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Apple Silicon Mac、超高性能化のカギは日本発の「富岳」にあり!?

AppleがWWDC 20で発表したMacの「Apple Silicon」への移行についてのレポート、前編「Apple Siliconへの移行を決断したApple、その背景は」、中編「ARMを搭載するApple Silicon Macについて分かってきたこと」に続き、今回は後編をお届けする。

【WWDC 20】ARMを搭載するApple Silicon Macについて分かってきたこと

Apple Silicon Macの初号機は相当ハイパフォーマンスになる

現在、開発者が入手できるApple Silicon搭載Mac「Developer Transition Kit」(DTK)のパフォーマンスは、Rosetta 2によるコード変換を行いながらも、第8世代クアッドコアIntel Core i7を搭載する2018年モデルのMacBook Pro 13インチと同等であるとの結果が出ている。

DTKと同じA12Zチップを搭載するiPad Proは、最新の第10世代クアッドコアIntel Core i7を搭載するMacBook Pro 13インチと同等のスコアを叩き出すことから、macOS Big SurとApple SiliconにもネイティブとなっているUniversal 2アプリは、そのまま13インチMacBook Proを置き換えられるだけのパフォーマンスが得られるかもしれない。

もちろん、今年の9月にはiPhone向けに5nmプロセスへと進化するA14チップが登場し、iPadやMac向けには高速化した派生チップが活用されるとみられる。パフォーマンスがさらに向上した状態で、Apple Silicon Mac初号機が登場することになるだろう。
パフォーマンス以上に優れている点とは

Appleは繰り返し、iPhone/iPadとMacの間でAPIなどの共通化を推し進めている。昨年のWWDCではProject Catalystを発表し、iPadとMacのアプリ一体開発を社内、そして開発者に対して実現してきた。

新しいmacOS Big Surに搭載されるリデザインされたアプリの多くは、iPadアプリとともにビルドされている。iPadOS 14では、Macではおなじみのサイドバーによるナビゲーションを推すなど、デザイン面での共通化も行われている。

その点で、すでにAppleは開発者の利便性の追求を通じて、綿密で十分なアーキテクチャ移行の準備を進めていたことになる。

ただ、Apple Siliconへの乗り換えは、Intelチップよりもアーキテクチャとしてメリットがあるから行われる、と考えるのが自然だ。Apple Siliconの優位性は、何よりも省電力性にある。前述のように、MacBook Pro 13インチに搭載されるチップと同等のピーク性能をたたき出し、かつ常に電源がONになっていて絶え間なく通信しているスマートフォンを、Intelチップでは実現できていないことが、すべてを物語っているといえる。

Apple Siliconのポイントは、待機電力がきわめて低い点だ。ピーク性能を出そうとすれば、DTKでも30W程度の電力を使っており、TDP 28WのIntelチップと変わらないかもしれない。しかし、コンピュータは常にピーク性能を発揮しているわけではなく、複数のコアが待機している状態のほうが長い。トータルで考えると、消費電力の点でApple Siliconは大きな優位性を持っていると指摘できる。

モバイルノート型マシンであれば、これまでよりもバッテリーを小さくでき、結果として重量は大幅に軽くなる。もっとも、ノートの場合はディスプレイの消費電力のほうがバッテリーの持続時間を左右するため、こちらのテクノロジーの刷新が重要にはなると思われるが…。
Apple Silicon搭載Macのラインナップと、まだ不透明な点

Appleは基調講演で「デスクトップ並みの性能をノート並みの消費電力で」と指摘した。どのあたりのモデルへの搭載をイメージしているのだろうか。

もっともしっくりくるのがMacBook Airだ。ピーク性能は低く、多くの作業はピーク性能に達しないレベルで実現できると考えられるため、Apple Siliconの省電力性と、デスクトップ内のピーク性能の両立は非常にしっくりくる。同様の理由で、13インチMacBook Proまではカバーしやすいのではないだろうか。

しかし、16インチMacBook Proは、より長時間のピーク性能が求められるプロ用途が想定されるため、現状のIntelチップを置き換えるほどの効果を期待しにくいのではないか、と考えている。

同じような理由で、デスクトップ型についても、iMacの小型モデルや廉価モデルについては、Apple Siliconによってまったく新しいスリムなデザインを実現でき、消費電力の低さを製品に魅力向上につなげられるはずだ。

しかし、性能を重視したiMac Proの置き換えとなると、前述の理由から真っ先に取り組むべきであるとは考えにくい。特にプロ向け製品の場合、Thunderbolt 3を通じて外部GPUによる拡張を行うパターンも考えられる。こうした用途を実装するには、Apple Silicon自体の拡張が必要となるはずで、モバイルノート型やライトなデスクトップパソコンのようにすんなりと移行できないのではないだろうか。
日本から出たApple Siliconの光明

性能面、拡張面など、現在のMacの用途のすべてをいきなりカバーできるかどうか、個人的には不透明感を抱いている。そこにはプロセッサの製造や実装、またApple Silicon時代を象徴するMacデザインの体現など、いくつものチャレンジが存在している。

Appleは、ARMベースのチップをすでにモバイルデバイスに採用しており、その消費電力の低さが売りとなった一方で、高性能化についてはまだまだ分からないことが多い。簡単にいえば、現在のIntelベースのMac Proの性能を上回るApple SiliconのMac Proを、どのように登場させるのか?という話だ。

そこで1つの例となるのが、日本の理化学研究所が開発したスーパーコンピュータで、世界トップの処理性能が認定された「富岳」だ。実は富岳には、富士通が開発した52コアのA64FXが15万8976ノード搭載されている。このプロセッサこそArm v8.2-A SVE、つまりARMアーキテクチャのチップが大量に搭載されているのだ。

もし、AppleがApple SiliconでMac Proを実現するなら、AシリーズチップをMac Proのきょう体に大量に搭載すればよいのかもしれない。

単純に考えて、現在のiPad Proに搭載されているA12Z Bionicチップを10個備えれば、CPU・GPU向けに300W程度の電力でプロセッサ60コア、グラフィックス80コアのシステムができあがるかもしれない。

ちなみに、2019年モデルのMac Proで採用しているIntel Xeon Wプロセッサ2.5GHz(28コア)、2つのAMD Radeon Pro Vega II DUOのマシン構成では、待機電力が302W、ピーク時電力が902Wであることを考えると、電源と排熱を考えても、まだたくさんのApple Siliconを内蔵できる可能性もある。

もちろん、OSがきちんとこれらのプロセッサを使いこなすだけの機能を持っている必要があるし、アプリケーションの対応も必要になる。だが、Apple Siliconを用いた高性能マシンの実現は、チップ自体の高性能化を待たなくてもよいのではないか、とも考えている。



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