アメリカの人気ストックカーレースNASCARは、新型コロナウイルスの影響で中止または延期になったレースをeSportsで代替したところ、それまでのeSportsテレビ中継の最高視聴数を稼ぎ出すなど、その人気のほどを見せつけています。
一方、NASCARの運営団体や各レーシングチームは、ただ休業しているだけではなく、レース用のリソースをこの未曾有の感染症対策に振り向け、医療の現場を支援しています。ノースカロライナ州シャーロット郊外にあるNASCARのR&Dセンターでは、レース用のパーツ製作などにつかう3Dプリンターを活用し、ウェイクフォレスト大学の医師や科学者が、研究の祭に顔面を防護するフェイスシールドを製造し始めました。またNASCAR参戦チームに共通のシャシーコンポーネントを供給するミシガン州のTechnique Incも医療用フェイスシールドの開発製造を行い、その生産量を2万個/日にまで引き上げています。NASCARがフェイスシールドを作ることを決めたのは、Facebookページに依頼のコメントがあったのがきっかけだとされます。
NASCAR R&Dセンターの空気力学担当シニアディレクター、Eric Jacuzzi氏は「NASCARは業界全体、とくにカップシリーズにはマシンやテスト用パーツの製造に長けた世界最高レベルのエンジニアやファブリケーターがいて、いま世の中の人々が必要とするものを製造する装置もあります。つまり、われわれは人々を支援できるユニークなポジションにいると言えるでしょう」
Jacuzzi氏は、NASCAR R&Dセンターで作業を行っている人々がすべてボランティアでやっていると述べました。エンジニアの中には夜9時にやってきて真夜中まで作業をする人もいれば、作りかけのパーツを持ち帰って、家にる10代の子どもに加工を手伝ってもらっている人もいて、家に待機している学生たちに世の中に貢献する機会を与えることにもつながっているとのことです。
ラウシュ・フェンウェイ・レーシングチームは新型コロナ感染の患者を移動する際に周囲にウイルスをまき散らさないようにする"transport box(輸送ボックス)"を開発しました。この透明なボックスは感染者の上半身を覆うようにかぶせられ、医師や看護師が患者にアクセスできるように2つの穴が備えてあります。このボックスによって、患者への挿管時に咳や体液からエアロゾルとなってウイルスが拡散するのを防止でき、医療スタッフの感染の可能性を下げることができます。
ラウシュ・フェンウェイ・レーシングはチーム関係者の親族の医師からこのボックスのアイデアと製造を打診され、その場で支援を決めたとのこと。そしてすぐにプロトタイプを医師の元に送り、そこで出た改良点をすぐさま反映して、先週までに58台のボックスを製造、シャーロットからマイアミまでの病院に納めたとしています。
また、NASCARではないものの米国の耐久レースシリーズIMSA ウェザーテック・スポーツカーシリーズに参戦するコア・オートスポーツチームも、チームオーナーがニュースで全国的なフェイスマスクの不足を知り、すぐにその生産を開始するようチームに指示したとのこと。チームマネージャーのMorgan Brady氏は、このマスクは日に日に評判が高まっており、われわれは可能な限り生産を続けるとコメントしています。
Glad you all are staying safe! Thanks for the love. https://t.co/1XP67XrufW
— CORE autosport (@COREautosport)
April 3, 2020
from Twitter
彼らばかりでなく、モータースポーツ関係者の多くは、現在世界中に拡がっているいる新型コロナウイルス感染症の猛威と戦う医療関係者への支援を喜んで行っています。
たとえばNASCARドライバーのブラッド・ケセロウスキー選手は自身の会社が持つ3DプリンターとCNCマシンを使用してフェイスシールドを製造、同じくNASCARに参戦するチームヘンドリック・モータースポーツもチーム所有の設備でフェイスシールドを作っています。さらに、NHRAドラッグレースチームのドン・シューマッハー・レーシングも所有する3Dプリンターをフル稼働でフェイスシールド用のパーツを作りつづけているとしています。
またチーム・ペンスキー、チップ・ガナッシ・レーシング、スチュワート・ハース・レーシング、JRモータースポーツなどのチームも医療用のマスクその他消耗品をそれぞれ医療関係者に寄付しています。
同様の動きは欧州でも起こっており、英国では研究機関並みの高度な開発能力を持つF1チームが結集して英国政府からの要望に応えるべく人工呼吸器の開発に当たっています。
レーシングチームは指揮系統が明確で、有能な開発者や高度かつ熟練の技術者が多数いるプロのものづくり集団であることが、こうした素早い対応を可能にしているのかもしれません。
ちなみに、先日ドクター中松が発明したとする"超新世代マスクSUPER M.E.N"なるものに非常に酷似しています。医療用フェイスシールドは顔の下側が解放されており、ここからエアロゾル化したウイルスが混入する可能性もあるのか、医療関係者はこのシールドにサージカルマスクを併用しています。"超新世代マスク"も、それだけではなく普通のマスクを併用する方が効果は高そうです。