【大谷和利のテクノロジーコラム】
テレワークをラクにするSidecar機能とApple TV
新型コロナウィルスの影響で、好むと好まざるとにかかわらずテレワークする機会が増えつつある昨今。どのみち通らなくてはならない道だとすれば、効率よく仕事を進め、オンラインミーティングに参加できる環境を整えたいものだ。
そこで今回は、オンラインミーティングの初歩的な注意点に加えて、iPadに備わっていても活用率が低いと思われるのSidecar機能やApple TVの利用法について、テレワークの観点から考えてみることにした。
▷ 初めてのオンラインミーティングなら、iPhone、iPadでの参加がラク
まず、これを機にリモートワークが始まった、あるいは始めようとするIT系以外の会社や組織では、オンラインミーティングで必ずといってよいほど遭遇する問題がある。それは、初回がほぼテックサポートになってしまうということだ。
これは特に、参加者がPCやMacで参加しようとしたときに、マイクやスピーカーへのアクセス許可が行えなかったり、設定項目やインターフェース要素が多くて迷うことに起因している。筆者の身近でも、いざオンラインミーティングを始めたら、自分のノートPCにWebカメラ機能がないことに初めて気づいたという、笑えない話もあったほどだ。
この意味で、ITリテラシーがそれほど高くない人々が対象の場合、少なくともオンラインミーティングのホスト以外の参加者には、iPhone、iPad(ないしは、Androidデバイス)のモバイルアプリを使ってもらうほうが、サポートの手間が減って本題に入りやすくなる。会議をホストする側も、規模の大きなテレカンファレンスは別として、一般的なミーティングであれば、機能的にはそれらのスマートデバイスのアプリでも十分といえる。
また、Apple製品同士ならば最大32名まで接続可能なFaceTimeが、メッセージアプリのグループチャットからすぐにグループビデオチャットに切り替えられたりして便利だが、マルチプラットフォーム環境では、ZoomやSkypeなどのサードパーティサービスを使うことになろう。
その場合、ZoomやSkypeでは、FaceTimeのようなエンド・ツー・エンドの暗号化(自分と相手の端末以外では、やり取りされるデータにアクセスできず、たとえ第三者がデータを盗んでも解読されない)がなされていないといったプライバシー問題が取り沙汰されているが、政府機関などがよほど機密性の高い情報を扱うのでない限りは、極端に神経質にならなくともよい。
ちなみに、ZoomやSkypeの場合、デスクトップ環境でもモバイルアプリでも容易に画面共有(参加者のデバイスの画面上に、自分が見せたいアプリケーション画面などを表示すること)をできるが、現状のFaceTimeでは両者ほど簡単には行えない。将来的にはFaceTimeでも直感的な画面共有機能が付加される可能性もあるものの、今のところ、プレゼン画面やその他の資料を見せながらオンラインミーティングを行う場合には、ZoomやSkypeを利用することになる。
さらに、Skypeには背景をボカす機能はあっても、Zoomのように別の画像や動画で置き換えるバーチャル背景機能はない(動画が使えるかはデバイスのスペックにもよるが)。そのため、バーチャル背景を利用したければ、Zoomが唯一の選択肢である。Zoomのバーチャル背景は、以前は実際の背景が緑一色でないと使えなかったが、現在はどのような背景でも置き換え可能なので、場所を問わず使える点も大きな特長だ。
▷ iPadをサブスクリーン化する純正機能とサードパーティアプリ
次に、テレワークでは、自宅にデスクトップマシンがあれば会社などで作業する場合とほぼ同じ環境が整えられるが、個人用のマシンあるいは支給されるマシンがノートMac(あるいはノートPC)であるという場合も多い。そうすると業務内容や使用するアプリによっては画面が小さい(狭い)と感じる人も少なからずいるだろう。
最近ではコンピュータ用の4Kクラスのサブディスプレイ製品も増えてきつつあるが、もし手元にiPadもあるなら、とりあえず、それをソフトウェアベースでサブディスプレイ化するだけでも実質的なワークエリアが広がり、ストレスを減らすことができる。
また、デスクトップマシンでも、ツールパレットやメール/メッセージアプリのウィンドウなどをサブディスプレイ側に置くことで、作業効率を高められる。
これを実現するには、純正環境とサードパーティアプリを使う2つのアプローチがある。
● 表示が美しくレスポンスも良いSidecar
まず、手元のMacにmacOS Catarinaがインストールされ、iPadが次に挙げる機種(大まかにいって、Apple Pencilに対応したモデル)であれば、純正のSidecar機能を利用可能だ。
Sidecar機能をサポートするiPad
・iPad Pro (全モデル)
・iPad (第 6 世代) 以降
・iPad mini (第 5 世代)
・iPad Air (第 3 世代)
Sidecarはケーブル接続、ワイヤレス(Wi-Fi)の双方に対応しているが、Appleによれば両者の性能差はないとのことなので、ワイヤレスで使うほうが圧倒的に便利である。ただし、その場合でもiPad側も給電しながら使うことが推奨されている。
そのメリットは、純正だけあってiPad側でも表示が美しく、マウスポインタの動きはもちろん、画面表示や動画再生でも遅延が感じられない点にある(使用機器にもよるかもしれないが、筆者の環境では13インチMacBook Airの2018年モデルと初代iPad Pro 12.9インチの組み合わせでもスムーズに機能する)。
