これでグルグル回して核爆弾の中身の変化を調べたりはしてるけど…Los Alamos National Lab
なんせ8インチフロッピー時代の遺物です。
腐ってないとどう言い切れる? 誤爆で世界終わるんじゃないの?…という素朴な疑問の答えを求めて米ロスアラモス研究所に行ってきました。
ロスアラモス研究所って?
ロスアラモス国立研究所は、日本の原爆開発のマンハッタン計画で生まれた研究所。現在は核兵器の開発と実験、核備蓄の年次報告書作成、核拡散防止などを行なっています(日米交流もあります)。
核爆発のない核実験
核実験はネバダやニューメキシコの荒野で行なって、スパコンなどで爆弾と爆発のデータを取得しているのですが、1992年の核実験モラトリアム以降、核兵器自体の爆発実験は一度も行なっていません。
エネルギー省米国家原子力安全保障局が核爆発抜きで核抑止力の有効性を実証する「核兵器備蓄性能維持計画(SSP:ストックパイル・スチュワードシップ・プログラム) 」を打ち出し、「まだ使える」という想定のもと理論とシミュレーション、 実験をベースに備蓄弾頭を検証し、年次報告書を議会に提出しています。
爆発抜きで有効性を実証するのはなかなか限界がある気もしますが、SSPを立ち上げたVictor "Vic" Reis同省防衛プログラム元エネルギー担当次官補は取材で「SSPは歴々の政権に支持されており、核実験の再開が必要だとは国防総省も言っていない。備蓄弾頭の性能は充分把握しており安全性と信頼性は盤石だ」と語ってくれました。スパコンの処理性能が高まって、量子コンピューティングなどの新処理技術に投資が進めばシミュレーションで充分カバーできるようになる日も夢じゃないみたいですよ?
核実験禁止はいつから?
核軍備は核実験と切っても切り離せない関係ですが、健康被害と環境破壊が問題になって1950年代に禁止条約の交渉がスタート。米ソ核戦争一触即発の1962年キューバ危機への反省から翌1963年には核兵器部分的核実験禁止条約(PTBT)が米ソ英の3国で締結されます。これで宇宙・大気圏・水中は核実験禁止になりました。
それでも実験の舞台を地下に移して軍拡レースが続いたため、実験使用兵器の威力を制限する条約が結ばれ、批准国の遵守確認制度が導入になりましたが、本当にレースが下火になったのは冷戦終結後です。これで全面撤廃に向けた包括的核実験禁止条約(CTBT)の交渉が本格化して今にいたります(こちらは米、中、エジプト、インド、イラン、イスラエル、北朝鮮、パキスタンなどがまだ批准していないので未発効。米国は自粛中という位置づけ)。
スパコンで模擬実験
米国では1993年にクリントン大統領がラジオ演説で核実験モラトリアムを継承しましたが、核兵器の信頼性、安全性、有効性を実験抜きにどう確保するのかの具体案は示されませんでした。それを任されたのが事務方のVic元次官補たちです。
喫緊の課題は「核兵器が使用に耐えうるものか、それとも実験回帰が必要かを判断し、大統領に進言できるレベルに研究所の水準を保つ方策を打ち出し、老朽化のプロセスと影響を知り、適宜修正できる能力があることを示すこと」(元次官補)。さっそく上級研究員・軍部と共同で「科学ベースの備蓄性能維持計画(SBSS:Science Based Stockpile Stewardship) 」を策定しました。
核関連の大型実験はすでにロスアラモス研究所、ローレンス・リバモア研究所、 サンディア研究所の3国立研究所で行なわれていましたが、必要なシミュレーションを全部こなすだけの処理性能がありません。そちらは元次官補がDARPA所長だったよしみでDARPA課長を口説いて「高速戦略コンピューティング促進イニシアチブ(ASCI:Accelerated Strategic Computing Initiative、現ASC)」のリーダーに引き抜いて大刷新しました。こうして理論とシミュレーション、実験を3本柱に、上記3つの国立研究所とネバダ国家安全保障施設(ネバダ核実験場)で検証作業を行なう備蓄性能維持計画の体制が整ったというわけです。
備蓄性能維持計画の主目的
計画の主目的は、ピット(核弾頭の中核部分)内の放射性物質が劣化したり変容したりしても、核兵器が100%信頼できることを年次報告書にまとめて国会に示すことです。
とはいえ、ピットは核装備のほんの一部に過ぎなくて、核軍備は何百何千という要素で成り立っています。たとえば連鎖反応を引き起こす部分は通常の爆弾を使うし、ヘンな衝撃がかかって誤爆したりしないように固定する装備も要るし、外界の刺激を遮断する格納容器も確保しなければなりません。爆撃機からの投下、大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル (SLBM)といった核兵器運搬技術、他国の妨害(核兵器による迎撃など)をかわす性能も必要です。
ロスアラモスで見たもの1:核弾頭が爆発の衝撃に耐えるか試すデカい鉄管
計画に興味を持ってロスアラモス研究所を訪ねたのは2019年6月のことです(1年近くも原稿を寝かせてしまった)。アルバカーキ市街の北東約95kmにある研究所では、攻撃目標に向かうときの状況をつぶさに再現するさまざまな実験が行われていました。
ロスアラモス研究所の衝撃管。ダミーの核弾頭に衝撃を浴びせる用Los Alamos National Lab
まず守衛の詰め所の向こうの荒地にあったのが、この巨大な鉄管です。
高さと幅は中型トラックくらいの長いもので、片端にダミーの弾頭ピット、もう一方の端にはC4爆薬45kg分を置けるようになっています(C4は世界中で使われている通常兵器。日本でも陸自隊員24名が演習で舐めさせられて病院に運ばれたりしている)。で、爆薬をドッカ~ンといわせて、弾頭にモロに当たるように管で衝撃を誘導しながら高速カメラで反応を撮影する、ということをやっているのですね。
ロスアラモスで見たもの2:核弾頭を死ぬほどブン回して12Gの負荷に耐えるか調べる機械
ほかにも、コンクリートの低い建物には青と白の遠心分離機みたいな回転体もありました。これは実験用の弾頭を毎分200回転させて大気圏再突入時の重力(12G)に耐えられるかどうかをテストする設備。
10トンもある重いものなんですが、摩擦が少ないせいかグイッと手で押したら動きました。毎秒60回転のところを見学したんですが、見てるだけで頭の芯がぼ~っとしてきます。実験用核弾頭を設置してフルスピードで回すシーンは動画で見せてもらいましたが、ものすごい回りようでビビりました。まあ、操作するのは遠隔か地下発射壕からだそうですけどね…。
ロスアラモスでは広大な敷地のあちこちでC4やさまざまな物質のドカーン、ボカーンという爆発音が毎日のように聞かれ、近隣に轟き渡ることもあるそうです。