新型コロナウイルスに対する「集団免疫」の形成は“絶望的”となりそうだ。各国の政府により新型コロナの抗体が、短期間で減少するという研究結果が発表されている。
「集団免疫」は感染症が一度感染して完治すると免疫ができ、多くの場合は再感染することはなく、他人を感染させることもなくなる。そのため、多くの人が一時的に感染し完治することで、免疫がない人々も感染しにくくなり、感染が流行しにくくなるという考え方。
治療薬もワクチンもない新型コロナにとって感染後、抗体が作られることが“再感染の防止”につながり、抗体を保有する人が増加して集団免疫が形成されることが感染拡大の防止につながる、というわけだ。
ところがスペイン保健省は7月6日、新型コロナ感染後に体内で作られる抗体が、短期間で減少したとする研究結果を明らかにした。この研究は約7万人を対象に3カ月にわたり3回の抗体検査を行い、1回目の検査では陽性だった被験者の14%が、3回目の検査で陰性となった。最終的に抗体を保有しているのは被験者全体の5%にとどまった。
カルロス3世保健研究所所長は、「抗体は一時的なものにすぎず、不十分な可能性がある。依然として、国民の95%に感染の恐れがある」とコメントしている。
また韓国政府は7月14日、国内の3055人を対象に新型コロナの抗体ができているかどうかを検査した結果、1人しか抗体が確認されなかったと明らかにした。朴ヌンフ保健福祉相は「抗体を持つ人がほとんどいないということは、韓国社会が集団免疫を形成することが事実上、不可能ということだ」と指摘した。
その上で、朴保健福祉相は、「効果的なワクチン開発には“1~2年以上”かかる」と予測し、マスクの使用やソーシャルディスタンスを保つことで、新型コロナからの感染防止の努力をするしかないとしている。
一方、日本では7月14日、厚生労働省が2020年6月に東京都、大阪府、宮城県で行った新型コロナウイルスの抗体保有調査の結果を発表した。(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_12409.html)
この調査は、6月に抗体保有状況の把握のため、東京都、大阪府および宮城県の3都府県で、それぞれ一般住民約3000人を性・年齢区分別に無作為抽出し血液検査を実施、国立感染研究所でウイルス感染阻害機能を持つ抗体量(中和抗体価)を測定した。
検査は米国FDA(食品医薬品局)から緊急使用許可(EUA)が出ているアボットとロッシュの2社の試薬で行われた。この結果、2社の試薬の両方で陽性反応が出たのは8検体だった。
そこで、この8検体の血清と新型コロナのウイルス細胞を試験管内に混ぜたところ、実際にウイルス感染を阻害する免疫機能を有する「中和抗体」が確認された。2社の試薬のうち1社のみ陽性と判定された検体でも調査したが、中和抗体は検出感度以下でしか確認されず、十分な量は検出されなかった。
この結果、厚労省では今回の中和活性を加味した各地の抗体保有率は、東京都が1971人中2人(0.10%)、大阪府が2970人中5人(0.17%)、宮城県が3009人中1人(0.03%)となった。
厚労省では、新型コロナの免疫が「体内でどの程度の期間持続されるか」についてまでは「わかっていない」とした。
スペインの発表は保健省、韓国では政府が発表したものであり、政府の正式発表だ。検査数もスペインは約7万人を対象とし、韓国では3055人を対象としている。日本政府が実施した抗体検査のサンプル数とは“ケタ違い”であり、それだけ信頼できる数値とも言える。
それよりも問題なのは、こうした調査結果がほとんど伝えられることはなく、また、国会などでも追及されない点にある。新型コロナに対する正確な情報を国民に提供するためにも、政府はきちんと説明するべきだ。