いまだ収束の兆しが見えない新型コロナウィルスの感染拡大。今、世界各地のエンジニアが、感染拡大を食い止めるITソリューションの開発に乗り出している。
感染拡大を抑えるために有効とされるソリューションの1つに、スマートフォンを使ってCOVID-19感染者との濃厚接触を検出し、行動変容を促すコンタクトトレーシングシステムがある。現在は、感染が判明した患者の記憶を頼りに濃厚接触者を特定しているが、正確な行動履歴は把握しきれず、また不特定多数の接触者には連絡手段がないのが問題だった。感染者が多い地域では、患者にインタビューする保健機関のスタッフの負担も大きくなる。
この問題を解決するために、シンガポールの政府技術庁(GovTech)と保健省(MOH)はコンタクトトレーシングアプリ「TraceTogether」を3月20日にリリースした。このアプリは、スマートフォン端末間のBluetooth信号を使って、アプリがインストールされているユーザー同士の接近を各々の端末内に記録する。自身の感染が判明した際にはデータを保険機関に提出し、保険機関から濃厚接触者に連絡してもらうシステムだ。提供開始から1ヵ月で、TraceTogetherアプリのユーザー数はシンガポールの人口の20%にあたる110万人に拡大している。
シンガポールの人口の20%が利用するCOVID-19コンタクトトレーシングアプリ「TraceTogether」
シンガポールでのリリースを皮切りに、世界各地で同様のアプリを開発するためのプロジェクトが立ち上がった。4月10日には、AppleとGoogleが、世界中の政府と保健機関のCOVID-19コンタクトトレーシングを支援するための技術提携を発表(Google Japan Blog)。公衆衛生機関向けに、Bluetooth Low Energy(BLE)を用いた濃厚接触者の検出・追跡をiOS端末とAndroid端末で相互運用できるようにするAPIを5月中にリリースする予定だ。また、今後数ヵ月かけて、同機能をOSに組み込み、より広範な濃厚接触を検出するプラットフォームを実現するとしている。
日本国内でも、いくつかのCOVID-19コンタクトトレーシングアプリ開発プロジェクトが進行している。その1つ、有志エンジニアによるオープンソースプロジェクト「Covid-19 Radar Japan」のメンバーに、開発中のアプリについて話を聞いた。
OSSで開発、後に政府と連携
Q1:Covid-19 Radar Japanはどのようなプロジェクトですか?
A1: 廣瀬一海氏(個人開発者):個人情報を極力とらないCOVID-19コンタクトトレーシングアプリを開発するプロジェクトです。もともとは、私が個人で私費を投じて開発していました。3月下旬に、そのコードをオープンソースとして公開したのがプロジェクトの始まりです。今は、国内外130人ほどの有志がボランタリーで開発に参加してくれています。