夏の行楽シーズンを前に、人の動きは急速に戻り始め、新型コロナウイルスの新規感染者は不気味なレベルを上下している。感染リスクを避けながら、安全に行動する目安はないか。注目されるのが、ビッグデータを活用した「感染予報マップ」だ。慶應大学医学部の宮田裕章教授らが、神奈川県の住民健康データをもとに準備を進めていた「コロナ警戒マップ(仮称)」がそれで、8日(2020年7月)に発表された。地域ごとに感染リスクを予想できる、いわばコロナの「天気予報」だ。
宮田教授によると、「LINEで集めた数百万人分の健康データで、一歩先が見えるようにする」のだという。データは、「体調は?」「予防行動は?」「個人情報(仕事、居住地、年齢、性別、持病など)」など11項目からなり、これらを解析することで、地域別に感染の疑いを数字で示すことができる。これを神奈川県の地図に示したものが、住民にネットで送られる。地域別に、感染率の高い低いが円の大小で示され、前週より悪化したか改善したかで、赤から青の色がつく。住民はそれに応じた行動をとるという仕組みだ。
地域は居住地がもとなので、繁華街や行楽地という条件は加味されない。感染リスクと傾向が目で見えるから、風評被害のようなことにもなりかねないが、宮田教授は「正しい情報を正しく理解してもらうよう、わかりやすく伝えることが行政に求められている」という。これは今、国のレベルでも理解され始めている。
ホテルプロデューサーで、湯河原でホテル経営をしている龍崎翔子さんは、「すべての人が正しく理解しているわけではないので、不安に感じる事業者もいるのでは?」と聞いた。宮田教授は「湯河原だと、エリアの店舗の8割が導入しています。正しく恐れ、正しく対策するなかで、宿泊、飲食もレジャーもしてもらうことになります」と説明した。
静岡・浜松は3密避ける「混雑データマップ」リアルタイムでわかるお店の込み具合
静岡県浜松市では、市民が作ったアプリが行政と一緒になって動き出していた。商店や飲食店の混雑度をリアルタイムで流す「混雑データマップ」だ。スマホの地図上で店を検索すると、色で「空き」「やや混み」「混み」がひと目でわかる。入力しているのは店自身だ。「ボタン押すだけだから、助かる。客も安心だし」とすし店主。客も「いまは混んでるようだから、映画見てからにしようか」というわけだ。
開発をリードしたのは、エンジニアの中村司さん。家族が通う店がコロナ禍で苦しんでいるのを助けようと、仲間のエンジニアにも呼びかけ、細かい技術を助けてもらった。浜松市職員も店を1軒1軒回って、参加を呼びかけている。担当の村越功司さんは「行政の役割は舞台を用意すること、一緒に行動すること。新しい公共のあり方かな」と話す。市はさらに、オープンデータで、医療機関地図などを公開。コロナ対策がひと目でわかるサイトを4日で作った。
このような流れを「シビテック」というのだそうだ。新型コロナ対策で世界中に広がっている。例のマスク不足の時、台湾で大成功を収めた「マスクの在庫管理アプリ」が典型。あれは市民が開発したものだった。
宮田教授「ビッグデータを国が活用するのが大きな公共。市民がやるのは小さな公共ですが、コロナでも個別の対策の段階になると、組み合わせも必要になります。何が必要かは、人によって違うから」
※NHKクローズアップ現代+(2020年7月8日「外出しても大丈夫?"感染予報マップ"」)