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新型コロナウイルスが、ペットの猫から家族に感染する可能性は?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の報道が日夜くり返されるなかで、人獣共通感染症にまつわる気になる研究成果が報道された。東京大学らの研究チームが、人由来の新型コロナウイルスを猫に感染させるとウイルスは呼吸器で増殖、接触した他の猫に感染したと考えられる実験データを示したのだ。

米国では、家猫をはじめ、動物園で飼育されているネコ科の動物の感染例もすでに報告されているという。

2017年の調査(一般社団法人 ペットフード協会による)では、猫の推計飼育頭数が、調査開始以来はじめて犬を上回った。それだけに、猫と人との共通感染症にCOVID-19が加わる可能性が高いことは残念に思われる。ペットの猫との関連に、不安を抱いた方も多いのではないかと思う。ただし、これらの情報は冷静に受け取る必要があることを強調しておきたい。

人から猫への感染に注意
幸いなことに、新型コロナウイルスが「猫から人へ」感染したという事例は、世界においても報告されていない。反対に、前述のような家猫の感染事例は、COVID-19に罹患した飼い主を介して、猫へ感染したとみられるもので、犬の事例もあわせ、数件が報告されている。

今回の実験結果によると、人由来の新型コロナウイルスが猫に感染した場合、他の猫への感染(伝播)は容易に起こることが示唆された。さらに猫は、明確な症状を示さない場合が多いことも報告されている。このことから猫同士では、咳やくしゃみによる飛沫感染ではなく、接触感染が起ったものと考えられる。

「人から人」への感染がこれほど拡大した一方で、「猫から人」への感染例がない点から、過剰に不安を募らせる必要はないと言えそうだ。しかし、感染経路のすべてが明らかとなっていない点は留意すべきだろう。

現在のところ、COVID-19の感染サイクルの主体はあくまで人であり、そのなかで人が猫へ感染を広げる可能性は十分あり得る。そのため、憂慮すべきはまず人を発端に猫へ、そして猫から猫への感染拡大の構図だと考えるべきだろう。

今後、こうした感染の拡大から、「猫から人」への感染が出てくる可能性も否定はできない。そのためにもまずは、猫の間に感染を広げないこと、そして、猫がCOVID-19の持続的な人への感染源にならないようにするために、人が果たす役割が重要となる。

飼い猫は外へ出さない
今回の研究結果から、猫と暮らす家庭は過度に不安を抱くのではなく、飼養の基本に立ち返り、その方法を見直す機会として捉えることをお勧めしたい。つまり、屋内飼育の徹底、動物との適度な距離感、飼い主のいない猫を増やさないことだ。

家庭内の猫に対しては、前述の通り、人が感染を持ち込まないことが重要になるだろう。感染が分かった場合は、他の家族とともに、ペットへの感染防止を念頭に入れることが示唆される。

そのうえで、猫同士の感染には、「飼い猫は外へ出さないこと」という、飼養における基本が生きてくる。

そもそも屋内飼育は、猫同士の喧嘩をきっかけに、血液や唾液などを介して感染する「猫エイズ」や「猫白血病」などといった感染症を予防するためのものでもある。これらは、猫特有の感染症であるため、ペットを守る目的が第一だが、COVID-19以前に、猫と人との人獣共通感染症があることも知られているため、衛生的かつ一定の環境下で飼養する意義は大きい。あらゆる感染症への対策として、屋内と屋外の行き来を防ぐことは有効だ。

新型コロナウイルスについては、まだはっきり分からないことも多いため、今後の研究成果を注視していきたいところだ。

また、過度なスキンシップを避けるなど、「適度な距離感」を保つことはペットとの間でも大切な感覚だが、屋外で暮らす猫に対しても重要だ。屋内外での感染拡大を防ぐ意味でも、人と猫、双方を守る手段になるだろう。飼い主のいない猫を増やさないことも、感染症の有無や経緯が分からない個体を増やさないことに直結する。

国内の歴史を振り返ってみると、ウイルスによる人獣共通感染症が社会のしくみを動かした最も大きな事例は、「狂犬病」ではないかと思う。現在も法律で予防接種が義務化され続けており、野犬は捕獲する必要がある。狂犬病の発生が見られた当時、感染様式や感染した場合の致死率の高さなどを鑑み、重点的に対策が取られたことが理解できる(日本では1958年以来、狂犬病の発生は認められていない)。

それに対して猫は、狂犬病のように、人への危険性が高い感染症の発生や流行がこれまで見当たらなかった。そのため、狂犬病に対するような対策が求められることはなく、地域猫といった存在にも寛容でいることができる。これからもそうあることを願う一方で、それが無責任な飼養を許すものであってはならない。

人獣共通感染症の感染源として、猫を悪者にしないためにも、この報告から見直すべき点は、やはり飼養の基本の「き」に立ち還るものではないだろうか。

*この研究報告に関しては、厚生労働省と日本獣医師会から見解が出されている。
*研究成果は、米国科学雑誌「New England Journal of Medicine(NEJM)」のオンライン速報版にて、5月13日に公開されている。(論文タイトル:Transmission of SARS-CoV-2 in Domestic Cats)



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