英国ロンドンを拠点とするMedopadは、デジタルバイオマーカー(血液サンプルや医師の診察によらず、アプリやウェアラブルを使用して病気や病気の進行状況、そして全体的な健康状態を測定可能な値のこと)に基づいて患者を遠隔モニターするための、医療従事者向けソフトウェアを開発するスタートアップである。そのMedopadに大きな変化が訪れようとしている。
同社はHumaという名前へリブランディングを行い、その初代取締役会議長に、元英国保健大臣のAlan Milburn(アラン・ミルバーン)氏を任命した。それに加えて、Humaは事業範囲を拡大するために2つのAIスタートアップの買収を発表した。メンタルヘルスに注力したBioBeatsと、心血管を専門とするTarilian Laser Technologies (TLT)である。
契約の金銭的条件は公開されていないが、BioBeatsの買収金額は約1000万ドル(約10億8000万円)だと推測されており、TLTの買収にはソフトウェア資産、多数の特許、そして現在FDAの承認待ちの非侵襲的な方法で血圧を継続的に測定する新しいハードウェアデバイスの獲得も伴っている。
いずれの買収も、Humaがバイオマーカーモニタリングを新たな分野(特にメンタルヘルス関連のバイオマーカーや、血圧に関連するすべての指標)に拡大し、慢性疾患その他の状態のモニタリングに加えて、人間の健康に関する分野に予防的で先を見越した拡大をするための役に立つだろう。
Humaは、その手の届く範囲を拡大するために、パートナーシップの強力なネットワークを構築してきた。スマートフォンでカメラに向かって話しかける様子をモニタリングするだけで、パーキンソン病の進行状況を測定する手法のテストに、Tencentと協力することも行われている。そして、製薬大手のJanssen(ヤンセン・ファーマ)とともに、発話された声に基いてアルツハイマーを診断する手法についても取り組んでいる。また、ロンドンのKings and Bartsや米国のJohns Hopkinsなどの主要な研究病院と密接に協力して、他のバイオマーカーテストを開発している。
しかし、そうした推進をしている初期研究の中には、Huma自身がBioBeatsやTLTが既に獲得済のものと同等の知識とチームを構築するには、何年もかかるものがある。それゆえに今回の買収に踏み切ったのだ。
これは、スタートアップがこの先も進める予定の行動パターンだ。
Humaは現在、英国の医療技術セクターでこれまで行われた調達の中で最大のもののの1つになることを目標に、今後数週間から数か月以内での資金調達に取り組んでいる(これまでで最大のものは、Babylon Healthによって昨年行われた、5億5000万ドル(約590億円)の調達である)。
この資金調達は、事業そのものの運営費用の捻出ではなく、より多くの買収を行うために行われるものだ。Humaはまだ、前回の資金調達(昨年11月にバイエルが主導した2500万ドル(約27億円)のラウンド)で得られたものよりも多くの資金を銀行に保有しており、CEO兼創業者のDan Vahdat(ダン・バーダット)氏によれば、すでに年間の収益目標を達成しているとのことだ(まだ4月ではあるが)。
その力強いビジネス業績を達成できた理由の一部は、新型コロナウィルスによるものだ。Humaは、病院のオーバーフローを防ぐことを目指すCOVID-19トラッカーを3月末に発表した。それはCOVID-19の確定例または疑い例ではあるものの、入院させるほど重症ではない人びとを、入院させる代わりにスマートフォン、スマートウォッチ、その他のデバイスを使用して遠隔から測定を行い、注意深くモニターするシステムだ。モニター対象から上がってくるバイオマーカーが、病気の悪化の可能性を示した場合には、状況が悲惨なものになる前に病院に来るように指示される。
世界中の多くの医療システムが、コロナウイルス感染の流入で限界に達しつつある現在、これは患者流入ををトリアージする試みの1つの方法であり、それは多くの場所で歓迎された。Humaは、数週間以内に複数の国で同社のサービスの公式契約を発表する予定だとバーダット氏は語った。
新取締役会議長のミルバーン氏は、その声明のなかで「Humaと一緒に働き、デジタルバイオマーカーを通じて人体の新しい理解を深め、ヘルスセクターの変革を支援できることを嬉しく思っています」と述べている。「私たちは健康を理解し、病気を診断し治療するための、突破口となりえる手段の非常に初期の段階にいます。そしてHumaは、こうした生命科学分野、イノベーションパートナー、そしてヘルスケアのための新しい有望な分野における、真のリーダーになることができるでしょう」。