MOMOロケット5号機、初の冬期打ち上げはCANバスの異常で仕切り直しに
インターステラテクノロジズ(IST)は4月20日、延期されていた観測ロケット「MOMO5号機」の打ち上げを、5月2日(土)に実施すると発表した。当初、年末年始の打ち上げを計画していたが、電子機器に不具合が発生したため、延期して原因を究明していた。対策はすでに完了しており、3号機以来となる、2度目の宇宙到達を目指す。
CANバスの異常の原因を特定
MOMOは4号機まで、春~夏の暖かい時期に打ち上げられていたが、今後の量産化を見据えると、打ち上げ回数を増やすために、通年の打ち上げを可能とすることが欠かせない。ただ、特に懸念されていたのは、冬の北海道の厳しい寒さによる影響だ。5号機の大きな目的の1つには、冬期打ち上げの技術実証があった。
しかし、打ち上げ前の準備作業中に、機体内部の通信に利用しているCANバスに不具合が発生、散発的に通信できなくなっており、対策に時間がかかることから、延期を決めた。
検証の結果、分かったのは、基板上のオシレータ(水晶発振子)に問題が発生していたことだ。基板同士がデータを送受信する際、通信速度を同期させる必要があり、その基準となるクロックを供給しているのがオシレータだ。正常な状態だと、周波数の誤差は0.00001%~0.001%と極めて小さいが、これが時々、数%にもなっていたという。
同社は液体酸素を使った充填実験などを実施して、問題となった現象の再現に成功、原因の特定に繋げた。ただ、オシレータの故障の原因については、低温そのものではなく、常温→低温→常温→低温と繰り返した温度サイクルによる部品の劣化と推測。これに基づき、すべての基板のオシレータを、温度サイクルに強い別品種に交換した。
対策後、同様の温度サイクルで試験を行い、故障しないことを確認。さらに、打ち上げ本番とまったく同じ作業を行うフルドレスリハーサルも行い、問題が起きなかったことから、再打ち上げの実施を決めた。
同社ファウンダーの堀江貴文氏は、「MOMOのようにサブオービタル専門で打ち上げ回数を確保できるロケットは世界的にも珍しい。大学・研究機関などのニーズはニッチなものの、それなりのマーケットがある」と見る。「5号機、6号機と連続成功させ、MOMOのビジネスを確立したい。今回はそのための重要な実験になる」と意気込んだ。
打ち上げは初の無観客で実施
5号機の打ち上げはこれまでと同様に、北海道・大樹町の射場で行う。打ち上げ予定日は5月2日(土)。予備日は6日(水)まで確保してあり、この期間中での打ち上げを目指す。打ち上げ可能な時間帯は朝昼夕の3回(05:15~07:50、11:00~12:20、16:05~17:50)で、天候などを見ながら順次試みる。
搭載するペイロードは従来と同じ。延期による変更は無く、高知工科大学、三菱プレシジョン、平和酒造、チル、サザコーヒー、超電磁P氏の電子工作の6つを搭載するほか、地上ミッションとして瓢月堂のたこやきプロジェクトを行う。
ただ、今回大きく変わるのは、観客の受け入れ体制だ。現在、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、緊急事態宣言が全国に拡大している。このような状況の中での打ち上げとなるため、今回は、観客の受け入れは一切行わない。有料会場「SKY-HILLS」の募集も大樹町多目的航空公園でのパブリックビューイングも無いので注意して欲しい。
もし多数の観客が押しかけるような事態になると、今後、同社の大樹町での打ち上げの継続が難しくなる恐れもある。同社の稲川貴大・代表取締役社長は、「もし見に来ても警備員に追い返されるような対応になってしまうので、絶対に来町しないようにお願いしたい」と、強く訴えた。
残念ながら今回は現地で見られないものの、当日の打ち上げの様子はYouTubeでの中継が行われる予定だ。ぜひ自宅から、ネット中継で楽しんで欲しい。
なお今回の打ち上げは5月であるため、5号機で当初行う予定だった冬期打ち上げの実証にはならない。次の6号機で実証することになるのかという点については、「今後検討していく」(稲川社長)とのことだ。