自宅の無線LAN環境がいまいちよくないと感じる人におすすめしたいのが、「メッシュルーター」だ。今回はベルキンのネットワーク機器ブランド「Linksys」から3月に発売されたメッシュルーター「MX5300」の実機インプレッションをお届けする。
ベルキン、米リンクシスのWi-Fi 6対応メッシュルーターを発表 - 3月6日までに予約すると15%引き
○本体はかなり大型化
メッシュルーターとは、通常のWi-Fiルーターと異なり、複数のルーター(ノードと呼ぶ)を組み合わせ、広大なWi-Fiエリア(メッシュネットワーク)を構築できる製品のことを指し、代表的な製品としては、Googleの「Nest WiFi」などが挙げられる。一般的にエリア拡張に利用するWi-Fi中継機(子機)と異なり、メッシュルーターの場合はノード同士が網の目(メッシュ)のように相互に接続し、いちいちアクセス先を切り替えず、どこでもベストな電波状況や速度のルートで通信できる。このように複数台セットで運用するため、2〜3台が1パックとなって販売されているのも特徴だ。
Linksysからはメッシュルーターとして一昨年、「Velop」が発売されている(過去記事リンク)。デザインの良さやネットワーク構築の容易さなどから高い評価を受けている製品だ。今回紹介する「MX5300」は、このVelopシリーズの上位ライン「Velop AX」シリーズに位置付けられる。複数ノードのセットではなく、単独での販売となる。
VelopがWi-Fi 5(IEEE802.11ac)対応であるのに対し、MX5300は最新のWi-Fi 6(IEEE802.11ax)規格に対応した。従来のVelopと比較すると、最高通信速度(規格値)は5GHz帯で733Mbpsから2,402Mbpsと約3倍、2.4GHz帯では300Mbpsから1,147Mbpsと約3.8倍に達する。ネットワーク処理を受け持つCPUも強化されているほか、有線LANポート(ギガビットイーサ)が1ポートから4ポートに増設されたのは、有線接続を重視するゲーマーなどにも嬉しい点だ。またUSB端子が追加され、ハードディスクなどを増設し、ファイル共有用に簡易NAS機能(SMB共有)も備えている。これに合わせて、インターフェース類も底面から背面に移動した。
一方、本体のサイズはかなり大きくなった。幅と奥行きはオリジナルVelopの約1.5倍、高さも約1.3倍あり、かなり迫力がある。オリジナルのVelopが高さ185.4mmなので、概ね単行本より少し高いくらいなのだが、MX5300は高さ244mmと、ほぼB4判に匹敵する高さがある。このため、例えばルーターを本棚に置く場合、MX5300はスペースが限られるので注意したい。とはいえ、最近のルーターはこれ見よがしに大きなアンテナを何本も立て、底面積が大きな製品も多い。内蔵アンテナの強化やポートの増設、高速化による発熱対策などを考慮すれば、かなりコンパクトに収めたとも言えるだろう。
なお、電源アダプターも直接コンセントに挿すタイプから、着脱式のケーブルを経由して接続するタイプに変更された。以前のアダプターは電源タップなどに差すときに邪魔になってしまうことがあったため、個人的には改善点として評価したい。
設定はVelopシリーズと同様、スマートフォン用の「Linksys」アプリを使って設定する。アプリの指示に従っていれば誰でも簡単にセッティングできる優れものだ。特定の端末を優先して帯域を割り当てたり、アクセスを制限するといった機能も充実しているほか、ウェブアクセスを制限するペアレンタルコントロール機能もアプリから設定できる。
セッティングしていて気づいたのだが、MX5300はVelopと比べ、各種設定等の処理が非常に高速化している。Velopではしばらく待たされていた処理でも、あっという間に終わってしまう。CPUの処理能力がほぼ2倍になり、メモリも増強されているための結果と思われるが、ここまで速いルーターはなかなか触った記憶がなかったので、大変快適だ。
一方、従来のVelopではサブスクリプション制のセキュリティ機能「Linksys Shield」や、Wi-Fiの電波を使って部屋に人がいるかどうかを確認できる「Linksys Aware」といった付加サービスが利用できたのだが、現時点でMX5300は対応していない。これらの機能については、将来対応予定とのことなので、早期対応を期待したい。
MX5300は、対応する通信規格が上がったものの、Velopシリーズということで、既存のVelopネットワークにも容易に組み込めた。メッシュネットワーク上にVelopとMX5300が混在する場合、無線規格としてはWi-Fi 5と6が混在することになるわけだが、外見上どちらでつながっているかを見分けることはできない。この辺りは接続するデバイスのOSなどの仕様にもよるため仕方のないところだが、常に最良の基地局に接続するメッシュルーターの仕様を信じるなら、自分が高速な接続を必要とするエリアにMX5300を配置するのがベストということになるだろう。
さて、本来であればここでWi-Fi 6で高速化した実力をご紹介したいところなのだが、残念ながら筆者の自宅回線はマンション内に引かれたVDSLネットワークで、インターネットを使った速度計測では60〜70Mbps程度が上限だ。しかも緊急事態宣言下で構内に在宅テレワーク実施者が多かったせいか、試用期間中は全体にネットワークのパフォーマンスが低く、Wi-Fi 6の高速性を体感できる状況ではなかった。パフォーマンスについては機会を改めてしっかり計測することにしたい。
MX5300の弱点をひとつ挙げるとすれば、実売価格が約5万円前後と、競合するWi-Fi 6対応のハイエンド製品に比べて2~3割高いことだろう。それでもデザインやセッティングの容易さなども含めての、トータルとしての実力は間違いないので、メッシュネットワークを構築したいと考えている方で、コスト面で折り合いがつくのであれば、ぜひオススメしたい。