各種報道ですでにご存じの方も多いと思うが、2020年9月30日をもって「NAVERまとめ」のサービスが終了するというリリースが正式に発表された。
2009年にサービスを開始したNAVERまとめはインターネットの情報をまとめる「キュレーションサイト」の先駆け的な存在であり、最盛期の2014年には月間約23億PVを達成する一大コンテンツに成長していたとされる。
実際、皆さんがインターネットで調べものをする際、NAVERまとめのコンテンツを閲覧したことがあるかもしれない。筆者も検索でNAVERまとめのページを閲覧したのは一度や二度ではなく、回数は多くないがニッチな分野のまとめ記事を作ったこともある。
このように、同コンテンツ最大の武器は、「誰でも気軽にまとめ記事を作ることができ、膨大な数を蓄積してどんな検索ワードにも対応する記事を表示できる」ことだったといってもよい。
また、まとめ記事の作成者には成果に応じて報酬も支払われ、当時はまだ馴染みが薄かった「誰でも稼げるネットビジネス」としても親しまれた。運営側としてもプロのライターに記事を発注するよりも安上がりに数を揃えられ、多額の利益を出していたことは容易に想像がつく。
しかし、そんなNAVERまとめはなぜサービスを終了するという判断に至ったのか。公式のリリースを見ると「サービス環境・市場環境の変化による単独サービスとしての今後の成長性や、LINEグループ全体での選択と集中の観点などをふまえて検討した結果」とされている。
筆者が注目したのは、「サービス環境・市場環境の変化」という部分だ。NAVERまとめのサービス終了という出来事は、WEBサービスの「世代交代」を如実に物語っているように感じられた。
◆Googleの検索アルゴリズムが大きく変化した
私たちが普段目にする「検索結果」は、検索エンジンを管理する運営側が主にAIを用いて管理している。検索エンジンのシェアは日本だけでなく世界中で実に90%近くがGoogleのサービスで占められており、Googleの意向によって検索結果は決められているといっても過言ではない。
一方、WEBサービスが収益を上げるためには、基本的に「PV(ページビュー)」が必須になる。このPV数を確保する手段はいくつかあり、代表的なものが「ページを検索結果の上のほうに表示すること」だ。私たちは調べものをするとき「検索してすぐに出てきたもの」、つまりより上位に表示されたページをクリックしがちだ。それゆえにページを上位に表示させることはWEBサービスにとって死活問題であり、上位表示を目指すためのテクニック「SEO(Search Engine Optimization:検索エンジン最適化)」はもはや常識になっている。
しかし、Googleもただ漫然と検索結果を表示しているわけではない。彼らのビジネスも検索結果の「質」に左右されるものであるがゆえ、2014年ごろからWEB上のページを評価するための指標を調整してきた。
それは定期的に実施されるようになったが、とくに近年はページを評価するAIのアルゴリズムを見直す「コアアルゴリズムアップデート」を年に何度か行うようになった。このアップデートで見直される評価基準は無数にあるので具体的には触れないが、一言でまとめれば「E-A-T」こそが肝である。
この「E-A-T」とは何かといえば、それぞれ「Expertise(専門性)」、「Authoritativeness(権威性)」、「Trustworthiness(信頼性)」の頭文字をとった造語であり、Googleがこれらを重視したことでNAVERまとめを代表とするユーザー参加型サービスやキュレーションサイトは大打撃を受けたと推察される。
なぜかといえば、これらのサイトはGoogleの求める評価基準とズレる場合がほとんどだからだ。先ほども触れたようにNAVERまとめはあらゆるジャンルのまとめ記事を「網羅的」にまとめるもので、専門分野に特化したサイトではない。権威性と信頼性という部分でも、誰でも記事を作れるという性質上、専門家が作る記事にはどうしても劣る。
結果としてGoogleはキュレーションサイトや個人のブログではなく、より上記の三点を満たす可能性が高い大手企業や官公庁の公式サイトや古くからお馴染みの権威あるメディアを上位に表示するよう調整を続けていると評価できる。
この傾向は2020年に入ってむしろ加速しており、公式のリリースに書かれた「サービス環境・市場環境の変化」に該当すると推測できるのだ。
◆まとめ作成者のモラルや使い勝手の悪さも仇に
ただ、筆者としてはコアアルゴリズムアップデートの影響が大きいのは間違いないと思いつつ、他の諸要因もサービス終了には影響をもたらしたのではないかと考えている。
