「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行した原因は5G技術にある」という陰謀論が広がっており、5G電波塔の放火被害が多発するなど実害も生じています。なぜこのような陰謀論が広まったのか、レベッカ・ハイルヴァイル記者がこれまでの経緯をまとめています。
新型コロナウイルスと5Gの関係についての陰謀論にはバリエーションあり、「5Gネットワークが放射線を生みしており、それがウイルスのトリガーになる」という説から、「COVID-19の流行は5G電波塔が設置された場所で起こっている」というもの、「5Gと新型コロナウイルスは地球人口を減少させるためのものである」というものまでさまざまです。
5G技術が提案されてからというものの、実際に5G電波塔が建てられる以前から「5Gが人体にとって有害である」という主張は存在しました。そして、5G登場以前にも、3GやWi-Fiといったワイヤレス技術が「脳がんを引き起こす」「マインドコントロールにつながる」「電磁波過敏症の原因となり、頭痛が起こったり、免疫系の弱体化が起こる」と主張されることがありました。
「ワイヤレス技術は人体に健康被害をもたらす」という論拠は、2000年にまで遡ります。当時、フロリダ州在住の物理学者であるビル・カレー氏は、電波の周波数の上昇とともに組織の損傷が増加するという調査結果を発表し、「ワイヤレスネットワークは深刻な健康被害をもたらす可能性が高い」と報告しました。しかし、実はカレー氏の調査結果は「人間の脳は皮膚や骨によって保護されていること」を考慮していませんでした。調査結果は間違いにも関わらず、全世界に広がり、陰謀論者らの主張の論拠となりました。
COVID-19と5Gの関係性を訴える陰謀論者は、もともと上記のようなワイヤレス技術の危険性を訴えており、自らの主張の論拠を補強するために、「5G」と「新型コロナウイルス」という新しいトピックを利用しているものと考えられています。
メディア分析会社のZignal Labsによると、COVID-19と5Gの関係についての言及は2020年1月19日の時点で既に存在し、「“Wuhan has 5,000+ #5G base stations now and 50,000 by 2021 — is it a disease or 5G?」(武漢には5000以上の5G基地局が存在し、2021年までには5万局に増える予定です。これは病気なのでしょうか、それとも5Gによって引き起こされているのでしょうか?)とTwitterに投稿が行われていたそうです。
その後22日にはベルギーのニュースサイトが「5Gは人々に有害だ」という医師のコメントを含む記事を公開。この記事は新型コロナウイルスについては言及されておらず、「現在起こっていることとの関連性」がほのめかされているのみでしたが、その後、出版元によって削除されました。削除されるまでに記事は11万5000人に読まれたとのことです。
Zignal Labsによると、COVID-19と5Gの関係はインターネット上で広まり、3月頃からは投稿が急増していきます。このキッカケは、著名人がフォロワーに対して陰謀論を語り出したことでした。アメリカの歌手であるケリー・ヒルソンは3月15日付けでTwitter上で5Gの危険性を警告。さらに4月3日にはラッパーのウィズ・カリファがInstagramに投稿を行いました。このほか、ボクサーのアミール・カーン、俳優のジョン・キューザック、音楽プロデューサーのテディー・ライリー、タレントのアマンダ・ホールデンなどが同様の投稿を行っています。実際にイギリスで5Gの電波塔が放火されるという事件が複数発生したことも相まって、この話題は多くの人の目に触れることになりました。
また、トランプ政権を礼賛する陰謀論者「Qアノン」もうわさの拡散に関与しています。Qアノンの1人は「COVID-19の症状は5Gに暴露した時の状態に類似している」「イタリアでの流行は5Gの展開とリンクしている」と主張しているとのこと。
特にインターネット上での人気が高い陰謀論は、Microsoftの創業者であるビル・ゲイツの関与を主張するもの。この説の支持者は、「ビル・ゲイツが5Gを使ってウイルスを広めた」と主張し、中には「Facebookが5GとCOVID-19の陰謀論について共有するアカウントを削除している」という点に疑念を示す人も。