ミラーリング時にはMac側とiPad側の解像度がどちらか片方に合わせる形で等しくなるが、拡張デスクトップを選ぶとサブディスプレイ側の解像度はiPadのモデルに依存する。たとえば、12.9インチモデルの場合には、実解像度の2732 x 2048ピクセルがRetinaディスプレイとして使われるので、縦横半分ずつの1366 x 1024ピクセルとなり、もしタッチ操作用のサイドバーや仮想的なTouch Barを表示させた場合には1302 x 960ピクセル分が実質的な表示エリアとなる。
物理的なTouch Barを持たないMacBook Airでも同等の機能が使えるのは、Sidecar機能を使う上でのポイントでもある。というのは、SidecarはあくまでもmacOSの外部ディスプレイという位置づけなので、サブディスプレイ側のMacの表示部分は2フィンガースクロールを除くと指でのタッチ操作には対応せず、Mac側のポインティングデバイスかApple Pencilで操作するようになっているからだ(元々のインターフェースがタッチ用の設計ではないため、あえてそうしている)。
しかし、Touch Bar(とサイドバー)の部分は指でのタッチ操作に対応しているので、わずかではあるが、たとえばYouTubeの動画再生などをiPadライクにコントロールできるのである。
Sidecarの基本的な使い方は、Appleのサポートページ(https://support.apple.com/ja-jp/HT210380)を参照されたい。
● サードパーティ製ではYam Displayがお薦め
それ以外のMacやiPadでも、有料のサードパーティアプリを使えば、サブディスプレイ化が可能な場合がある。有名なアプリとしては、元Appleのエンジニアが開発したDuet Displayがあり、これはWIndowsマシンでも利用できる。
ただし、ケーブル接続のみである点とiPadOS側のアプリが1200円するため、Macのみの対応でよければSidecarと同様に無線接続されるYam Display(無料のMac用ホストアプリ)と480円のYam Air(iPad側アプリ)の組み合わせをお薦めしたい。
こちらは、macOS 10.10(Yosemite)以降をインストールしたMacと、iOS 8.0以降およびiPadOS対応のiPhone/iPod touch/iPadシリーズで利用可能なので、かなりのユーザーが恩恵を受けられるはずだ。
Yam DisplayとYam Airのコンビネーションは、Sidecarに比べれば遅延がありマウスポインタの動きも若干カクカクするものの、サブディスプレイ側で動画再生などを行わなければ十分実用的といえる。
また、Sidecarとは違って、iPad側ではすべての操作を指のタッチで行えるほか、ピンチアウトでサブディスプレイ側の表示全体(ウィンドウ内のコンテンツ部分のみでなく)の拡大表示が可能となっている。細々とした操作でも、直感的に表示倍率を上げて行える点は、Sidecarにない利点である(ただし、Apple Pencilなどの追従性では、やはりSidecarの後塵を拝してしまう)。
サブディスプレイ側の解像度やリフレッシュレートも変更可能なので、目的に応じて調整することができる。
Sidecarが使えるユーザーにも利用価値があると思われるので、とりあえずインストールして両者を試してみてもよいだろう。その場合、iPad側にケーブル接続版の無料バージョン(1回の接続が7分間となる制限付き)であるYam Display Freeをインストールすれば、一切お金をかけずに試用できるので、気軽に比較することが可能だ。
▷ デジタルテレビもApple TVがあればサブディスプレイとなる
実はSidecar機能も、AppleのAVシェアリング技術であるAirPlayを応用したものだが、Apple TVのハードウェアがあれば、自宅のデジタルテレビをサブディスプレイ化(拡張デスクトップ、ミラーリング共に利用可)することもできる。
その場合、最大解像度はデジタルテレビに依存するものの、数十インチサイズのスクリーンで作業を行えるようになる。
あるいは、たとえばオンラインミーティングを行う際なども大画面で表示でき、スクリーンから離れた位置で話せるため、カメラと目線のずれが目立ちにくくなり、より自然な感じで会議を行える。プレゼン資料などの画面共有の際だけ、デバイスを手元で操作すれば良いのだ。
特にオンライン飲み会など、リラックスして参加するような会では、まさにテレビ感覚で他の参加者と交流できるので、試す価値ありといえるだろう。
いつ終わるかが曖昧なテレワークではあるが、新しいテクノロジーを試し、仕事に生かすための自主トレーニングの期間として捉えて前向きに取り組むことも、この時期を乗り切るための一助になるのではと思っている。
[筆者プロフィール]
大谷 和利(おおたに かずとし) ●テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー
アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)、『インテル中興の祖 アンディ・グローブの世界』(共著、同文館出版)。
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