新型コロナウイルスは元々、動物から人間に伝染したものだ。SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)を引き起こしたウイルスも同様だ。
現在では、新型コロナウイルスが人からペットなど他の動物に伝染することを示す証拠が多くある。感染者が増えるほど、永続的な動物の病原巣が作られるリスクが高まり、数世代にわたる脅威となるかもしれない。
人間は、新型コロナウイルスを他の動物に感染させることができる。新型コロナウイルスは、人から猫や犬、ライオン、トラ、ミンクに伝染する可能性があるのだ。感染したトラは、ウイルスをライオンにうつすことができる。また、ミンクは同ウイルスを互いに感染させることができ、コロニー全体に壊滅的な影響がもたらされかねない。
少なくとも一部の動物は、人間に直接ウイルスを戻すことができるようだ。私はこれを、感染のピンポンと呼んでいる。
オランダでは今年4月初め、少なくとも2つのミンク飼育場で大規模なウイルス感染が起きた。ウイルス遺伝子の配列分析からは、新型コロナウイルスが飼育場内で非常に急速に広まり、別のケージに飼育されていた動物の間にさえ伝染していた一方、異なる飼育場の間ではまん延しなかったことが示された。
その後の研究では、ミンク飼育場の中や周囲にいた猫もウイルスに感染していたことが示された。全ての猫がミンクの排せつ物や呼吸による飛沫(ひまつ)に接触して感染したのか、それとも互いの接触で感染したのかは分かっていない。
その後、今度はミンク飼育場の労働者2人が感染していたことが分かった。ゲノム解読からは、感染したミンクからウイルスが人に戻ってきたことが立証された。
種の間でウイルスをうつし合うことの悪影響は何だろう? 新型コロナウイルスは、ミンクや飼い猫、飼い犬、フェレット、ハムスター、トラ、ライオン、コウモリ、マカクザルに伝染する。豚やネズミ、ドブネズミへの感染の可能性を示す証拠もあり、こうした動物と密接に関係している野生動物(コヨーテや野犬、野生の猫科の動物、イノシシ、センザンコウ、ジャコウネコなど)も感染の可能性がある。時間がたてばこのリストに載る動物も確実に増えるはずだ。
私たちは、ペットや家畜から感染することを心配すべきだろうか? そうかもしれない。世界での感染者数は1000万人を超え、感染者のそれぞれが動物への感染源となり得る。ウイルスが他の動物から人間に伝染することは分かっており、SARSや新型コロナウイルス感染症はどちらもこのようにして始まったと考えられている。
MERSに関しては、初めて症例が報告されるようになってから8年たった今でもラクダから人間への感染が続いている。MERSウイルスの人から人への感染速度は緩やかで、その点は幸運だ。
新型コロナウイルスが、病原体保有動物から人間へ感染するリスクを見積もるには、現時点では分からないことが多過ぎる。人間から他の動物への感染効率は犬や猫では低いように見えるが、他は分かっていない。ミンクの動物間感染効率が非常に高い可能性があることは分かっているが、他の動物の間の感染効率については分からない。
感染経路についても、空気感染なのか、口腔や排せつ物を通したものなのか、汚染された水によるものなのか、それともこれら全てなのかは不明だ。私たちはいまだに、ウイルスに感染し、その後人間にウイルスを戻すことができる動物の種類を理解しているところなのだ。
明確なことは、新型コロナウイルスは現実的に、ペットや家畜、私たちの周囲に住む野生化した動物の間で深い病原巣を確立する可能性があることだ。今こそ動物間で詳細な監視を始め、感染の証拠を探すべきだ。また人間だけでなく、ペットや家畜も潜在的な危険として考え慎重になるべきときかもしれない。