後は基本的には、双方のチップでネイティブに動作するUniversal 2アプリとしてビルドされていくが、Apple SiliconのMacでもIntel向けにビルドされたアプリが動くよう、Rosetta 2でトランスコードして実行可能にする仕組みを備える。

加えて、Apple Silicon MacとmacOS Big Surでは、iPhone・iPadのアプリをApp Storeからダウンロードし、そのまま実行できる。もっとも、先述のMac Catalystの存在によってMacネイティブアプリも増えることが予想でき、どれだけ意味があるかは疑問が残る。
めまぐるしく変わるMacを取り巻く環境

2016年ごろ、Mac軽視の批判を浴びていたApple。Intelから満足なチップの供給がなければ、Macの価値を高めることができないジレンマは、Macユーザーとしてももどかしく、それでもIntelチップを採用し続ける限り、Intel次第でしかなかった。

その一方で、iPhoneはスマートフォン最高のパフォーマンスと、競合に比べて少ないバッテリー容量でも1日利用できるバッテリー持続時間を実現しており、その対比は非常に鮮明になっていた。これをMacに持ち込もうというアイディアは、技術的解決によって何としてでも実現したかったはずだ。

OSのデザインは、見た目を司るUIと開発環境の双方で洗練されていく。Apple Silicon Macは、コンピュータのデザインの自由度も高まる可能性があり、Big Sur時代のMacの本体そのものの変化にも期待を寄せている。

著者 : 松村太郎 まつむらたろう 1980年生まれのジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。Twitterアカウントは「@taromatsumura」。 この著者の記事一覧はこちら



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