まず、NAVERまとめは誰でも気軽にまとめ記事を作れるという性質上、著作権の侵害やデマの拡散・差別の助長などが問題視されてきた。もちろんそれらを禁止するガイドラインは存在するものの、記事作成者がそれを遵守していたとは言い難い。
一例を挙げると、2016年に写真家の有賀正博氏が「自身の写真が無断で転載されている」と運営側に抗議。しかしながら運営側が十分な対応を取らなかったとして、ネット署名サイトを通じて同サービスへの広告出稿停止を呼びかける出来事があった。同様の著作権侵害報告は次々と上がり、運営側もその対応を余儀なくされている。
加えて、話題の時事ネタが出ては記事作成者が成果報酬を目当てにフェイクニュースや過激なデマを投稿することも珍しくなく、社会からの信頼を徐々に失っていった。
もちろん、ユーザー参加型サービスである以上、どうしても運営側の目が行き届かないケースというのはある(以前、筆者が「クラウドソーシングサービス」に関する記事を書いた際にも、同様の指摘をしている。)
ところが、NAVERまとめの場合は運営側が火に油を注ぐような対応をしたことに加え、今もってなお著作権を侵害しているとしか思えない記事が放置されている。こうした「負の遺産」をサービス終了という強硬手段で一掃するという意味合いもあるのではないか。
また、上記の問題点を除いても、サービスとしての「使い勝手の悪さ」は以前から指摘されてきた。従来、NAVERまとめの記事はどんな分野でも上位に表示されていたといっても過言ではなかったが、ハッキリ言って内容が薄いケースは多かった。作成者が収益目当てに乱立させたとしか思えない雑なページも少なくなく、ユーザーの中からは「上位に出てくるけど役立つ情報が少ない」「検索の邪魔に感じる」という声も上がった。
さらに、NAVERまとめは一つの記事を何ページにもわたって分割表示していたので、情報を得るために何度もページ移動を強いられた。理論上はユーザーにページを巡回させればさせるほどPV・広告収入も向上する傾向にあり、その効果を見込んでいたのだろうが、使い勝手が良かったとは言い難い。
以上のように、かねてからNAVERまとめというサービスは山積する課題を抱えていたといってもよい。そのため、筆者としては馴染みのサービスが終了することに一抹の寂しさを感じつつも、その決断自体には何の驚きもなかった。
◆今後「ユーザー参加型WEBサービス」は淘汰されていく?
ここまで見てきた課題は、なにもNAVERまとめに限った話ではない。実際、私たちにとって馴染み深い「ユーザー参加型WEBサービス」の多くに該当するもので、個人的に今後同様のサービスは淘汰されていくのではないかと推測している。なぜなら、何度も述べているようにそれらのサービスは「Googleの求めるコンテンツ像」に合致しないと考えられるからだ。
あえて実名を挙げれば、私たちが抱く疑問に一般の誰かが答えてくれるサービス「Yahoo!知恵袋」や、同じく一般の誰かが作った料理のレシピを共有するサービス「クックパッド」なども似たような課題を抱えているのではないか。
前者はデマや風評被害を助長しかねず、Googleのコアアルゴリズムアップデートでも評価を下げる可能性が高い。後者もアップデートによって、食品メーカーの運営するWEBサイトや馴染み深いレシピ雑誌のWEB版など、「E-A-T」を満たしたサイトに上位を奪われることになるかもしれない。
つまり、その仕組み上どうしてもGoogleの求める「良質なコンテンツ」を提供できない従来のユーザー参加型WEBサービスは、まさしく存亡の岐路に立たされているといってもよい。
良くも悪くもGoogleは強引に物事を進めていくので、恐らく一つ二つの大きなサービスが立ち行かなくなっても構わずアップデート方針を貫くだろう。そうなれば、NAVERまとめのようにサービスを終了させるか、Googleが求める基準をクリアできるようなサービスに作り替えていくか、その判断を迫られる。
したがって、私たちを取り巻くWEBサービスの環境は、世代交代の荒波にさらされているといっても過言ではない。個人的には、Googleの求める「良質なコンテンツ」がWEB業界をある程度浄化する一方、「オフィシャルではない情報が欲しい」という場面でなかなか理想の情報に出会えないケースは出てくるように思う。例えばある商品のレビューを知りたいと考えたとき、公式のサイトだと「悪評」に出会えないケースが想定されるように。
ただ、結局はどれだけ考えてもGoogleの意向ひとつで環境が激変するため、私たちはただ彼らの「裁定」を待つことしかできないのだ。
2020-07-13 01:09:04