「日本発の革新的な技術、製品を創出し、日本発の付加価値の高い技術を強化し、オープンな連携をもとにグローバルに展開していきたい。新メイド・イン・ジャパンといえる取り組みになる」
NTTがNECに約645憶円を出資、IOWN構想の実現へ
NTTとNECが資本業務提携を発表した。NTTは、NECに約645億円を出資し、4.8%の株式を取得。今後の普及が期待される5Gや、その先の6Gに関する研究開発や製品化において協業する。この分野で日本の存在感を高めることができるかが期待される。
発表された提携内容は、NTTが打ち出した「IOWN構想」(アイオン=Innovative Optical & Wireless Network)の実現に向けた革新的な光技術および無線技術を活用したICT製品の共同研究開発とグローバル展開。NTTドコモなどが提唱する「O-RAN」(Open Radio Access Network)をはじめとするオープンアーキテクチャーの普及促進と、「IOWN構想の実現」に向けた共同研究開発体制を早期に立ち上げ、共同開発した技術を適用した製品の売上拡大を目指すことになる。
これにより両社では、O-RAN Alliance仕様に準拠した国際競争力を持った基地局を共同開発。光/無線技術を活用したデバイスを基地局装置に適用し、超高速処理、超低遅延、超低消費電力を実現するほか、世界界最高レベルの性能と低消費電力化を兼ね備えた小型光集積回路(DSP)を開発し、それを組み込んだ情報通信機器を、今後2~3年で製品化し、グローバルに販売する計画だ。
また、IOWN構想の実現に向けて、革新的な光/無線デバイスの共同開発に加えて、海底ケーブルシステムの大容量、高機能、低コスト化への取り組み、宇宙通信の大容量、低遅延、自動/自律化、インフラネットワークのセキュリティ確保に向けた技術の高度化などにも取り組む。
NECの新野隆社長は、「NECは、O-RAN の分野において、2030年までに世界シェア20%の獲得を目指す」と発言。NTTの澤田純社長は、「新開発のDSPは、世界初の光電融合型のものになる。世界最先端のものになり、競争優位性を保てる」と自信をみせる。
インフラの限界を超えた高速大容量通信と膨大な計算リソース
IOWNは、情報処理基盤のポテンシャルの大幅な向上を目指す「オールフォトニクス・ネットワーク」、サービスやアプリケーションの新しい世界を目指す「デジタルツインコンピューティング」、すべてのICTリソースの最適な調和を目指す「コグニティブ・ファウンデーション」という3つの主要技術分野で構成。これらの光を中心とした技術を活用し、これまでのインフラの限界を超えた高速大容量通信と、膨大な計算リソースなどを提供可能にするネットワーク/情報処理基盤構想だ。2024年の仕様確定、2030年の実現を目指して、研究開発を進めている。
また、O-RAN Allianceは、5G時代における無線アクセスネットワークのオープン化と、インテリジェント化の推進を目的にして、2018年2月に、NTTドコモと、AT&Tやチャイナモバイル、ドイツテレコム、オレンジといった海外の主要オペレータによって設立されたものだ。現在、日本ではKDDIやソフトバンクなども参加。O-RAN Alliance仕様の普及促進が進められているところだ。
日本の通信事業は世界に通用するか
今回の提携は、日本の通信事業が、5Gや6Gといった世界において、存在感を発揮するための取り組みだといえる。
NECの新野社長は、「NECが、4Gでグローバルに進出できなかったのは、GSMという標準化の壁があった。だが、5Gはオープン化によって、NECにも大きなチャンスが生まれる。むしろ、NECが世界に出ていける最後のチャンスだと考えている」とする。
移動通信ネットワークインフラ市場においては、中国のファーウェイ、スウェーデンのエリクソン、フィンランドのノキアが3強となっており、世界の通信ネットワーク市場における日本企業の存在感は極めて薄い。
その一方で、米国がファーウェイを排除する動きを見せ、これが主要国にも広がり、日本でも同様の動きが加速している。
NTTとNECの提携は、5Gという新たな技術への転換、日本が持つ技術の優位性を生かせる土壌、そして米中対立構造というなかで生まれたものだといえるだろう。
NTTの澤田社長は、会見のなかで、「経済安全保障にも合致したもといえる」と発言。NECの新野社長は、「NECは、世界的に高度な通信技術やAI、セキュリティなどのデジタル技術のほか、オペレータに求められる品質と信頼性を確保した通信インフラを構築してきた豊富な実績がある。これらを生かしたい」とする。
そして、今回の取り組みは、通信業界の構造変化を捉えた動きともいえる。
通信業界においては、通信事業者が特定メーカーの専用機器を採用する垂直統合モデルが主流であり、その結果、コストが高く、イノベーションが進みにくい構造が生まれている。
NTTの澤田社長は、「現時点では、5Gも垂直統合となっているが、今後、5Gが全世界に入ることを考えるとかなりの市場規模になる。そこにはオープンアーテキクチャーが重要であり、我々が目指すものは十分に競争力がある。NECはそこにチャレンジしていく気持ちが強く、我々のO-RANに乗って、ゲームを変えようと考えている。NECとの協業に至った理由はそこにある」とし、「NTTは、通信事業者主導のフレキシブルな関係を構築したいと考えている」と語る。
一方、NECの新野社長は、「今回の資本業務提携は、NECが世界に出ていく上で、強いパートナーを得たといえる。オープン化をきっかけに、NECの強い技術力を生かしたい」と語り、「開発するものはオープンアーキテクチャーに基づいたものであり、オペレータが提供する様々なサービスに貢献できる。オペレータやメーカーなど多様なパートナーとの共創により、新たなビジネスモデルを創出し、事業を成長させたい。日本をはじめ、世界各国における透明性、安全性の高い通信インフラの確保に対する期待に応えたい」と述べた。
メーカーとオペレーターが組む、世界でもまれな取り組み
NTTは、世界有数の研究開発部門を持ち、先進的技術の導入を積極的に推進する世界屈指のオペレータだ。フォトニクス技術やDSPでは業界トップクラスの開発力を持つ。また、NECは、世界的に高度な通信技術やAI、セキュリティなどのデジタル技術を持ち、2011年には、オープン化のベースとなるネットワーク仮想化技術を、世界で初めて商用化。また、日本をはじめとする世界160カ国以上の通信インフラの高度化に貢献してきた経緯がある。
NTTの澤田社長は、「オープン環境において、オペレータとメーカーが組む、世界にはないモデルであり、両社の技術力を結集し、世界で通用する日本発の付加価値の高い技術、製品を開発していく」とし、「これは、新メイド・イン・ジャパンといえる取り組みになる。今後は、6Gに向けても重きを置いていく。オープンアーキテクチャーとオープンアライアンスによるオープン化を牽引し、日本の産業力強化につなげたい」と意気込む。
NECの新野社長も、「日本の代表的通信関連企業である2社が、オペレータとメーカーという垣根を超えて、対等なパートナーとして提携することで、オープン化を牽引し、通信の産業構造の革新を起こし、両社の総力を結集。革新的な技術、製品を創出し、グローバルに展開する」とコメントする。
両社による新たな挑戦は、6G時代までを視野に入れた長期戦になる。
新メイド・イン・ジャパンと呼ぶ、オペレータとメーカーのオープンな連携によって生み出す日本発の付加価値技術や製品が、新たな通信時代において、世界で存在感を発揮できるかに注目が集まる。