感染予防で在宅ワークのニーズが高まり、家庭内のWi-Fi(無線LAN)環境を見直したい人も増えているのではないだろうか。「どうせ買い替えるなら、新しい『Wi-Fi 6』に対応したモデル(以下、Wi-Fi 6ルーター)にすべきかどうか」と迷う人のために、新しいWi-Fi 6が従来のWi-Fiと何が異なるのか、簡潔に紹介しよう。
Wi-Fi 6ルーターはパッケージなどに「Wi-Fi 6 CERTIFIED」のロゴが示されている
Wi-Fi 6の通信速度は最大40%程度向上
Wi-Fi 6は「Wi-Fiの規格の第6世代目」を表す。要するに「Wi-Fi Version 6」の意味だ。正式な規格名を「IEEE 802.11ax」という。ちなみに、Wi-Fi 6の登場により、それまでの第4世代のIEEE 802.11nをWi-Fi 4、第5世代のIEEE 802.11acをWi-Fi 5と呼ぶようになっている。Wi-Fi 6は、これまでのWi-Fi 5に比べると、大きく次の1.通信速度、2.複数端末環境における通信の安定性、3.接続する端末の省電力性――の3点が向上している。通信速度は、諸々の要素を含めてWi-Fi 5に比べて最大40%程度向上するとされている。Wi-Fi 5では理論上の最大通信速度が6.93Gbpsとされるが、Wi-Fi 6ではそれが約1.4倍の9.6Gbpsまで伸びる。実際の製品では、Wi-Fi 5ルーターだと最大1734Mbps、Wi-Fi 6ルーターでは2.7倍の最大4804Mbpsとなる。実際の通信速度である実効スループットは通信環境によって大きく変わるが、Wi-Fi 5ルーターだとだいたい800Mbpsが上限となっていた。Wi-Fi 6ルーターでは、1Gbpsに近い実行スループットまで期待できる。
Wi-Fi 6は混雑に強い
次に複数の端末環境における通信の安定性だが、これは「混雑に強い」と言い換えられる。スマートフォン(スマホ)やPC、ゲーム機、携帯音楽プレーヤー、Webカメラ、最近はテレビやエアコン、冷蔵庫までネットにつながる時代だ。家庭内の端末が増加すれば、当然、電波が混み合ってスループットが落ちる。Wi-Fi 6では新たに「OFDMA(Orthogonal Frequency-Division Multiple Access:直交周波数分割多元接続)」と呼ばれる技術が採用され、ルーターと各端末がより効率よく帯域幅を使用できるようになる。Wi-Fi 5ルーターでも一部採用されていたMU-MIMOを利用し、8ストリームまで同時に通信することが可能だ。例えばリビングではお父さんがNetflixを観て、子ども部屋では子どもがYouTubeを楽しむといった使い方をしても、通信の混雑が原因で遅くなることはない。ネットゲームなど、通信の遅れ(レイテンシー)がシビアに影響する場面では、非常に有用なはずだ。ちなみにOFDMAの採用は、電波の到達範囲の拡大にも貢献している。
スマホやゲーム機のバッテリーを節約
接続する端末の省電力性は、「TWT(Target Wake Time:ターゲットウェイクタイム)」という技術で実現している。通信のタイミングを調整して、信号の受信のために待機する必要がないTWT対応スマートフォンやIoTクライアントなどのWi-Fi利用端末の通信機能をスリープ状態にすることで、端末のバッテリー消費を抑える仕組みだ。簡単に言えば、通信があまり必要ないときはスリープ機能で端末のバッテリーを賢くセーブしてくれる。なお、将来は、6GHz帯を利用する「Wi-Fi 6E」も計画されており、CES 2020で拡張仕様として発表された。仕様の詳細は未公開で、「拡張するよ」という予告に近い。Wi-Fi 6Eでは、従来の2.4GHz帯と5GHz帯に加え、6GHz帯が利用可能になり、より多くのチャンネルを使って、高精細な動画やVRなどの大容量コンテンツが快適に楽しめるようになるという。
ハイエンドモデルとエントリーモデルは何が違う?
Wi-Fi 6ルーターは、国内では最大手のバッファローをはじめNECプラットフォームズ、ネットギアジャパン、ASUS、エレコム、TP-Linkなどから発売されている。同じメーカーでも価格の高いハイエンドモデルと、比較的安価なエントリーモデルがラインアップしていたりする。ハイエンドとエントリーの主な違いは転送速度だ。例えば、バッファローが発売中のフラグシップモデル「WXR-5950AX12」は、理論値最大4803Mbpsだが、今年の夏に発売予定のエントリーモデル「WSR-1800AX4」は、理論値最大1201Mbpsに抑えられている。また、WXR-5950AX12はWANポートと、4つあるLANポートのうち1つ(計2つ)が10Gbps対応(10GbEポート)だが、WSR-1800AX4はいずれも1Gbps対応となっている。メーカーによっては、エントリーモデルのCPUはデュアルコアCPUとし、ハイエンドモデルにはより高性能なクアッドコアCPUを採用して処理能力に差を付けたり、独自のユーティリティなどで差別化したりすることもある。おおむね、フラグシップモデルはストリーミング動画の視聴やネットゲームを存分に楽しみたい人向けで、エントリーモデルはWi-Fi 6対応スマホを活用したい人向けといった切り分け方と思っても良いだろう。現在、Wi-Fi 6対応のスマホには、iPhone 11/11Pro/11Pro Max、Galaxy S20、Xperia 1 II、AQUOS R5G、arrows 5Gなどがある。最後になるが、Wi-Fi 6ルーターを買うべきかどうか迷っている人に覚えておいてほしいのは、Wi-Fi 6ルーターの導入に合わせて、PCやスマホなどのWi-Fi端末をすべてWi-Fi 6対応に買い替える必要はないことだ。Wi-Fi規格は下位互換性があるため、古い規格の機器を最新のルーターとつないでも、そのまま問題なく利用できる。PCもスマホも数年もすれば、Wi-Fi 6対応が当たり前になる。これらをすぐに買い替える予定がなくても、先にWi-Fi 6ルーターを買っておいて無駄になる心配はほとんどないはずだ。(ライトアンドノート・諸山泰三)
主なWi-Fi 6ルーター
■バッファロー「WXR-5950AX12」
2019年10月発売、税込4万9000円前後で登場(ヨドバシ価格、3万2410円)動画やゲームに強い10GbEポートを搭載するフラグシップモデル。NTT東西の提供する、上り下りの最大通信速度が約10Gbpsの光回線サービス「フレッツ 光クロス」にも対応5GHz:最大4803Mbps(理論値)2.4GHz:最大1147Mbps(理論値)「WSR-1800AX4」2020年夏発売予定、価格未定最大転送速度を抑えたエントリーモデル。家庭でWi-Fi 6対応スマホを活用したい人向け5GHz:最大1201Mbps(理論値)2.4GHz:最大573Mbps(理論値)バッファローからは、2020年夏にWSR-1800AX4と同時に、WXR-5950AX12との間にクラスする「WXR-5700AX7S」と「WSR-5400AX6」も発売される■NECプラットフォームズ「Aterm WX6000HP」